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激闘!ポーカートーナメント

初めて六本木のアミューズメントカジノで遊んだ時の感動は、生涯忘れられないものとなった。

わたしはその後もお店に足を運んでは、終電まで遊んだ。来店回数は優に10回は超えていたと思う。

ある日の休日。わたしはあえてお客さんの少ないお昼の時間帯にお店を訪問した。

店内を見回し、ポーカーのテーブルに誰も座っていないことを確認すると、

「すみません、ポーカーのルールを教えてくれませんか」とディーラーさんにお願いした。

わたしが今まで体験してきたゲームはブラックジャックやルーレットなど、すべてディーラーと勝負するものだった。

しかしこのカジノでは「テキサスホールデム」という、プレイヤー同士が対戦するポーカーも体験できる。赤の他人との真剣勝負、これ以上のスリルがあるだろうか。

するとディーラーさんは

「では夕方にポーカーのトーナメントが開かれるので、それまでにルールを覚えて参加しましょうか」と言うではないか。

「まさか。いくらなんでもムチャですよ」

「そんなことありませんよ、始めたばかりで優勝した人もいるし、初心者は考えが読みにくいから、ある意味で強いんですよ」

結局わたしはトーナメントに参加することになった。ディーラーさんからマンツーマン指導を受けると、付け焼刃でルールを覚えた。

テキサスホールデムのルールは実に奥深い。

まず、各プレイヤーに2枚の手札が配られる。(この手札は相手には見えない)

続いて場には合計5枚のカードが配られる(こちらは誰でも見ることができる)。

これら7枚のカードを使って、より強い役を作った人が勝ちというルールだ。

チップのベットはお互いの手札が見えない状態で行われる。そこには高度な心理戦が待っているのだ。

トーナメント開始時間になった。20人ほどの参加者が集まると、3つのテーブルに分かれて座る。

プレイヤーは1人につき$20,000が配られた。多額のチップを前にして思わず身がすくんでしまう。

張り詰めた空気の中、ゲームが始まった。わたしは体の震えを隠すので精いっぱいだった。

試合が始まって意外だったのが、なかなか大きな勝負が起きないということだ。みんな自分の手札が弱いと判断すると、早々にゲームを降りてしまう。

また、強い手札が来たプレイヤーは大きくベットして、他のプレイヤーを勝負から降ろしてしまう。そのためなかなかチップが動かないのだ。

「これでどうやって勝負を決めるんだろう」

そんなことを思った自分だが、やがて大勝負を体験することになった。

ある勝負でわたしは「11・11」のカードを引いた。これは「ポケットペア」と呼ばれる組み合わせで、最初からワンペアができている有利な手札だ。

ここは大きく賭けるしかない。わたしは

「ベット、$1,500」

と宣言すると、手持ちのチップを場に出す。緊張のあまり声が震えた。

するとあるプレイヤーが勝負に乗ってきた。こちらが更にベットを上乗せするも、相手も降りない。

お互いに一歩も引かないままカードをオープンする時が来た。

わたしの勝ちだった。

ディーラーさんは場に出た大量のチップをかき集めると、わたしの元に置いた。

賭け金の総取りである。あまりの興奮に目の前の景色がぐにゃりと歪んだ。

それからわたしは、手札が配られるたびに脳からアドレナリンが出るのを感じた。手札に強いカードが出るだけで、まるで大金を手にしたような興奮を感じるのだ。

しかしそれ以降はパッとせず、なかなか勝負に出ることができなかった。いたずらに手持ちのチップが減っていき、4時間に敗退した。

それ以来、わたしはすっかりポーカーの魅力に取り憑かれてしまった。相手の手札を予想する駆け引き、大金をベットするスリル、そして勝負に勝った時の快感。あまりにも中毒性が高かった。

わたしはプロプレイヤーの動画を見たり、手札によって役が成立する確率を調べたりと、ひたすらポーカーの勉強をした。

しかしなかなか結果は出なかった。何度か大会に出たものの、いつも中盤で負けてしまう。

時にはトーナメントの開始30分で敗退することもあった。勝ち目のない勝負に大金をつぎ込み、大負けしたのだ。恥ずかしくて顔から火が出そうだった。

ようやく結果を出せたのは、ポーカーを始めて3年後のことだった。

わたしはいつものように六本木のカジノに向かい、トーナメントのエントリーを済ませた。

この日は優勝を目指すつもりはなく、「ベスト4に残れたらいいな」ぐらいの意気込みだった。

しかしこの日は異常にツイていた。配られる手札がとにかく強いので、わたしは何度も大勝負を仕掛けた。

気が付けばわたしの前にはチップが山積みになっていた。資金力があれば更に大勝負に出ることができ、ますますチップが増えていく。

トーナメントは6時間続いた。その間ずっと飲まず食わずだったが、全く疲れは感じない。むしろ頭が冴えてくるような気さえする。

残ったプレイヤーはあと1人。彼を倒せば優勝というところまで来ていたが、一つ問題があった。

終電の時間が近いのだ。このまま勝負を続けていたら確実に終電を逃す。

そんな中、手札に「8,8」のポケットペアが来た。うん、もうこの手札に賭けてしまおうか。

「いきます、オールイン」

わたしは手持ちのチップをすべて賭けた。すると相手も勝負を受けた。

場にカードが配られていく。頼む、8より強いカードが出ないでくれ……!

運は最後までこちらの味方をしてくれた。わたしの勝利だ。

「おめでとうございます!」

店内に拍手が巻き起こる。ディーラーさんが記念撮影をしてくれた時、ようやく優勝したという実感が湧いてきた。

しかし喜んでいる時間はない。わたしは店を飛び出すと駅に向かって走り出した。

「何か一つの遊びを極めてみたい」という思いで始めたポーカー。長い時間がかかったがようやく結果を出すことができた。

たとえ遊びでも、真剣に取り組めば得られるものがある。

それがポーカーを通じて学んだことである。

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