【易】意味が分かると怖い話(ストーカー){前編}

??「まったくとんだ災難じゃ!」
陽奈「まあ命に関わらなくてよかったじゃないですか」
??「なにがいいもんか!腰の打撲で全治一ヶ月、これじゃあ商売上がったりじゃ!」
陽奈「でも、怪我のおかげでお孫さんに会えたんでしょ?お店も手伝ってくれて悪いことばかりじゃないじゃない」
??「そりゃー孫と会えるのは嬉しいが、できれば元気な状態で会いたかったんじゃぞ!孫も陽奈ちゃんと同じ高校一年生、まだ遊びたい盛りだろうに...。悪いことをしたもんだ」
陽奈「いいお孫さんを持って、健三おじさんも幸せですね!」
健三「おじいさんとはなんだ!ワシはまだまだ元気じゃぞ!孫じゃがワシには勿体ないくらいできた青年でな!今でもまだ、誕生日会やら結婚記念日やら何かと祝ってくれたり、今日みたいにワシが困った時にも一目散に助けにきてくれたりとても優しい子なんじゃ。本人も忙しいじゃろうに」
陽奈「優しいお孫さんじゃないですか。きっとおじいさんさんのこと大好きなんですね」
健三「ほっほっほ、嬉しいことを言ってくれる。どうじゃ!陽奈さんの彼氏にワシの孫なんて!陽奈さんが家に嫁いでくれればワシも安心じゃ!」
陽奈「まだ私に彼氏なんて早いですから」

私が今話しているのは、海原地区で農業兼八百屋さんを営んでいる健三おじさんだ。部活動の一環で地域でお店を営んでいる方々に話を聞いている内に仲良くなったおじいさんで、地域でも町内会の役員だとかでかなり発言力をもっている人らしい。そのおじいさんのお店が二週間前にバイクに突っ込まれた。お店は閉まっていたのだが、運悪くお店に残っていたおじいさんはびっくりして腰からひっくりかえってしまったとのこと。その時に腰を床に強打し、今は入院中という訳だ。商店街の重鎮が怪我をしたとのことで、商店街では結構話題になっていたらしく、私もおじいさんのお店にいった時に知り今お見舞い中なのである。店に突っ込んだ犯人はまだ捕まっていないらしいが、どうも若者の飲酒運転らしい。酷いことをする人もいるもんだ。

健三「しかし、入院して少しは楽できるかと思ったがくる日もくる日も来客ばっかじゃ。これならここで野菜を売った方が儲かるかもしれんの〜」
陽奈「いろんな人に愛されていますね。」

なんてたくましいおじいさんだ。と思いながらも実際に見舞品の量を見ると全て冗談とも言い切れない。今日だけでもおじいさんの周りには果物やら花やら手紙やらが大量に置かれている。もう置ききれなくなったからか、見舞品が既に周りの床まで侵食しているのである。これが今日だけではなく、毎日きているのらしい。見かねたご家族が毎日持って帰っているとか何とか。以前淳君がこの町は共助で成り立っているといっていたが、このプレゼントの量を見ると改めてそのことを実感する。おじいさんも、老人ばっかりきてもつまらんと口では言っているが声はどこか嬉しそうな感じがした。

陽奈「じゃあ、おじいさん、もう時間なので私帰りますね」
健三「おおー!陽奈ちゃんならいつでも大歓迎じゃ!また来ておくれ!」
陽奈「はいはい、じゃあまた来ますね〜」

所用も終わったことだし、私は部室に戻ることにする。
部室では淳君や智春君が資料の整理をしているはずである。部長の灰崎さんは何をしているかよくわからないが今日は来ないらしい。というか部活説明の日以降見たことがない。本当に部長なのだろうか?
部室に戻ると状況は私の予想と異なっていた。淳君と智春君の他にもう一人お客さんが来ていた。校章をみると高2の女子生徒みたいでスラっとしたプロポーションに長い髪、線の細い顔立ちと年上お姉さんがぴったりの綺麗な方だったが、何やら神妙な面持ちをしている。

淳「あー、結城さん、お疲れ様。健三さんの様子はどうだった?」
陽奈「心配しているなら男子達もきなさいよ。人遣いが荒いんだから。」
淳「男がお見舞いに行っても嬉しくないだろ?」
陽奈「はあー。まあいいけど。で、こちらの方は?」
淳「こちらは2年B組の山野 美沙さん、高等部の方ね。誰かさんみたく中等部と間違えないように」
智春「おい、それは言わない約束じゃないか!?」

