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海辺の情景

 19XX年11月、友人が旅行に出るというので、その期間に彼らの住居を貸してもらい、数日を過ごしました。San FranciscoサンフランシスコPrecidioプレシディオ、海に近いところにあります。車で10分も走ると海岸です。ビーチで撮った写真で遠くに見えるのはGoldengate Bridgeゴールデンゲイト ブリッジ、この左手にずっと視線を回すと太平洋が広がるわけですが、大きな波が寄せては返し、寄せては返し、冷たい風に打たれながら飽きることがありません。

 波打ち際に沿って歩いていると、波の音が心の底に深く眠っていた思い出を運んできてくれるようです。波頭が砕け、白い大きな飛沫が低くつぶやくような音を立てながら足元に迫ってきます。
 一面が白い泡のカンバスとなった砂浜。
 そのカンバスはやがて、少しだけ空を映して青味を帯び、そうして海水が砂地に吸い込まれた後は、何事もなかったかのように、濡れた砂が広がっています。
 鋼鉄を鋸で切ったような波の痕を残して、砂浜が瞬時眠ります。ふと目を上げると、波頭が砕け再び白い泡が迫ってくる、その単調な繰り返し。
 人生はリフレインだ、そんな当たり前のことを、こうして波の繰り返しを見ていると、理由もなく納得してしまうのです。
 波に寄せられて、葱のような緑色の葉が漂っていました。テキーラの瓶にその葉を1本入れて、エキスを抽出してみるとどうだろう?そして、深夜に一人、そのテキーラを飲んでいると、波の音が脳裏に繰り返すのを聞きながら、物思いに耽ることになるのだろうか、海の底にひっそりと生きる貝のような、小さい頃の記憶がよみがえるだろうか。そんなことを考えていました。

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