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学びが流通する組織のつくり方

どうも、エンジニアのgamiです。

最近はチームメンバーが増えて僕の業務に余裕が出たことで、これまで手が付けられなかった仕組み化に取り組む機会が増えています。その中で、社内の誰かが構築した仕組みに乗っかって自動化を実現したケースが2回ほどありました。

1つは社内通知の自動化で、似たようなことをすでにやっていた同僚がGoogle Apps Scriptのテンプレートやライブラリを残してくれていたので、かなり楽に実現することができました。もう1つはSlack Botに簡単な検索機能を付けるというもので、こちらも社内ITチームが運用しているBotを使ってほぼNoCodeでやりたいことができました。

チームとして学びを蓄積し、誰もがその価値を享受でき、少しずつみんなで成長して着実に前に進めている。社内の誰かが積み上げた学びに乗っかって楽ができたとき、僕はそんな良い状態に対して誇らしい気持ちになります。

一方で、世にある全てのチームがこうした学びの蓄積と流通に成功しているわけではないようです。「現状の仕組みに関するドキュメントが全く無い」とか「前年にやった施策の詳細を誰も知らない」といった話をよく聞きます。

理想的には「誰かの学びを誰でも活かせるチーム」をつくれた方が、同じことで何度も頭を悩ませずに済みます。そんなチームや組織の状態を実現するためには何が必要なのか、僕の最近の体験を取っ掛かりにして具体的に考えてみましょう。


未来のためにドキュメントを残す

学びが流通する組織の特徴は、3つあります。

最も地味で最も重要なのは、やったこと、学んだこと、作ったものについて各自がドキュメントを残すことです。

僕が社内通知を自動化した例では、似たようなことをすでに実現しているGoogle Apps Scriptのプログラムが社内GitHubリポジトリ上に残っていました。そのリポジトリのREADMEには、Google Apps Scriptの開発方法に関する簡単な手順書も残されています。こうしたドキュメントを大いに活用することで、自分が1から開発するよりも5倍くらいは早く完成まで持っていくことができました。

重要なのは、何かの仕組みや業務フローを作った本人でさえ、半年もすればその詳細を忘れてしまうということです。実際、僕も以前書いたプログラムやSQLを読み返して「全然覚えてねえ」と絶望することがあります。そんなときも、ドキュメントを残しておけば安心です。

また、かつて書かれたドキュメントを再び誰かが読んで活用するとき、そのドキュメントには必ず古い部分や足りない部分があります。それに気付いたとき、僕は自分が書いたものじゃなくても勝手にそのドキュメントを加筆修正するようにしています。最初は雑なメモ程度だったものが、様々な人の手によって重要なドキュメントに育つケースもよく目にします。

まずは未来の自分のために簡単なメモを残しておく。それがたまたま似たようなことをやろうとした他の社員の役に立つかもしれない。そのくらいの気軽さでドキュメント作成に取り組むのがおすすめです。

人間を情報のインデックスにする

一方でドキュメントが増えてくると、「ドキュメントはあるが存在に気付けない」という問題が明らかになります。僕が所属する会社でもNotionやesaやGitHubやDropboxなど様々なSaaSに知見が散らばっており、各サービスの検索機能だけでは最適なドキュメントを探すことが困難になっています。

そんな状況では、新しい取り組みをした人が社内に情報発信することがとても重要になります。「これ〇〇さんが似たようなことやってた気がする」というのを誰もが思い出せれば、その人にドキュメントの在り処を聞くことができます。いわば、人間をインデックス(索引)として使ってドキュメントにたどり着けるようになるわけです。

僕が社内Slack Botの機能追加をした例では、まさに社内で汎用Slack Bot開発をしているメンバーに「どうやればいいですかね?」というのを相談したことで、様々な情報を得ることができました。その人は日頃から社内Slackで「Botにこんな機能が増えました!」という発信をよくしているので、僕としても「このBotのことはあの人に聞けばいいんだな」ということを自然と知っていました。「Botでこういうこともできるようにしたい」という話を持ちかけると、参考になるドキュメントの場所やすでに似たようなことをやっている設定の場所など聞いてもいないことまで先回りで教えてくれて、無事にやりたいことを実現できました。

「社内での情報発信が大事」とだけ言われると、社内評価を得るための自己アピールが大事なのかなと穿って見てしまう人もいるかもしれません。しかし第一義的に重要なのは、発信を受け取るメンバーの頭の中に「この人はこの領域に詳しいのか」とか「こんな取り組みが社内でされているのか」といった淡い記憶を刻み込むことです。その記憶は、各自が何か新しい取り組みをするときに「まずこの人に相談しよう」と思いつく確率を上げ、社内での学びの流通速度を飛躍的に向上させます。

