勉強小説2巻カバー入稿

【試し読み】ぼくたちは勉強ができない 未体験の時間割

本日12月4日に『ぼくたちは勉強ができない 未体験の時間割』発売になりました!!
発売を記念して、本編中の序盤の試し読みを公開させていただきます。

勉強小説2巻カバー入稿

あらすじ

文乃、理珠、うるかがアイドルユニット結成!? 文乃が"犬"に!? 田舎で起こった難事件に成幸たちが推理で挑む!? 放課後の帰り道で起こった世にも奇妙な出来事とは......!? 描きおろしピンナップ&イラストも!! 大人気ラブコメの、本編とはひと味違うエピソードをたっぷり収録した小説第2弾、ついに登場!!


それでは物語をお楽しみください。

高みを目指す[X]を阻むは厳たる試練である

 唯我成幸(ゆいがなりゆき)は、一ノ瀬プロダクションに勤める芸能マネージャーである。
「三人とも、今日も張り切ってレッスンに励むぞ!」
 担当するのは、『students』……「諸先輩方、そしてファンの皆さんから色々教えてもらって成長していきます!」という意味をこめて名付けられた新人アイドルユニットだ。その構成メンバーは、三人。全員が、既に事務所の談話室に集まっている。
「はい、頑張りましょう」
 クールな表情でそう返すのは、緒方理珠(おがたりず)。小柄な体軀と、それに見合わぬ『大きさ』のアンバランスさが一部の層にウケているとかいないとか。
「ふわぁ……よーし、やったろー……」
 今しがたまで居眠りしていたのか、あくび混じりに気の抜ける掛け声を上げる古橋文乃(ふるはしふみの)。黒髪美人で『スレンダー』な体形が、一部の層の支持を得ているとかいないとか。
「オッケー! 全力を尽くしてこー!」
 元気に手を挙げる、武元(たけもと)うるか。その裏表のない明るい笑顔に、一部の日々疲れたサラリーマンが癒やしを求めているとかいないとか。
「よし、それじゃあ行こう!」
 三者三様にやる気を見せる彼女たちへと、成幸は満足げに頷く。
 そして彼を先頭に、一行はレッスン室へと力強い足取りで踏み出した。目指すはトップアイドル。この一歩一歩が、頂上へと近づく道のりなのである。
 ……が、しかし。

 それは例えば、ダンスレッスンの際。
「緒方……その、言いづらいんだが……振り付けが、なんていうか……さっきトレーナーさんが見せてくれた動きと、かなり違うというか……」
「なるほど……先程のところ、タイミングが〇・二秒ほどズレていましたか」
「いやそういうレベルじゃなくて……待て緒方、細かい部分の修正に入ろうとするな。今まだ、そういうとこ直す段階じゃないから。もっと根本、いやだから、細かいところを気にするな、リズムのズレとかじゃないから、今そこ繰り返しても意味が、ちょ、緒方、一旦止まって、緒方さん? 止ま……はいストーップ! 一回音楽止めて!」
 フンスと鼻息も荒く細かいズレを修正し続けようとする理珠に、たまらず成幸はパンパンと手を打って声を張り上げた。それを受け、うるかと文乃が音楽を止める。苦笑気味なのは、恐らく成幸と同じ思いを抱いているからだろう。
「なんですか成幸さん、レッスンの邪魔をしないでください」
 不満げなのは、理珠当人だけである。
「あー、なんというか……そうだな、映像で観てもらうのが早いだろうな」
 一瞬どう説明したものかと迷ってから、成幸は傍らのデジカメを操作した。後で見直せるよう、レッスンの模様は常に録画してあるのだ。
「さっきのは……あった、これだな」
 動画を再生すると、そこに映し出されたのは……比較的スムーズにダンスを踊る文乃とうるかに挟まれ、古めのロボットの如き硬い動きを披露する理珠の姿であった。
「ほら、これ」
「……ほぅ、なんとこれは」
 デジカメの画面を見せると、理珠は興味深そうな表情で顎に指を当てた。
「私によく似たロボットの映像ですね?」
「いやお前本人だよ」
 コテンと首を傾ける理珠相手に、成幸は真顔でツッコミを入れる。
「ふふっ、そんなことを言っても騙されませんよ? この短い時間で、動画を加工した技術は称賛に値しますが……」
「いや一ミリも加工の無い、ありのままの現実だよ」
 ここまで謎の自信を漲らせていた理珠だが、再度のツッコミに少し表情が揺れた。
「……本当に、ですか?」
「本当に」
 恐る恐るといった感じで尋ねてくる理珠に、成幸は引き続き真顔で頷く。
 それで、ようやく認めてくれたのか。
「これが、私……」
 絶望的な表情となって床に両手と両膝を突き、落ちこんだ様子を見せる理珠。
「ま、まぁこれから頑張ればいいじゃないか」
 その肩に手を置き励ましてみるも、しばらくは復活しそうになかった。

