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第10回ジャンプホラー小説大賞募集開始に合わせ、「第9回を振り返って」「受賞作・最終候補作のあらすじ・選評」「最終候補作一歩手前作品講評」を公開!

間もなく第10回ジャンプホラー小説大賞の募集が開始されます。
それに合わせて、改めて第9回の応募作を振り返るコメントと、受賞作品・最終候補作のあらすじと講評、および、最終候補一歩手間作品の講評を掲載します。既にJブックスHPに掲載した内容もありますが、志望者の方は、ぜひ原稿執筆の参考になさってください。


第9回ジャンプホラー小説大賞を振り返って

ホラー作品はストーリーの半ばで死者・犠牲者が相次ぐことも少なくありません。その効果をできる限り高めるためには、当該の登場人物の退場によって、主人公や近しい人間、何より読者の心が動かされることが大事です。それには、読者が何らかの思い入れをもてるようなキャラクターを描けているかということが問われます。
共感できる部分や性格的魅力があるので退場して欲しくない、とか、非道な人間なので呪いの犠牲になってむしろ爽快感がある、とか、絶対に生き残りそうなキャラだったのに脱落して驚愕させられる、とか、どんな形でもいいので、読者が「ああ、死んだな」とだけで流してしまうような登場人物にしないこと。呪いや幽霊の餌食になってしまうのか、読者が固唾を呑んで見守りたくなるような、そんな人間を描くことが求められます。死の連鎖が徐々に主人公の周囲、失いたくない相手に近づいてくるというオーソドックスな盛り上がりを作ろうと試みても、人物が精彩を欠いていてはその焦りや衝撃も半減します。
ホラーという、恐怖を軸にしたジャンルであっても、大半の作品において、視点となる主人公がラスト直前までは生存するだろう、と読者は何となく察しています(もちろん、それを逆手にとって最初の語り手を物語中盤で死亡させ、読者の予想を裏切る、傑作ホラーも世には存在しますが)。主人公にしばらく安全の保障があるからこそ、脇役であるとか、連作タイプの物語におけるゲストキャラなど、後半までの生存を約束されていない登場人物の造形やドラマを工夫することで、「この人物はどうなってしまうのか」と読者をやきもきさせられますし、展開次第で読者に強い動揺を与えられるでしょう。主人公以上に、脇役の運命は自由度が高いのです。
もちろん、ここまで書いたことは、読者が生死と運命を見届けたくなるような「主人公」を書けることがまず大前提。善であるか悪であるか平凡であるか非凡であるかは問いませんが、その前提は忘れないようにしてください。主人公に関して何らかのどんでん返しをするために、その心理描写が極端に薄くなってしまっている応募作などもしばしば見かけますが、それはどんでん返し直前までの読み心地をある程度犠牲にしていることに留意してください。
ホラーは「人間の恐ろしさ」を描く作品と「怪異の恐ろしさ」を描く作品、及びそのハイブリッドがありますが、「怪異の恐ろしさ」を描く作品であっても、人間の心の機微をとらえ、利用することは大きな武器になるはずです。

受賞作品

◎銀賞 賞金50万円
『死体予報図』P.N.郁島青典
あらすじ
高校生の秀星は同級生の蓮から、未来の姿を合成するAI画像生成アプリのことを教えられる。二人は興味本位でアプリを試すが、出力されたのは惨殺死体となった自身らの姿だった。世間では、アプリの生成画像と合致する死亡事故・事件が相次いでいた。

講評
AIによる画像生成という、最新技術と絡めた恐怖のアイデアをうまく調理した作品。怪異に襲われた時の主人公たちの反応もリアルで共感性が高い。主要キャラの一人が遠方住まいで、最後まで顔を見せないまま活躍するなど現代的なセンスに満ちていた。

◎銅賞 賞金30万円
『君の知らない連続殺人』P.N.日部星花
あらすじ
高校生の唯衣は階段から落ちて過去の記憶を失った。友人を名乗る八上・清水・村上は、唯衣が記憶を取り戻すのを恐れているような態度を見せる。やがて清水が何者かに殺害されるが、その手口は三年前に発生したという連続殺人事件のものに酷似していた。

講評
記憶の無い主人公自身も含めて誰も信用できない状況下で、展開が二転三転し、どんでん返しも用意されていて、読者を退屈させない作品だった。文章も安定していて読みやすい。ほぼミステリーであり、ホラーとして評価するには恐怖の要素が薄く感じた。

◎銅賞 賞金30万円
『幽霊部員、かく語りき。』P.N.結城戸悠
あらすじ
高校生のひまりは、級友が遺した動画の謎を解くために怪談部を訪ね、動画の正体が、自ら生命を絶つことで呪いたい相手を不幸に道連れするという「トモビキ動画」だと知らされる。怯えるひまりは、対怪異のプロとして、幽霊部員のコトハを紹介される。

講評
ポップで好感度の高いキャラに魅力を感じる。四話構成の連作に、それぞれ凝った現象を起こす怪異が登場し、現代の作品らしい密度と読みごたえがあった。キャラ数の多さや、文章の回りくどさなどは、整理した方が読み易くなって読者を広げられるはず。

◎特別賞 賞金10万円
『人形の園にて眠れ』P.N.垂池蘭
あらすじ
霊視の能力を持ちながら、その力を抑え込んでいる大学生の光輝は、祖母の写真店でバイト中に心霊写真を撮ってしまう。数日後、被写体だった少年が変死する。それはかつて、光輝の師であった祖父の命を奪った、「鷹間の屋敷」の呪いによるものだった。

