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第6回ジャンプホラー小説大賞選考を受けての第7回応募者へのメッセージ


現代の若い読者に面白いと思ってもらえる作品を、と言い続けていますが、今回の応募作の中には「アプリ」をモチーフにした作品が数多くあり、競争率が高くなりました。その中で最終候補や「最終候補一歩手前」に残った作品が無いのは、突出したアイデアやゲーム性などの魅力を生み出せている作品で無かったか、着想は優れていてもそれを書くための文章の力や、面白く展開するための作劇力に欠けていたということです。「アイデア」と「それを小説に生かす手法」双方への注力は、どんな題材を扱う場合でも重要です。「アプリ」以外でも、現代の読者が興味・関心を惹かれる題材に目を向けてみてください。今回の金賞受賞作『ヴァーチャルウィッチ』はその解答例のひとつです。

村もの、島ものも今回は多い印象でしたが、たとえば数十年前にも類似作品が存在するような、展開の予想がついてしまうようなものは求めていません。閉鎖状況ゆえにホラーの作劇がしやすいのは確かですが、因習や呪いや生贄といった手垢のついた題材、多くのホラー作家が描いてきた素材を用いるのであれば、よほど斬新な設定や見せ方やキャラクターやシチュエーション、現代の読者に新たな魅力を感じさせる要素を投入しなければ、銀賞以上を受賞することは無いでしょう。

最終候補に残った作品は現代劇ばかりでした。過去の時代が舞台の作品でも全く問題ないのですが(過去にはヴィクトリア朝の屋敷が舞台の連続猟奇殺人ホラーが最終候補に残っています)、今の読者にとって面白いと思えるキャラや設定・魅力、読みやすさへの意識が現代劇以上に大事になります。描写のディテールは、その世界の空気を感じられるほどには詳しく、しかしリーダビリティを削がないほどには詳しくなり過ぎずというバランスを目指して下さい。

実は、明確に「未来、遠未来」を舞台にした作品は、これまで普通に応募され続けているものの、最終候補に残ったことはありません。説得力とリアリティをもって未来世界を描きながら、そこにある恐怖を現代の読者にも通じるように描く、というのを118枚の中で実現するのはハードルが高いのかも知れませんが、自信のある方の挑戦をお待ちしています。

文章の上手な方ほど、事件が起きなくても描写でページ数を持たせられてしまうぶん、展開が遅くなって損をしている例も多く見受けられました。自分の小説を書く際に、「今、書いているパートは本にした場合何ページ目になるのか?」を意識できるようにしてください。118枚上限という制限は、イコール「236ページの本を書く」ということです。「今236ページ中の50ページ目だけれど、まだ派手なことが何も起きていないぞ」ということを考えられるようになったら、読者を退屈させない力が手に入るはずです。

逆に、次々に展開を転がして退屈させないプロットを作っているはずなのになかなか候補に残らない、という方は、物語の説得力を支える心情描写・情景描写両方の文章力を磨くことや、駒になってしまわない精彩に富むキャラクター作りをすることを心がけてください。「この登場人物には救われて欲しい」「この登場人物は裁きを受けて欲しい」「この登場人物は面白い」などの思い入れを読者に持たせられればそれは読ませるための牽引力になります。

下記に、最終候補一歩手前作品の講評を掲載します。

最終候補一歩手前作品

月と皮 せりざわ悠

幻想的な祭りの光景を描く力があり、細部の怪異描写などでも文章が安定し、ムードを作れている作品でした。祭りを通じてもたらされる、ある種の入れ替わりギミックは面白い着想なのですが、作中で濫用されたために、徐々に驚きや恐怖よりも、混乱や煩雑さを生んでしまい、キャラの内面を示しにくい制約もあって、心理についていきづらくなってしまったのが惜しいです。

ロクジュウニの眼 小川瑞貴 

「一クラスが殺し合いをする」というシチュエーションのホラーは数多くありますが、この物語で主人公が置かれた窮地は特異で、次々にピンチが襲ってくる展開もあって、読んでいて退屈させられない、サービス心・エンタメ成分の強い作品でした。一方で、主人公を含む主要登場人物に、倫理的に真っ当な人間がおらず、感情移入を削いでしまう・応援したいキャラがいないことがマイナス材料となりました。

プシケリオン 江戸川Q

ある種の特殊なゾンビが実在する世界設定は目を引き、それを生かした細部のおぞましい描写は丁寧で、ホラーシーンを描こうという意識が強く感じられました。主人公が状況に流されるままに進んでいく印象が強く、心理劇としては良く書けているものの、エンターテイメントとして考えた時に大きな山場・展開を作り損ねて小さくまとまってしまっていることが残念でした。

明治×文豪オカルティクス 藍澤李色

歴史上の有名人物のキャラクターを立てて怪異事件と結び付ける企画は、作品性と同時に「商品としての売り」を考慮できている面で優れていました。説明の文章に比べて描写の文章の比率が極端に少ないという特徴があり、舞台となっている明治時代の情景を頭でイメージしにくい、登場人物の多いシーンで混乱させられる、などの欠点を生んでいました。

君が待つ海へ 悠井すみれ

心理描写・情景描写ともに危なげない筆致で、文章力は抜群でした。偶然にも「島を舞台にした」別の応募者の作品も候補に残っており、最終候補作の座を争った結果、①ホラーとしての「溜め」のシーンが非常に長く事件が起きるのが遅く地味であること ②島と生贄というオーソドックスな組み合わせで現代的な新しさや予想を上回る部分に欠けること が理由で後塵を拝しました。


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