智春君は、入学式の日に間違えて中等部に混ざってしまい、それが淳君のツボに入ったらしい。それ以来二人は仲がいいのだが、度々淳君はその件で智春君をいじっている。智春君も別に嫌がっている様子はなく、まあ、このノリはいつものことなので私はスルーした。

陽奈「校章見れば流石に分かるよ。で、どうしたの?もしかして入部希望者?」
淳「それならいいんだがな。残念ながら外れ。悩み相談だな」
陽奈「うちに悩み相談?場所間違えてない?」
淳「まあそういうな。一応この部は生徒の悩み相談も引き受けていたらしい。すっかり廃れた文化ではあるが、せっかく来て下さったんだからできる限り力になろうじゃないか」
陽奈「まあ、それはいいんだけど...。」

よくこんなところに来ようと思ったな、と正直思った。何たって一ヶ月前までは廃部寸前の部活である。しかも相談相手は先生のような大人だ。普通悩みの内容が周囲に広まってしまうんじゃないか?とか頼りになるのか?とか考えそうなものだが。まあ、今までろくな活動をしてないのだし、せっかく頼ってくれるんなら全力で力になる気持ちはあるが...。

淳「ということで、お客様をお待たせするのも悪いし初めて行こう。結城さん、紅茶をよろしく頼む。」
陽奈「ある訳ないでしょ!そう言うのは部費をもらってからにしなさい」
淳「部費がでたらやってくれるのか?メイド姿で」
陽奈「やらないし、ナチュラルに追加要望しないで!」

こんな感じでいつものようにわやわやしていると、

美沙「あのー」
智春「お待たせしてしまい申し訳ありません。今お飲み物を用意しますので少しお待ちください。ちなみにコーヒーとお茶どちらがよろしいでしょうか?」
美沙「あ、じゃあ紅茶をお願いいたします」
智春「承知いたしました」
淳・陽奈「!?」

そういうと智春君はどこからかコップを取り出したと思ったら近くの自動販売機で紅茶を買ってきて先輩にお出ししていた。私と淳君はその手際の良さに唖然としながら見守っていた。

淳「え、キャラ違くない?」
智春「せっかくきて下さったんだ。最低限のおもてなしは必要だろう」
淳「...!!」

珍しく淳君が言葉に詰まっていた。私もここだと言わんばかりに

陽奈「ああ、こうやって女性をスマートに扱える男性って憧れるよね〜」
淳「結城さんに僕をいじる権利はない」
智春「あの二人はいつものことなのであまり気になさらないでください。話づらいこともあると思うので、ゆっくりでいいので落ち着いたら話してください。いつでも大丈夫ですので」
美沙「あ、ありがとうございます。」

嘘でしょ。まじか...。普段の智春君とは違った一面に淳君と二人、あっけにとられてしまっていたが、このままでは何もできずに終わってしまう。淳君と目を合わせて、とりあえず二人は席について話を聞く体制だけはつくることにした。

美沙「相談内容なのですが、ストーカ被害に遭っているので何とかして欲しいというのが相談になります」
智春「それは、とても怖いですね...。」
美沙「はい、怖くて夜道も歩けないですし、安心して眠ることもできないんです...。」
智春「それはつらいですね。学校生活にも影響がでていまいますよね?」
美沙「はい、授業中は眠くて...。でも一番安心できる時間でもあるんですよね。流石に学校までは入ってこないと思うので...。」
智春「学校では安心っていうことは、家では安心できないってことですか?」
美沙「はい、実は家も特定されているみたいで...。私一人暮らしなので...。」
智春「それは、危険ですね。すぐに引っ越すなり親元に戻るなりしたほうがいいと思います。」
美沙「でもそんなお金もないし、私、実家も地方で戻るともう学校に来れない...」
智春「そうですか、それは大変ですね」
陽奈「ストーカなんて最低です!女の敵だ!」

私は純粋に憤りを感じた。か弱い女性を怖がらせるなんて、基本的に女子は力では男に勝てないのに。一方で智春君の聞き手能力にも驚きだ。結構シビアな話だと思うが、話の流れの舵を上手くとって相手に無理させず話を引き出している。これはモテるぞ。智春恐るべし...。
一方で淳君はというと

淳「で、被害はいつからで、何をされたんですか?」

唐突だな...。智春君が警戒させないように話を聞き出しているのに台無しじゃないか。こうゆうところ二人は対照的だなと思う。

美沙「あ、はい。二週間くらい前です。丁度彼氏と別れて...。付き合い始めたときはよかったんですが、だんだんと束縛が強くなって、耐えきれなくなったので別れたんです。初めは、喪失感もあったんですが、ここ最近やっと慣れてきてきて... 。そんな時です。誰かから尾けられている感じがしたのは。他にも家に手紙やラインで知らない人からすごい連絡がくるんですよ。なんか、その、怖い内容が...」

