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岸田政権の裏方に求められる「丁寧さ」

昨日、第210回臨時国会が閉会した。
この国会では、3人の大臣が辞任し、会期中に旧統一教会関連の被害者救済法等を立案、与野党の協議による修正、29年振りの土曜日の国会審議を経て、当初予定の会期での閉会という異例づくめの国会だった。

それでもこの国会中に、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を策定し、29兆円にものぼる補正予算を成立させたことや、新型コロナのワクチン接種が4回目から5回目と進む中で国産の飲み薬の承認などもあって、観光や経済の回復を進めつつも医療逼迫などの事態を招いていないこと、これまでの経済対策などもあって海外主要国に比べた経済の混乱は小幅にとどまっていることなど、政策面ではしっかりとした成果を出していると評価されてもいい。
この間、岸田総理は外交面で、ASEAN、G20、APECなどの国際会議や各国首脳との会談などでしっかりとした存在感を示し、混乱する国際経済・国際政治の舞台ではわが国のプレゼンスを着実に高めてきた。

それでも支持率が上がらないのはなぜか。
私には一つ気になっていることがある。
岸田総理の裏方に「丁寧さ」が不足していると感じる点である。
その「丁寧さ」の不足は、「観測気球の不在」、「身体検査の不足」、「財務省の強行突破」に端的に現れているように思う。


1.「観測気球」の不在

総理は先週、「防衛費の増額は法人税等の増税で補う」という趣旨の発言をし、自民党内でも大きな議論を呼んでいる。
私自身、総合経済対策を取りまとめて総力を上げて景気回復を図らなければならないこの時期に、どうして増税の方針を打ち出すのかと疑問に思った。
また、これから5年にわたって増額していく防衛費の財源を、どうしてこの短期間に拙速に決めようとしているのか、という点も腑に落ちない。
何よりも、こうした政権の命運を決めるような大きな方針を、観測気球もなくいきなり岸田総理が打ち出すことに大きな違和感を持った。

「観測気球」とは、「気象測定などにおいて高空での大気の状態を調査する為に上げる気球」のことであり、転じて、「(比喩的に)世論や周囲の反応などを探るために、わざと流す情報や声明、発表など」とある(コトバンク等より)。
つまり、大きな議論を呼ぶことが予想されるような事柄については、政府の方針を固める前に党の有力者などがその方向の発言をして、世論や党内の反応を見てから、政権の方針固めの参考にすることなどを指す。
これまでの歴代の長期政権では、こうした「観測気球」をうまく使って政権へのダメージを回避しながら大きな政策を決定し、実行してきたという印象がある。
その「観測気球」が岸田政権では有効に活用されていないように思う。
むしろ、岸田総理自身が大きな方針を打ち出して大きなリスクを負い、党や各派閥、何よりも国民から反発を招いている印象がある。

それでも、安倍元総理が存命中は、まさに安倍元総理が大きな政策の選択の中で強い方向性を示し、賛否の大きな議論を巻き起こして、岸田総理はその議論を参考にしつつ政権の大方針を決めていたようなところがあった。
岸田総理自身はリスクになるような発言を控え、むしろ強大な影響力を持つ安倍元総理に対して冷静に政権運営をしている印象を与えて、その安定感から支持率を高めていた。
そこには、当選同期のお二人にしかわからない「阿吽の呼吸」があるように私は感じていた。
逆に、安倍元総理が突然凶弾に倒れてからは、まさにその「国葬儀」の方針を岸田総理自身が打ち出すなど、岸田総理自らが大方針を発表し、賛否というよりも反対の声を直接総理自身が浴びることで、支持率の低下に繋がってきたように感じられる。


2.「身体検査」の不足

上記の通り、この国会では3人の大臣が相次いで辞任し、その後も「政治と金」や政策以外での不用意な発言についての野党からの批判が止んでいない。
私は大臣を任命する前には政治資金の処理や過去の発言などについて徹底的に確認し、大丈夫な議員のみを大臣に任命するものだと思っていた。
つまり「身体検査」である。
今週のPRESIDENTに小泉内閣の秘書官等を歴任された飯島勲氏も詳しく書いているが、今回の閣僚の任命については、そのような手続きをしっかり踏んだとは思えないような任命がなされ、野党やメディアから総攻撃を浴びている。
この国会において、上記の通り着実に政策面での実績を上げているにもかかわらず、政権の支持率の上昇につながっていないのは、こうした政策以外での失点によるものであり、大変残念だ。

ただ、こうした事態は、閣僚を任命する前に「身体検査」を行うことでかなりの部分防げたはずである。
仮に次の内閣改造が近いうちにあるのだとすれば、政策以外の面で岸田総理の足を引っ張られるようなことがないように、今度こそ「身体検査」を徹底すべきである。


3.財務省の強行突破

私は財務省の役人に特に嫌悪感はない。
むしろ、日銀・金融庁に勤務してきた経験からして、各省庁の中でも最も優秀で、最も一生懸命国家のために働いている役人が多いという印象が強い。
その財務省が、近年の政策の遂行においては不用意な「強行突破」が目立つように思う。
昨年からの「1億円の壁」にしても、今回の拙速な「増税方針」にしても、もう少し時間をかけて丁寧に議論を進めるべきと感じることが多い。
「今後中長期にわたって全国民を守ることになる防衛力の強化にはしっかりとした財源の裏付けが必要」という主張には、ほとんどの国民に大きな異論はないのではないだろうか。
しかし、それを増税で賄うという議論を行うことについては、どれだけ政権の支持率が高くても大きなリスクを伴う。
ましてや岸田政権の支持率はギリギリの水準まで低下している。
その背景は、円安や資源高などによる経済的な困窮であり、そうしたタイミングで増税の議論を正面から行うことは、政権の存続をかけた大きな賭けになる。
そうした議論をこの短期間で、拙速に進めようとする財務省のスタンスは、岸田政権を危うくすることに財務省は気づいていないのだろうか。
そのような財務省のスタンスは、与党内にもさまざまな不信感を生み、財務省自身の政策遂行能力にも決していい影響を与えないことに財務省は気づいていないのだろうか。

私は先週金曜日午後の政調全体会に出席したが、その資料は、かなり粗い一枚の図が中心で、とても政権の大方針を決定する大議論を行う理論的な準備が十分になされている印象はなかった。
財務省には「これしかない」という確信があるのかもしれないが、それを実現するためには、丁寧な理論的な準備と、何よりもそれを実現していくことになる政府・与党への丁寧な説明、説得の努力が求められるはずである。
よもや、「増税が実現すれば政権が倒れても良い」と思っているわけではあるまい。
難しい議論が必要な課題ならばなおさら、より丁寧な準備が必要ではないだろうか。


私は、岸田総理は真っ直ぐで信頼できる、人間的に素晴らしい方だと思う。
宏池会の会合などで岸田総理にお会いするたびに、そのことを実感する。
その素晴らしい総理のお人柄は、丁寧な準備と丁寧な運営によって、より輝くのではないだろうか。
そして今こそ、私を含めて岸田内閣を支えるべき全ての関係者が、そのことを改めて認識し、見直すべき時ではないだろうか。

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