講評
中盤の屋敷潜入以降の展開は、迫る恐怖と、主人公の苦闘から目が離せなかった。呪いを解くための手段の残酷さも印象的で、深い戦慄を残すラストに上手く結びついている。主人公が状況に流されている印象と華の少なさで、前半の引きが弱いことが残念。

◎特別賞 賞金10万円
『偶像のエクソシスト』P.N.祇光瞭咲
あらすじ
〈奇蹟の子〉として高名だが、実は臆病者で悪魔祓いのできないイアン神父は、最強の老エクソシストであるシスター・ヴィオレッタと共に、女子修道院へ派遣される。そこでは悪魔憑きが発生し、最初に赴いたエクソシストは悪魔に敗れ、殺害されていた。

講評
悪魔祓いや修道院の描写などに、知識に裏打ちされたリアリティを感じた。現代の読者からは遠い舞台設定ながら、主人公コンビのキャラの魅力のおかげもあって、リーダビリティの高い作品だった。終盤、もう少しイアンの成長や活躍を描いて欲しかった。

◎特別賞 賞金10万円
『太夫は羽化の時を待つ』P.N.悠井すみれ
あらすじ
ミイラ化遺体で発見された若者・大森拓也は、男性の体で生まれながら女性としての心を持ち、アゲハという源氏名で死の一週間前まで働いていた。その変死の謎を追う刑事・不破は、被害者の故郷に棲む、美貌と引き換えに早世をもたらす蝶の存在を知る。

講評
難しい題材に対して誠実に向き合っており、登場人物の想いが読者に響く、心を動かすホラーになっている。細かい伏線も丁寧に回収しており、作劇も危なげない。年齢が高い読者向けの作品に感じられ、若い読者向けのフックや、目を引く部分を求めたい。

次作に期待‼ 最終候補作

『霊能と詐欺の失敗事例』P.N.饗庭淵
あらすじ
雑誌記者の中岸は、「本物」の霊能者だと評判の松浦に取材する。実は中岸は、自身の妹の失踪に関して松浦に疑いの目を向けており、松浦が「偽物」である証拠を掴む、という真の目的を隠していた。松浦は自身の行ったという除霊について語り始める。

講評
語られる怪異の数々は実話怪談的な手触りをもち、得体の知れないリアルな怖さを感じさせるものだった。各登場人物の正体について、読者を欺くギミックを多用したために、驚きがある反面、難解さに繋がり、キャラの魅力も感じにくかったのが勿体ない。

『指切少女』P.N.亜済公
あらすじ
被害者の指を切り取って持ち去るという猟奇的な連続殺人事件が発生した。それは十年前に起き、迷宮入りした事件と瓜二つだった。「僕」は、自身の彼女であり、十年前の事件の犯人である綾香を匿うが、綾香の姉である文香は「僕」に疑いの目を向ける。

講評
切断された指というインパクトのあるモチーフを使い倒すことで、鮮烈な印象を与える場面を複数作れており、作者の美意識を感じる。登場人物全員に異常性があるため共感性が低く、真相に到ってもかえって怖がりにくいのが難点。構成にも更なる努力を。

『あの死体、どこに隠す?』P.N.猫田佐文
あらすじ
田舎住まいの高校生・愛花と、友人の海、琴美、菜子は、廃工場で、旧友・加世子の死体を発見する。その腕には注射痕があり、覚醒剤による中毒死を疑わせた。通報すれば自分達まで疑われ、進路に悪影響が出ると感じた四人は、死体の隠蔽を画策する。

講評
人間関係が狭い社会で青少年が味わう閉塞感がうまく表されている。危うい友情を肯定するような終盤の台詞に、若い読者に刺さりそうなテーマ性を感じた。死体隠蔽に悩んでいる状況としては引っかかる行動が散見されたので、細部の説得力に注意したい。

最終候補一歩手前作品の講評

メグリくくる「浮森貞江は観られたい」
講評
キャラ造形がユーモラスで魅力的であり、能力を生かそうとする試行錯誤やどんでん返しなど、プロット面でも読者を退屈させない作品だった。最終候補に残せるクオリティ・筆力は十分にあったが、キャラの根幹設定が存命作家の有名作のパロディとして成り立っているという問題があり、商業小説の賞としてはここで落とさざるを得なかった。

明治サブ「いいね♡×1分しか生きられない呪い」
講評
若い読者に受けそうな、現代的でゲーム性のある怪異設定のセンスが良い。生存のための条件が徐々に過酷なものにエスカレートしていくのも上手い。既定のページ数内で大量のキャラクターを描こうとしたために人物造形が記号的になり、過激な展開を描いても、キャラクターの死に重みや衝撃を感じられなかったのが残念だった。

水村ヨクト「テセウスの肉」
講評
主人公カップルそれぞれの過去のドラマ部分に、等身大の若者の心理を描く力を感じた。ルッキズムというテーマとうまく噛み合った怪異も意外性がある。ただし短編向きの怪異で、長編をもたせるには、ホラーとして恐怖度や過激さの不足を感じた。伏線があからさまなため、黒幕や結末などが予測しやすいのも改善の余地がある。


第10回 ジャンプホラー小説大賞は本日2024年5月20日応募開始。奮ってご応募ください。
今後もnoteで応募者向けの記事を掲載する予定です。