 それは例えば、ボーカルレッスンの際。
「どーよ成幸、あたしの歌声は!」
 一曲歌い終えたところで、うるかは成幸の方を向いて胸を張る。
「うーん……」
「えっ? ダメだった? どこが悪かったかな?」
 けれど成幸が渋い表情で唸ると、途端に真剣な顔でズズイッと迫ってきた。
「あっ、いや! 歌声については良かったぞ! 本当に!」
 その距離の近さに若干赤くなって目を逸らしつつ、慌てて成幸は手を振る。
 実際、彼女の歌唱力には全く問題はなかったのだ。そう、歌唱力には。
「じゃあ、そのビミョーな表情は何なの?」
「まぁ……そこは、自分で聞いて確認してくれ……」
 ボーカルレッスンでも、後で聞き返せるように歌は全て録音している。不思議そうな顔をするうるかに、成幸は苦笑気味に録音機器を操作してヘッドホンを手渡した。
「ん~……? 音程も外してないし、別に問題なくない?」
「最初の方はいいんだよ……そろそろだな」
 ちなみに今回のレッスンで教材に使ったのは、先輩アイドルのヒットソングである。
 基本的には日本語の歌詞なのだが、間奏中に英語での語りが存在する。
「……ぶはっ!」
 そこに差し掛かったところで、うるかが噴き出した。
「あははっ、何これ~! めっちゃカタカナ英語っぽいし本家と全然違う~!」
 と、一通り笑ってから。
「ってこれ、あたしなんだよなぁ……」
 その表情を絶望的なものに変えた。恐らく、先の笑いも空元気だったのだろう。
「あたし、こんなだったんだ……」
 床に両手と両膝を突いて落ちこんだ様子を見せる、うるか。
「ま、まぁこれから頑張ればいいじゃないか」
 その肩に手を置き励ましてみるも、しばらくは復活しそうになかった。

 それは例えば、水着によるグラビア撮影の際。
「絶望しかないよ……」
 成幸が何か言う前から、文乃は床に両手と両膝を突いて落ちこんだ様子を見せていた。
「文乃、どうしたのですか?」
「あ、あははー……」
 その傍らには、不思議そうな表情を浮かべる理珠と苦笑気味なうるかの姿が。
 二人と対比すれば、理珠は言わずもがな、うるかとの『戦力差』も歴然であった。
「ま、まぁこれから頑張ればいいじゃないか」
「わたしの場合、頑張った結果がこれなんだよ!」
 とりあえず励ましてみるも、文乃は涙目で叫ぶだけであった。

 そんな風に、『students』の活動は決して順風満帆だとは言えなかった。
 とはいえ、成幸としては悲観はしていない。彼女たちであればいつか苦手も克服出来ると心から信じていたし、そのために全力でサポートするつもりだった……の、だが。
「遅引」
 ある日、社長室に呼び出された成幸は開口一番でそんな言葉を向けられた。
 発言者は誰あろう、一ノ瀬プロダクションの社長である桐須真冬(きりすまふゆ)その人である。
「少々、停滞が過ぎるのではないかしら? 唯我君」
「と、言いますと……?」
 鋭い目で見つめてくる桐須社長へと、恐る恐るその意図を尋ねる。
「君の担当する『students』、いつになれば成果を見せてくれるというの?」
 冷たく響く声に、成幸の頰が自然と強張った。
「いえ、その、今はまだそういった段階には無いといいますか、芽吹くのにはまだ時間がかかりそうなので、ゆっくり育てていきたい所存といいますか……」
「放漫ね。生き馬の目を抜く芸能界、そんな心構えでは生き残れないわ」
 しどろもどろに言い訳する成幸に、桐須社長はピシャリと言い放った。
「どうやら、私の方も手緩かったようね」
 その発言に、成幸は嫌な予感を覚える。
「先日『students』が出したシングルの売り上げ、どれくらいだったかしら?」
「えぇと、まぁ、決して良いとは言えませんが……」
「新曲の発売日も、もう決まっていたわね?」
「え、えぇ……レコーディングもまだですけど……」
 話の流れに、成幸の嫌な予感がますます加速していく中。
「試練……次の新曲、前回の百倍の売り上げを達成しなさい。それが出来なければ『students』のユニットは解散、彼女たちはアイドルも引退よ」
「ひゃ、百倍!? 解散で引退!?」
 桐須社長の言は思った以上に厳しいものであり、成幸は思わず叫んでしまった。
「いや、流石にそれは無茶ですよ……!」
「プロダクションとして、利益の上がらない存在をいつまでも抱える理由はないでしょう? 移籍するというなら止めはしないけれど、どこも似たようなものでしょうね」
「うぐ……」
 しかし、正論を返されて呻くことしか出来ない。
「……それに」
 そこでふと、桐須社長が視線を逸らした。
「いつまでも芽の出ない夢を追いかけ続けるのは不毛よ。彼女たちはまだ若い。諦めるなら、早い方が良いでしょう」
「社長……」
 成幸とて、この業界に身を置く人間だ。夢を諦め、引退する人も見てきた。当然だが、引退後も人生は続く。やり直すには早い方が良い、という考え方も理解は出来た。
 桐須社長のこの物言いも、突き放しているように見えて彼女なりの優しさなのだろう。
 そんな風に思った。

