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ジャンプホラー小説大賞について振り返りと展望を聞いてみました

どうも、WEB担当のソラです。
第6回金賞受賞作『ヴァーチャル霊能者K』(受賞時のタイトル「ヴァーチャルウィッチ」)の刊行も迫る中、第8回の募集も始まり、JUMP j BOOKSが主催するジャンプホラー小説大賞も第1回から数えて早6年。
そこで今回は、続編も発売された第2回銀賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』と、第4回にして初の金賞受賞作品となった『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』を軸に、これまでのジャンプホラー小説大賞の印象とこれからの応募作品への期待、今後の展望などを編集部の渡辺さん、添田さんに伺ってみました!

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たとえあなたが骨になっても


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マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に


―――本日はよろしくお願いいたします。

渡辺:よろしくお願いします。
添田:よろしくお願いします。

―――まずは両作品が当時、審査会ではどんな評価だったのかお聞かせいただけないでしょうか。まずは第2回の銀賞受賞作『たとえあなたが骨になっても』について。


渡辺:キャラクターのコンビネーションが良かったです。死んだ後にも謎に取り憑かれている探偵役の先輩と、その先輩に執着を抱いている助手役の主人公というもので、二人がお互いを補い合いつつ、妖しい魅力をもつ危険な関係性になっていると感じました。
作者の菱川さかく先生はそれ以前はファンタジーやSFなどを投稿されていましたが、現代劇を描くことで、より現代の若い読者へと刺さる物語が出てきたという点も評価しました。乙一先生の『GOTH』を初めて読んたときと似たような感覚を抱きました。
菱川さかく先生は、『地獄楽』のノベライズを担当し、今月刊行された『チェンソーマン』のノベライズも担当しております。

―――それでは、続いてホラー小説大賞として、初の金賞となった『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』について伺わせてください。

添田:わたしがいいなと思ったのは、ゾンビという設定がメタファーとして使われているという点でした。主人公は自分が感じている空虚さみたいなものを「ゾンビ」と表現していて、そうした日常の中で主人公は本当にゾンビになってしまう。大学の友人達もどこか日常を持て余して行き場のない感情を抱えている、ある種ゾンビに近い状態として描かれているんです。小説の特性を活かして設定がうまく作られていると感じました。
渡辺:自分が何を書こうとしているのか、企画のどこが優れていてどこを重点的に描くと効果的に読者を楽しませられるのか、ということに対して自覚的な作品だと思いましたね。
添田:審査当時のメモには「すごくよく書けている。面白い」と残ってて、刊行前から作者の技量にしびれてましたね。
渡辺:テクニックと、小手先に留まることなく、最初の1次選考の時点で「最終候補に残せるな」と思うパワーのある作品でした。

――― お二人は賞の審査として作品を読む時、どこを評価ポイントにしているか、伺わせてください。

渡辺:まず、先が読みたくなる導入を提示できているかというのと、それを上手に語れているか、印象深いフレーズやシーンを作れているか、などですね。よく言われる小説執筆のテクニックとして、「1行目から面白くないといけない」というものがありますが、小手先でだけでそれをやって、その後の展開となんの関係もない書き出しになって、物語の中でうまく機能していない原稿も多いんです。そんな中で『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』に関しては、ありふれた1行目から、意外な2行目に繋がって、そのままラストまでするすると読ませられる。そして物語を読み終えると、書き出しの言葉が物語の根幹と繋がって強く印象付けられるという、計算し尽された構成だったんです。
添田:1行目と2行目の構成がうまい作品はその後の内容にも期待が持てますよね。

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『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』の書き出し部分。
試し読みも公開中です。


渡辺:あとはこの小説は短いページ数の中でキャラが多く登場しますが、それでも読者を混乱させないし、各キャラに役目があって物語が破綻していないというのが良いですね。
添田:とにかく文章力が高いなと思いました。キャラクターが多くても破綻していないのは、それぞれのキャラクターの言葉を凝縮して書けるということですし、それに反応するキャラクターも短い言葉できちんと描けているなと。シンプルなやりとりでも、読者がキャラクターをつかめるというのがすごく大事なことだと思います。ホラーとして「死にゆくもの」と「死に向き合う恐ろしさと切なさ」みたいなものがよく表現できていたと感じました。

――― 今回取り上げた2作品ついて感じたことですが、ホラーとは単純に怖がらせるものではなく、そのフォーマットの上に何が載っているかが大事なのかなと思いました。ホラーに限らず物語として、ありえない能力や設定を、読者が自然に受け入れるにはどういうことが重要ですか?

