千変万化の語りで惑わす幻想と異形の物語集――津原泰水『綺譚集』

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さて、本日ご紹介するのは、津原泰水『綺譚集』。2008年の本ですが、つい先日再版がかかったので手に入りやすくなっているかと思います。収録作は15編。幻想奇想怪奇残酷恋情、簡単にはジャンル分けしにくい掌編・短編群が、作品ごとに異なる凝りに凝った語りで並んでいる、恐るべき一冊です。そのうち、ホラーカテゴリに分類しやすい作品をご紹介します。

まず、ホラーアンソロジー『異形コレクション』初出の作品から。
「脛骨」は『異形コレクション 屍者の行進』初出。交通事故で片足を失った女性の見舞いに行った男が、事故現場に残されたままだという彼女の足を見つけたくなって……という導入。モチーフのグロテスクさと、ラブストーリーのような抒情性が不思議な調和をもたらします。
「聖戦の記録」は『異形コレクション 侵略!』初出。公園で兎を放し飼いにする老人たちと、ペットの犬を公園で散歩させる主人公との対立が、徐々にエスカレートし、やがて地獄絵図に至る作品です。つまりはご近所トラブルなのですが、読点を一切使用しない畳みかけるような文章と、変な固有名詞(登場人物やペットの姓名がすべて実在芸能人と同じ)によって、マッドな世界が形成されています。
「約束」は『異形コレクション ラヴ・フリーク』初出。偶然から観覧車に同乗することになった少年と少女の悲恋についての物語を、最小限の文章で鮮やかに語り、しかいきなり読者を空中に放り出すような謎めいた記述で物語をひっくり返す(巻末解説で初めて知りましたが、パリノウドと呼ばれる手法らしいです)。本書中最も、自分の記憶に刻まれた作品です。
「安珠の水」は『異形コレクション 水妖』初出。水の中で生まれた、水に沈む奇妙な性質をもつ子供を抱え、海辺を転々として生きる女性の物語。読点が極端に多く倒置法を駆使した文体は、普通ではありえないような言葉の連なりを生み出して、未知の読書体験を与えてくれます。

『ホラーウェイブ』という雑誌が初出の作品「夜のジャミラ」は、小学校でいじめに遭って自殺し、霊となって学校内を彷徨っていた少年の語り。無邪気なセリフ回しから垣間見える残酷さや、学校内での悲劇を吸収し膨れ上がっていく異形の姿に、本書の中で最もストレートなホラー性を感じさせる作品と言えます。
ホラーアンソロジー『悪夢が嗤う瞬間』初出の「アクアポリス」。建設中の海洋博のパビリオンを見学に行った子供たちのうち一人が事故死してしまい……方言を駆使したセリフにノスタルジーをかきたてられる、幻想と現実の間をシームレスに行き来する作品です。
朗読会のために書き下ろされた作品である「古傷と太陽」もホラー色が強め。傷口の中に青空が覗く、謎の男の過去が明かされるうちに、思いもよらぬ残酷な光景が読者の前に現出します。
これらの作品の他にも、絵画の中の庭を再現しようとする男たちが妄執に囚われていく「ドービニィの庭で」、私小説風に始まりながら突如転調し、語り手が死体の隠蔽と損壊に手を貸す「天使解体」、浅い考えで祖父を殺そうとする少女の弟が体験する悪夢「サイレン」など、こちらをぞくりとさせる作品には事欠きません。
一編一編新しい手法を試しているような印象さえ受ける、技巧に満ち満ちた作品集でもありますので、作家志望者にもお勧めの一冊と言えるでしょう。


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