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19. パラチのビーチを巡る

陸路のビーチ巡りツアーに出発です。ガイドは黒人の若い青年です。ワゴンを運転しながら、大声で解説を加えてくれます。英語も大丈夫、という触れ込みだったので、まず「Hello!」と言ったら、ニコッと笑って、返事はポルトガル語。あぁ、やっぱり……。このニコッというのがクセモノです。日本人もよくやるので、意味はわかります。「スイマセン、喋れません。だけど、僕たちはトモダチです」という意味でしょう。
僕たちは英語⇔ポルトガル語の豆辞典を持ち歩いていますが、そんなもの使うような状況ではない。とにかく言っていることばを聞き取ろうとしても、速いし、人称変化してるし、よくわからないけれどどうも訛ってる。まぁ、名詞がわかれば何とかなるわい、と思ってワゴン車に乗り込みました。客は全部で6名、僕たち以外は中年夫婦と若い夫婦でいずれもブラジル人。ことばの不便くらい、まぁいいか、こんな田舎に来た物好きが払う代償としては安いもんだ、何とかなる。
車はでこぼこの山道を越えて走り、ちょっとした広場に出ました。そこで車を降りて海岸まで歩きます。細い道を1列に並んでしばらく下っていたら、白い砂のビーチに出た。そこには休憩所まであるではないか。炎天下を歩いたので暑い、まずはビールです。

そこには 500メートルくらいの湾があって、そこで泳いだり日光浴をしたり、勝手に時間を過ごしてください、ということだな、と見当をつけて、こちらはビールを飲んでいるのですが、何しろこの後どうなるのか、不案内なので動きがとれない。尋ねようにも、喋れない。この広いビーチに海水浴客は20人もいたかどうか。そういうのどかな海を見ていると、割合に沖のほうを湾の端から端まで一直線に泳いでいるのは、我らがガイド君らしい。仕事中だろうに結構自分も楽しんでいます。クロールのフォームも豪快に、さすがに若い、一度も休憩することなく泳ぎきったのでした。
湾を泳ぎ切ったガイド君、休憩所へ戻ってきて、「さぁ行きますか」と言ったのでしょうかね、ほかの2組の夫婦が荷物をまとめてワゴンのほうへ歩き始めました。遅れちゃいけない、僕らもバッグを背負って、細い道を登ります。ワゴンに乗り込んだら、さぁ次。でこぼこ道のくねくね道を先へ、先へ。

着いたところは、またビーチ。白い砂の上を、さらに歩きます。ここでも十分きれいなのに、もっといい場所がある、らしい。わけもわからず付いて歩いていたら、若夫婦の奥さんが寄ってきました。
「ワタシ、Eliane と言います。英語スコシ」
なんてことから始まって、タドタドシイことばを使ってコミュニケーションです。
ここで役に立つのが例の豆辞典。何しろ時間はたっぷりあります、ことばに詰まったら立ち止まって、辞書のページを繰って指先で「コレコレ」ってやったら、相手もページをパラパラと繰って「コレ」。おぉ、そういうことか、じゃぁパラパラ、コレ。返事がパラパラ、コレ。おー、なるほど、スゴイスゴイ。意思の疎通なんてまずこんなものです。相手を理解したいという気持ちさえあれば、障害は氷解していく。俄然楽しくなってきました。

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Eliane は愛称でリー、小型のグラマーで、非常に可愛い。ご主人は Roberto、こちらは英語は全然解さない、が、それはいいとして。聞いてみると二人は新婚旅行だそうで、おっと、あんまりリーとお喋りしてると新郎に悪いかな。
目当てのビーチに着くと、ガイド君はさっそく海に入ります。何しろ太陽の下ですからね、歩くだけで暑い。それだけに海が快適です。ガイド君、沖の岩場まで泳いでいって潜水をやってました。僕たちは近場でシュノーケル。その道具をリーたちにも貸してあげたりして。

さて、ガイド君が戻ってきた。リーの通訳によると、貝を食べてたらしい。
「貝を食べてた?」
と驚いてたら、彼はダーッと沖の岩場まで泳ぎ、数回潜ったらまたダーッと戻ってきた。手には小さな巻貝。おー、なるほど、スゴイスゴイ。ガイド君ニコッと笑って、真っ白な歯でその貝をガリッと噛み砕きました。そして、僕に食べよと言う。げっ。拒絶するのは失礼ですからね、食べました。海水で洗って、バッチいところをちぎったら、笑われましたけど。

こんな様子で、この日はビーチを4つくらい回りました。岩に囲まれた海岸で魚を追いかけたり、白い砂浜に寝転がったり、それで汗をかいたら泳いだり。とりわけ何の変哲もない自然の中です、ガイドも不要、地球の反対側くらいのところまでやってきて、観光地を巡るでもなく片田舎の海辺で、ゴロン。そういうところで太陽と水と緑だけが贅沢でした。

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