渡辺:それはディテールと語り口がもたらす説得力かなと思いますね。
添田:言葉で嘘をつく商売だから、それができるかどうかが小説家としてのスタートラインに立つということなのかなと思います。

――― それができる、と言うのが前提ということなんですね。

渡辺:「たとえあなたが骨になっても」も、主人公が先輩の頭蓋骨をこっそり持ち運んでいるのですが、頭蓋骨をどこに隠しているのか、どうやってバレそうな状況を乗り越えるのか、という描写があります。そういうディティールをどれだけリアリティをもって描けるかで作品の印象が大きく変わると思います。朝の持ち物検査のシーンなど、どう乗り切るのか? というところを説得力を持って描けていて、読ませるシーンになっていました。
添田:最近、小説であらためて重要だと思うのは「リアクション」です。物語の中で起きている出来事に対して、キャラクターがどんな反応をするか、それがそのキャラクターの反応として自然か。リアクションによって読み手はキャラクターを掴むことができるのだと思います。
渡辺:そうですね、設定についていけないからだめというよりも、むしろキャラクターの心理描写についていけないとつらいですね。普通じゃないキャラクターがいても良いと思いますが、そういったキャラクターにも行動原理、行動の一貫性が見えないと、読者を没入させる難しいと感じることが多いです。
添田:作家の平山夢明先生は「フェイバリットウォッチ」と「ヘイトウォッチ」を意識しているとおっしゃっていました。「好ましいものを見たいという心理」と「見たくはないのだけれど、つい目で追ってしまう心理」というものです。

――― どちらもSNSを見ている時などにありそうです…。気持ちの良い投稿を見たい反面、特定のニュースに対して、好きでもない人の反応を知りたがったり…。

添田:人間の行動として実際にありますよね。執筆する際にフェイバリットウォッチは自然と意識しているかもしれませんが、ヘイトウォッチについても意識してみると良いと思います。
渡辺:その話で言うと、『ジョジョの奇妙な冒険』の吉良吉影や『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨などがそういうキャラかなと思いますが、共感は全くできないのだけど、目を奪われてしまうし、描写として首尾一貫している、「こいつなら確かにこういうことをやりそう」と思わせられることが大事と言えそうです。
ここまでの話ですが、設定、ストーリー、キャラクター、全てが”文章力”に直結している、という結論になりそうですね。

――― ここまで受賞作について伺ってみました。では、実際の投稿作品については、いかがしょうか?

渡辺:気になる箇所、優れた個所がひとつある作品はちらほら見かけても、前述したようなことが実現できている作品はなかなか多くありません。
添田:全体的にもっと磨いてほしいです。書き上げたあとに、うまくいっている箇所とそうでない箇所を冷静に見分けて、うまくいっていない箇所をとにかく磨く。磨けば作品は必ず良くなるし、文章も上手くなるので。

―――投稿前に書き上げた作品を見直し、推敲していくということですね。多くの作家や編集者の方からも同様のお話を耳にします。

渡辺:特にジャンルとして、ホラーは意識せずに書いていると、後半に怖いものを用意していて、前半がすべてその前フリになって退屈になってしまうことが多い。そこは特に気をつけて欲しいポイントになります。
そう言う意味では『たとえあなたが骨になっても』『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』の2作品は、前半も中盤も牽引力と驚きのある作品と言えるかも知れません。
添田:クライマックスまでに盛り込める要素は沢山あります。序盤にホラーとしての導入、中盤にバリエーション、後半に物語の解決に向けて動き出すという基本は抑えておいてほしいです。
渡辺:イヤミス的やどんでん返しものを意識している投稿作はよく見かけます。ただ、最後の切れ味に対して、そこに至るまでがあまり面白く盛り上がれてないというものが多く、なかなか最終候補に残りません。たとえばミステリでも、叙述トリックで歴史に残っている作品って、サスペンス性とかスプラッタ性とかゲーム的な面白さとかの別の魅力で持たせてあるから、そもそもラストが無くても面白いくらいなんですよね。
本当に、ラストが怖いのはどの応募原稿も同じなんです。だからこそ、それ以外をしっかり詰めてみる、というのを意識していただければ。

――― こういうお話は漫画の編集の方からも本当によく聞きます。突飛なアイデアの一点突破よりも積み重ねが重要だと。ところで、このジャンプホラー小説大賞の受賞作は、それほど純粋な恐さを感じる作品が少ないように思います。

渡辺:そうですね、これまでで一番怖かったのは、第一回銅賞の『ピュグマリオンは種を蒔く』ですね。恋した相手を疑似的に復活させるために、主人公がどんどん殺人に手を染めていく。あの作品くらい怖さの筆力を研いでいる人はまだ出てきていないかなと思います。応募作品の中でも、グロとかスプラッターに向かっている作品に関しては及ばないかな、と思ってしまうところはあります。本当に怖くて上手い人のトップというのはごく少数しかおらず、「怖さ」だけで賞を戦おうとするとやはり大変だと思います。