そういうと美沙さんは実際に送られてきたメッセージを見せてくれた。すべてPCで書かれており、筆跡からの特定は無理そうだ。
中身としては、最初は「もう一度やり直したい」という内容だったが、次第に過激な言葉になっていき、最後にはA4用紙一杯に大きく「復讐してやる」と書かれた脅迫文がポストに投函されていたそうだ。手紙の総数は合わせて20通くらいだった。

美沙「でも反応すると相手の思う壺じゃないですか。だから無視することにしたんです...。そうしたら今度は家に入られていた形跡があって...。それからもう怖くて怖くて」

最後の方はその時のことを思い出してしまったのか。泣きながら声をつまらせながら教えてくれた。私は美沙さんの背中をさすりながら、要所要所で相槌をうつ。こういうデリケートな話は慎重に聞きだす必要があるのに...。

淳「状況は理解しました。それで僕たちは何を依頼されるんでしょうか?」

こいつは鬼か。今依頼者泣いてるよね?え、見えてない?
私は淳君を睨め付けるが、当の本人は我関せずと言った感じである。

美沙「取り乱してすいません...。簡単にいうと犯人を捕まえて説得してほしいんです。もう絡まないでくださいって!」
智春「お気持ちは察しますよ。ただ、実際に美沙さんが会うのは危険だと思いますし、何より一学生よりも警察に相談したほうがいいんじゃないんでか?」
美沙「警察には行ったんです。でもストーカーだと被害がでてないから動けないって...。だからここに相談にきたんです」
智春「しかし...」

私と智春君は目を合わせてどういって断ろうかを考えていた。彼女の力になりたいのは山々だが、犯人探しなんて学生がどうこうできる話じゃないし、普通に自分の身も危ない。実際に被害がでてるから警察も全く動かないという訳でもないだろうし、できる限りの対策を教えてもう一度警察に相談してもらうのがいいだろうと、そう美沙さんに伝えようとしたところで

淳「いいですよ、引き受けましょう」

私は自分の耳を疑った。いや、私だけじゃなくこの場にいる全員が驚いていた。なにを勝手に引き受けてるんだ?

美沙「本当ですか!ありがとうございます!」
陽奈「ちょ、何勝手に決めてるの!できるかどうかも分からないし、下手に動けば私たちや美沙さんの身の危険があるかもしれないのよ!」
智春「そうだぞ、淳君の優しさは素晴らしいと思うが、より状況を悪化させる可能性もある。なんでも引き受けるのが優しさじゃないんだぞ」
淳「ああ、そうだな。二人の言う通りだ。だからこの依頼は僕個人が引き受けることにするよ。二人は危険だから関わらなくていいさ」
陽奈「いや、一人でやるって...。そんな危険なこと一人でやらせられないでしょ!それにどうやって見つけるのよ!」
淳「ストーカーなら、誘い出す方法は簡単だよ。それよりも」

そう言うと淳君は依頼者の方を見る。

淳「ストーカーを見つけて、近づけさせないことは簡単ですが、その結果どうなるかは保証できません。それでもいいですか?」
美沙「??はい、ストーカーを見つけてくださるなら大丈夫です」
淳「了解です。でしたら今日はこのまま準備に移ります。ではそうですね。明日の夜8時にこの部室に集合でいいですか?」
美沙「分かりました!ありがとうございます!」

そういうと依頼主の美沙さんは部室から出て行った。それを見て私と智春君は淳君に詰め寄る。

陽奈「で、どうやって犯人を見つけるの?」
智春「そうだぞ、せめて彼氏の名前や写真くらいもらっておいた方がよかったんじゃないのか?」
淳「うーん、どうだろう?確かに彼氏の情報をもらえば、犯人探しも効率的になるんだろうけど、それよりも依頼人に警戒されない方が重要だったからな。元彼の情報は他から手に入れられるかもしれないし」
智春「どう言う意味だ?」
淳「そもそも犯人は元彼じゃないんだ。」
陽奈「え?でも手紙には「やりなおそう」的な内容もあったと思うけど」
淳「そんなの関係を知っている人であれば誰でも書けるさ。それよりも依頼人の中で犯人が元彼でないことが確定しているっぽいのが気になるな。普通に考えて第一候補だろうに」
陽奈「え?どういうこと?」
淳「依頼人は『元彼』を見つけてくれじゃなくて、『ストーカー』を見つけてくれ、っていってただろ?僕が最後聞き直した時もそうだった。おそらく意図的に使い分けている。それが意識的なのか無意識的なのかは知らないが彼女のなかでは元彼とストーカーは別人となっている。これなら智春がいうように元彼の情報をこちらに渡さないことに納得ができる」
陽奈「じゃあ、どうして犯人はストーカーなんてしているの?しかもわざわざ『やりなおして』みたいな...。もしも元彼とよりを戻しちゃったらストーカーしてる意味がないんじゃない?」
淳「そう、この事件の一番の不思議な点はそこなんだ。依頼人の犯人像とストーカーの目的が噛み合ってない。だから事件を引き受けることにした。その理由を突き止めるためにな。そのためには、依頼人に警戒心を持たせたくなかったんだよ」