 が、それはそれとして。
「百倍かぁ……」
 彼女の課した試練が、あまりに厳しいのも事実であった。
「正直、かなりキツいねぇ……」
「今の私たちでは、どう計算しても達成出来そうにありません」
「あたし、まだアイドル続けたいよぉ……」
 談話室に集まった三人は成幸に事の次第を告げられ、揃って項垂れている。
 部屋の空気はドヨンと淀んでおり、既に引退が決定しているかのようであった。
「ん? なんだ、やけに暗い雰囲気だな?」
 そんな中、談話室に新たな人物が入ってきた。
 小柄な体軀に愛らしい顔立ちは、知らない人から見れば中学生くらいにしか思えないだろう。しかし、実のところ年齢は成幸たちよりも上の十九歳だ。アイドルとしても先輩であり、一ノ瀬プロダクションの稼ぎ頭。『小妖精あしゅみー』の愛称で親しまれている売れっ子アイドル、小美浪(こみなみ)あすみであった。
「まふゆ社長に無茶振りでもされたかい?」
 イタズラっぽく微笑んだあすみに、場の空気がまた一段沈む。
「って、ありゃ? もしかして、マジでそうだった?」
 それで察したのか、あすみは軽く眉根を寄せて頰を搔いた。

「なるほど。前回の百倍売り上げなきゃ引退……ね」
 成幸から状況を聞いて、あすみは納得した様子で頷く。
「ははっ、まふゆ社長らしいな」
 そして、どこか懐かしそうに目を細めた。
「あの……もしかして、先輩も……?」
 その表情からなんとなくそんな気がして、成幸はおずおずと尋ねる。
「あぁ、新人の頃にな。似たような試練をもらったよ」
 あすみが頷くと、途端に『students』の三人の表情が明るくなった。
「ということは、小美浪先輩は試練を乗り越えたってことですよね!?」
 前のめりになりながら、文乃が尋ねる。
「是非ともその時のお話をお聞きしたいです」
 理珠は、鼻息も荒くメモを構えていた。
「必勝法とか編み出したんですか!?」
 目を輝かせて、うるか。
「必勝法、ねぇ……」
 それに対して、あすみは小さく溜め息を吐く。
「そんなものは、ない」
 そして、真剣な表情で言い切った。
「地道な活動を続けて、ファンを増やす。アタシがやったのはそれだけだ」
 珍しい彼女の真面目な調子に、一同息を吞む。
「そんなので大丈夫なんスか……?」
「そんなの?」
「い、いやその、もちろん地道な活動が重要だってのはわかってますけども……!」
 あすみにギロリと睨まれ、成幸は慌てて手をわたわたと振った。
「でも、それだけじゃとても達成出来るような気がしなくて……」
 力のこもっていない成幸の声に、あすみは「ふぅ」と小さく息を吐き出す。
「それで達成出来ないなら、アイドルとしてその程度だったってことさ」
「そんな……」
 突き放すような言葉に、成幸は言葉を失った。『students』の三人も、表情をますます暗くしている。
「でもな」
 そんな中、あすみはニッと笑った。
「逆にここを乗り越えられるなら、トップを目指せるだけの力を持ってるってことだ」
 その目には、優しい光が宿っているように見える。
「まふゆ社長がハードルをそこに設定したってんなら、そういうことさ」
 それを茶化すように、あすみは肩を竦めた。
「実際、アタシもまふゆ社長の試練を乗り越えると同時に一気にブレイク出来たしな……ま、可愛い後輩どものためだ。アタシも一肌脱いでやっから、いっちょ社長が驚くくらいの成果を叩き出してやろうぜ」
 笑みを深めた彼女の表情は、とても頼もしく。
「「「「は……はい! よろしくお願いします!」」」」
 頭を下げる成幸たちの目にも、前向きな気持ちが宿り始めていた。


読んでいただきありがとうございました。

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