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ピュグマリオンは種を蒔く


添田:今は現実がすごく怖いと感じるので、「ホラーを書いてやるぞ!」って思ってやると、滑ってしまう可能性があるなと。
渡辺:ホラーと一口に言っても最近は、戦慄とか恐怖とかよりも、「畏怖」とかそうした部分に焦点が当てられているものもあるし、ジャンルとして細分化しているので、いろんなことができると思います。
添田:もっと「ホラー」というものを別の角度から捉えたようなものが読めると嬉しいですね。
渡辺:普通の題材だとなかなか残りづらい。

――― 普通の題材って、例えばなんですか?

渡辺:どこかで見たような、ありふれた呪い、ありふれた怪談、とかですね。目新しいアイデアや見せ方のないもの。近年の受賞作は、「毎週死者が条件付きで予告される呪い(『今週の死亡者を発表します』)」とか「Vtuberに憑依して電子機器を操る霊(『ヴァーチャル霊能者K』)」ですから。
添田:思いついたアイデアがどのくらいの射程や深度を持っているかも意識してほしいですね。
渡辺:アイデアの盛り込み過ぎも過積載になる可能性があるけれど、アイデアの出し惜しみはしないほうがいい、というのも言っておきたいです。

――― なるほど。『たとえあなたが骨になっても』は続編が刊行されましたが、そうした続編へ向けたアイデアも用意してると良いでしょうか?

渡辺:あまり意識しないほうが良いと思います。続編が書けるということは、キャラクターが立っているうえに、フォーマットが強固である、という魅力をもっていることの証明だと思います。ただ、これは受賞後に編集側がそういうことを考える可能性はあるにせよ、続編のつくりやすさで受賞を決めることは全く無いです。
添田:もちろん持っていても良いですが、「一作目こそ一番面白いんだ!」という気概をもって応募してほしいです。
渡辺:そうですね、持っていてもいいんですが、やはり出し惜しみをしないほうがいいと思います。

――― 『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』は発売当時の2019年と2021年の今では、読んだときに受け取る印象がガラッと変わっていると感じたのですが、いかがでしょうか。

添田:先ほども言ったように「ゾンビ」はメタファーなんです。『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ』では、ゾンビウィルスが蔓延してゾンビ感染者が日常になってしまった社会で、モラトリアムの最中にある大学生が「孤独や不安とずっと付き合っていく感覚」を高めるメタファーとして、「ゾンビ」や「ウィルス」が表現されています。今読むとそれが現実のウィルスや感染者を想起させてしまうので受ける印象が変わったかもしれませんが、本質はもっと身近で普遍的なものです。
渡辺:普遍的なテーマだからこそ、世の中が一つ動いた時に見え方が変わっていくということだと思います。
添田:そういう意味では、時の試練に耐えうる作品だと思います。時代が変わり見え方が変わることで新たな価値が発見されるのも作品の強度と言えます。
渡辺:ただ、真面目にテーマ、テーマと意識しすぎても面白いものができるかはわからないので、エンタメをやるということを意識してほしいですね。逆に、エンタメを書いているときに、ドラマをどう決着させるかの見通しを立てるためにテーマが見えてくる、というのはあるかもしれません。
添田:社会的なテーマでもいいですが「それを面白くしてやろう」という考え方で取り組むと良いですね。社会問題をシリアスに捉えるというのも当然大切なことですが、それでいかに読み手の感情を掻き立てるのか、そこに受賞のヒントがあるのかなと思います。

――― レーベルとしては今後の目標などはございますか?

渡辺:ホラー小説の読書会がやりたいですね!ホラーというジャンルについて、もっと社会的な注目を集めたいというのが目標です!
添田:第6回ジャンプホラー小説大賞で金賞を受賞した作品も刊行予定ですし、より多くの方に賞を知ってもらいたいですね。
渡辺:長年こうしたホラー賞をやって来たこともあって、わたしもホラー小説を担当し、KADOKAWA出身の作家である最東対地さんの、女子高生怪談師ものホラー『カイタン』を刊行することができました!こちらも是非読んでいただければと思います!

――― 渡辺さん、添田さん、本日はありがとうございました!


第8回ジャンプホラー小説大賞募集中!

『ピュグマリオンは種を蒔く』

『たとえあなたが骨になっても』

『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ ぼくたちの腐りきった青春に』

『カイタン』

第6回金賞受賞作品『ヴァーチャル霊能者K』発売中!!