見出し画像

大人のあそびのずかん 黄金時代編(2017~2018)

たった一回のカジノ体験でわたしの人生は大きく変わった。そして新しい遊びを体験するたびに、

「自分はバンジージャンプだって跳べるんだ」

「苦手だと思っていたものづくりも楽しめた」

という風に、どんどん自分の可能性が広がっていくのを感じた。

すっかり勢いづいたわたしは、月に一度は新しいレジャーを体験するようになった。多い時で一月に5回のレジャーを体験したこともあった。

エネルギーが無尽蔵に湧いてくるような気持ちだった。常に熱に浮かれたような状態で、仕事も遊びもすべて全力で打ち込んでいた。

自身の体験はブログやSNSで発信した。日本の面白い遊びを一人でも多くの人に知ってもらい、実際に体験してほしかったのだ。

そんなわたしのメッセージは社内にも向けられていた。

当時、社内でレジャーを体験する人はほとんどいなかった。「旅行は好きだけれど、レジャーは敷居が高いからやらない」という人が大半だったのだ。

わたしは彼らとSNSでつながっていたので、積極的にレジャーの魅力をアピールした。しかしあまり反応はなかった。

ある連休明けのことだった。わたしはあるレジャー体験の記事をSNSにアップしたが、ほとんど「いいね!」はつかなかった。

その一方で、女性社員が旅行に行った投稿には100を越える「いいね!」がつくではないか。

「お前らレジャー会社の社員だろ。なのにどうして自分の投稿を見ないんだ」

悔しくてわたしは泣いた。
それでもあきらめずに投稿を続けている内に、応援してくれる人が出るようになった。わたしの投稿に必ず目を通し、「頑張ってね」と声をかけてくれる人が出始めたのだ。

やがてわたしは生涯忘れられない出来事を体験した。

当時、会社では月末になると「締め会」という集まりが開催された。

締め会では部門ごとの営業報告が行われる。それが終わると簡単な立食パーティーが開催され、みんなでお酒と宅配ピザをつまむのが習わしだった。

ある締め会のこと。立食パーティーが始まり、あちこちから談笑の声が上がる。

ふと、わたしの元へある女性がやってきた。

彼女は新卒で入社した女の子だ。部署が違うのであまり交流はないが、静かな声で喋る子、という印象だった。

彼女は決意にあふれた表情をしていた。そしてわたしに向かって

「わたしも、あなたみたいにアクティブになりたいって思いました」

と、力を込めて言った。

こちらが言葉を返す間もなく、彼女は照れ臭そうに去っていった。

胸の中が温かい感情で満たされるのを感じた。この時、今までの自分の苦労はすべて報われたのだ。

ちょうどこの頃、ある大手企業がわたしたちの業種に参画しようとしているところだった。

その会社は誰もが知っているホテルの予約サイトを運営している。そのサイトがレジャー体験も扱い始めるというのだ。

ベンチャーが新しい事業を興して、それが成熟したところを大手がかっさらう。そんなよくある話が自分の身に降りかかって来たのである。

しかし社内で悲観的な見方をする人は誰もいなかった。自分たちなら大丈夫だ、きっと勝てる。そんな自信に満ち溢れていた。

結果から言うと会社は大手の参入にも負けずに生き残った。それどころか大手を押さえつけて更なる成長を遂げていくのだった。

もし、自分の人生に最盛期だとか黄金期といったものがあるとしたら、わたしは間違いなくこの時期を選ぶ。それほどまでに毎日が充実していた。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?