「貞子」を生んだ伝説の三部作が迎えた、100%予測不能の結末とは!? 鈴木光司『リング』『らせん』『ループ』

(この記事は、ブログ「ミニキャッパー周平の百物語」2018年5月26日更新の記事を再構成したものです。)

二〇一五年から続いてきたホラー小説紹介ブログ「ミニキャッパー周平の百物語」は二〇一八年八月に一〇〇回目の更新を迎え、遂にタイトルの「百物語」を達成することができました。一〇〇回目のテーマは、記念すべき回にふさわしく、九〇年代日本に爆発的なホラーブームをもたらした作品であり、日本のホラーアイコンとも呼ぶべき「貞子」を生み出した、あのシリーズでした。

という訳で、伝説のホラー、『リング』三部作をご紹介します!

小説に触れていない方は、「えーっと、アレでしょ、『リング』って呪いのビデオテープの話で、貞子がテレビ画面から出てくるやつ」という感じのイメージをお持ちかと思いますが、その理解は、小説『リング』については半分くらいしか合っていませんし(まず貞子はテレビ画面からは出てきません)、三部作全部読めば二十パーセントくらいしか合っていません。今回は『リング』『らせん』『ループ』の三冊を、それぞれ、後半のネタバレを伏せつつご紹介していきます。

第一作『リング』。
雑誌記者である浅川は、四人の若者が同日同時刻に心臓麻痺で死亡した、不可解な事件を追ううちに、若者たちが見た一本のビデオテープを手に入れる。浅川がこれを視聴したところ、具体・抽象織り混ぜた不気味な映像のラストに、「この映像を見た者は七日後に死ぬ、死にたくなければ今から言う通りにしろ」という警告文が残されていた。だが肝心の「死から逃れる方法」が残されるべき部分は、別の映像が上書きされて見られなくなっていた。
浅川は、七日間というデッドラインを背負いながら、呪いを解く方法を突き止めるため、友人である大学講師・高山竜司とともに映像の分析を開始する。やがて浮かび上がってきたのが、「山村貞子」という女の存在だった……。

後世にかなり影響を与えているだろうこともあり、「デジタル媒体を用いて忍び寄ってくる死の呪い」自体は現在では見慣れたものになっているものの、情感のある描写力によって、シーンの怖さはまだ失われていません。また、オカルト的な力の存在を前提にしているとはいえ、ビデオの映像の手がかりから「犯人」を炙り出していく過程は推理ものに近い面白さもあります。それもそのはず、この作品はもともとミステリの賞に応募されたものだったからです。一方で、超常的な力と、ある「病気」を絡めた論理のアクロバットには驚かされ、ホラーとしてのスケール感も感じさせられます。
 
第2作『らせん』。
医師である安藤は、変死体の解剖中に、不可解な肉腫を発見する。他の病院でも、ここ数カ月の間に解剖された変死体の中に、同様な肉腫が発見されていることを知った安藤は、それらの不審死にまず伝染病を疑う。だが、安藤は感染源を探るうちに『ビデオテープの呪い』に辿り着く。そこで、浅川や高山がいかに「貞子」の正体に辿り着いたか、その結果何が起こったかを知ることになる。にもかかわらず、謎は深まる。安藤の周囲で起こっていた事件は、浅川や高山が発見したはずの「呪いの正体」とは矛盾するものだったのだ……

『らせん』で驚愕させられるのは、まず「ビデオテープをみたら一週間後に死ぬ呪い」というオカルト的な解釈しかできなかったものを、「映像の視聴によって体内に『リングウィルス』が発生する」という設定を付け加えることによって、医学的なアプローチから解明しようとするバイオホラーになっていること。そして前作終盤で明かされたはずの、「ビデオテープの呪い」のシステムが全く別のものに変質しており、呪いへの対処法が役に立たなくなっていること。前作を読んでいる読者にこそ、「何が起きているのか」という謎に翻弄されることになるでしょう。一方で、最も「貞子」というキャラクターが前面に登場し、現実と虚構の壁を食い破って読者を恐怖させるのもこの一冊でしょう。最終的には貞子の存在が人類規模の災厄に繋がるという展開のスケール感にも呆然とさせられます。

さて、『リング』『らせん』は映画化されたので、ここまでの内容はまだご存じの方も多いと思いますが、三部作完結編『ループ』は、唯一映画化されていない一冊。

感染性ヒトガンウィルスによって、癌が流行し、終末的なムードが漂っている世界。医学生である馨は、父親が癌に侵され、想い人の息子も癌に侵されているという状況に、苦悩の日々を送っていた。馨は偶然、感染性ヒトガンウィルスの流行が、かつて父親も関与していた人工生命創造プロジェクト『ループ』と何らかの関わりを持っているらしいことを突き止める。『ループ』の実態を暴き、ヒトガンウィルス根治の手段を探ろうとする馨は、運命的な導きによって、アメリカのロスアラモス近郊へ向かう。

……ビデオテープの呪いは? 貞子は? リングウィルスは? 前作ラストで人類を襲ったはずの災厄の行方は? 『リング』『らせん』の読者は読み始めたら、まず呆然とするでしょう。この物語が『リング』『らせん』の続きになるはずがない、という気持ちで前半を読んでいくことになるはずです。時には難病小説のようであり、時には冒険小説のようであり、時にはSF小説のようであり、と様々に変化していく物語は、やがて、まさかの形で『リング』『らせん』との接続を明かしつつ、宇宙の構造の話になり、恐怖と絶望に満ちたホラー小説の最終章とは信じられないような、壮大で感動的なクライマックスを迎えます。

という訳で、日本を恐怖のどん底に叩き込んだ『リング』から、想像を絶する完結編『ループ』まで(このほか、短編集も一冊あります)。怖がりたい人は勿論のこと、「驚異」を味わいたい人も必読。


最後にCMを。貞子のように、時代を変えるようなホラーキャラを書きたいという貴方には、絶賛募集中の第5回ジャンプホラー小説大賞をお勧めします! 6月19日刊行の第4回金賞受賞作、『マーチング・ウィズ・ゾンビーズ 僕たちの腐りきった青春に』も宜しくお願いします!