難しいのは、情報発信をしても短期的には効果が出ないということです。たとえば僕の例でも、それまで社内Slack Botに関する情報に対しては「ふーん」と聞き流していました。「これ社内Slack Botでできるかも?」と思ったときに初めて、過去の情報を掘り返して活用するに至ったわけです。ある知見を発信しても、受け取り手がその知見を実際の価値に変えるまでにはタイムラグがあります。そのため「情報発信しても反応が悪い」と感じて萎えてしまうことがよくあります。情報発信には遅効性があり、近い未来に誰かの役に立つかもしれない。そう信じてやり続けるしかありません。

権威を壊し権限を解放する

ここまでの話は、「誰もが大抵の社内資産を閲覧したり編集したりできる」という状態を前提としています。

たとえば僕に社内ドキュメントへのアクセス権限が無かったり、社内Slack Botの挙動を変更する権限が無かったりすれば、その権限を得るところから始めなければいけません。社内情報発信の話も、会議室などクローズドな場所でしか共有されていないのであれば効果は薄いでしょう。

よくあるアンチパターンとして、「他の社員の権限を変更する権限」を独占したIT部門などが社内で権威化し、IT部門にお伺いを立てないと様々な資産へのアクセスができないというケースがあります。こうした状況では、「既存のドキュメントや仕組みを活かそう」という発想が奪われ、誰もが自分たちの箱庭で独自に情報を溜め込んだり仕組みを作ったりし始めてしまいます。

もちろん、個人情報の閲覧権限や本番環境の編集権限など最低限のメンバーに絞った方がいいものはあります。しかし、特に社内ドキュメントや社内業務システムについては、なるべく多くのメンバーが勝手に閲覧したり勝手に編集したりできる状況を作ることが望ましいです。こうした自由が無ければ、自律的に学び自律的に仕組みを改良しようという気持ちが興りません。

ちなみに僕が所属する会社では、然るべきメンバーには「作業中に30分間だけ権限を昇格する権限」が与えられていたりします。これにより、ある程度強い権限であっても自分の判断で一時的に使うことができるようになっています。

ここで重要なのは、問題を最小化するための基本のアプローチ方法が会社によって大きく違うということです。

A. 権威化した部署が各メンバーの操作を事前承認する
B. 自由なメンバーの操作を事後的にチェックする

Aのアプローチは、デフォルトが「禁止」の状態であり、然るべき理由があれば「許可」が与えられます。「問題を最初から未然に防ごう」という意志が強く働き、ある人がある資産にアクセスする理由については事前に合理的な説明が求められます。

Bのアプローチは、デフォルトが「許可」の状態であり、然るべき理由があれば「禁止」あるいは「制限」されます。個々のメンバーを信頼し、多くの資産へのアクセスが最初から許可されています。ここでは「問題は必ず起こる」という前提があり、それを後から振り返って再発を防ぐことが重視されています。そのため、全ての操作内容はログに残るようになっており、問題が発生した場合はログを見て根本原因を推測できる状態が維持されています。

ドキュメントも社内システムも業務フローも、一部の人しか変更ができなければ、すぐに古臭くなって実態とズレていきます。上記Bのアプローチに寄せて「誰もが勝手に編集できる」という状態を作ることで、自律的に学びをアップデートできる組織に一歩近付きます

学びを活かせるカルチャーのつくり方

ここまでで3つのトピックに分けて、学びが流通する組織の特徴を説明してきました。これらの特徴は一見すると、然るべきツールやシステムを導入して然るべき設定をすれば大体は実現できるように見えます。

しかし実際は、ツールなどの手段を用意するだけではうまくいきません。なぜなら、学びを活かすための取り組みには個々のメンバーの自律的な判断が必要であり、そのためには個々のメンバーが自ら考え行動する風土やカルチャーが前提となるからです。こうしたカルチャーは一朝一夕で真似できるものではなく、ドキュメント作成や情報発信を促し高め合う草の根の活動をジリジリと数年かけて広げていくような地味な変化の先にあります。

さらに言えば、組織のカルチャーはその組織や制度や事業のアーキテクチャに規定されます。たとえば情報発信を積極的にしている社員が適切に評価されなければ、その人は情報発信をやめてしまうかもしれません。評価制度、組織設計、ビジネスモデルなどによって、個々のメンバーの創造力が制限されたり意思決定が歪められたりしてしまいます。ここまで考えると、「学びが流通する組織をつくる」と一言で言っても非常に根の深い問題であることがわかります。

とはいえ誰かがすでに積み上げた学びが活用されずに捨てられるような状況では、同じことを別の人が繰り返すばかりで新しい価値や課題に集中することはできません。多くの会社が、少しずつでもこのnoteで書いたような状態に近づくことを願っています。

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