理由は分かったけど...。やっぱり危険じゃないのか?どう言う理由にしても、危険人物相手にすることには変わりないし...。

淳「で、さっきの犯人を見つける方法だが、簡単さ。僕が美沙さんの彼氏役として一緒にいればいい。そうすれば、犯人も必ず動きを見せるだろう。こちらが隙をつくって油断させたところを逆に捕まえにいく。これには依頼人の協力が必要不可欠だからな。そう言う意味でも警戒心は持たせたくなかったんだよ」
陽奈「ちょっと待って...。何を言ってるの?」

思わず声に出てしまった。いや、言っていることは分かるんだけど、理解ができない。

淳「だから、彼氏のフリをして」
陽奈「うん、それは分かったんだけど!一緒にいるって、どこまで!?」
淳「美沙さんと元彼の距離感がいいんじゃないか?個人的には部屋まで...、痛い!待って!座布団は叩くものじゃない!」

私は無言で近くにあった、座布団で淳君を何度か叩いた。古い座布団だったのか、部屋が埃まみれになってしまい、この場にいる全員が咳き込んでしまった。次からは叩くものを選ぶとしよう。

陽奈「一人暮らし女子の家に入ろうなんて、しかも弱っているところにつけ込んで、最低だよ!簡単に許可がでると思わないでね!」
淳「ちゃんと許可はとるつもりだし、家に入るのだって下心があるわけじゃない!」
陽奈「ふん、どうだか!ていうかもう部屋に入る気満々じゃない!」
淳「そりゃー、今回の事件の解決に一番手取り早いし、この方法なら彼氏の情報もいらいないからな。それにストーカーも入ったんだ。下手に一人でいるときに鉢合わせるよりはいいだろ。それに僕はストーカーよりも安全なんだ、ストーカーが大丈夫なら僕も大丈夫だろ」
陽奈「何も大丈夫じゃない!ストーカーも淳君も大丈夫じゃない!大丈夫じゃないから相談にきてるんだよ!」
淳「何にしてもそれが一番手取り早いんだよ!それなら僕一人で十分に対応できるからな!」
陽奈「他に方法はあるでしょ!?」
淳「そりゃー、地道に聞き込みをすれば分かるかもしれないが、現状元彼の情報もないし、そもそも僕だけで彼女を守りながら事件の調査は物理的に無理だからな。そこまで過信はしてないさ」
陽奈「だったら、私達も協力させてよ!少なくとも例の彼氏のが誰か分かれば少しはマシな方法がとれるんでしょ?」
淳「…」

・・・余計なことを言ってしまった。調査を辞めさせるつもりが、逆に協力することになってしまうとは...。それに例の彼氏を探す方法も全く思いついていない。

淳「まあ、そこまでいうなら説得は後にして、とりあえず元彼探しから取り掛かろう」
陽奈「でも、どうやって?」
淳「まあ、まずは山野さんのクラスから洗ってみよう。こういう話って女子同士で共有されているもんなんだろう?」
陽奈「まあ、そうだけど...。」
淳「2年B組に知り合いはいるか?」
陽奈「え、私が聞きにいくの?」
淳「そりゃー、いきなり見ず知らずの男から話かけられたら怖いだろう。その点、女子同士の方が話が早いし結城さんは顔が広いからな。それにさっき協力するっていったもんな?」
陽奈「まあ、それはそうね...。でもどこまで事情を話せば…。」
淳「その辺はお任せするよ。依頼人にとってはプライベートな話だからな」
陽奈「分かったわ。幸いB組には噂好きの先輩の知り合いがいるから、聞いてみるよ」

なんか乗せられてしまった気がするが、私は元彼調査を引き受けることにした。そのために私と智春君は弓道場に向かう。淳君はその間に美沙さんの護衛の準備と事件の調査をするそうだ。本人は何かあった時にすぐに連絡がつくようにしておきたいからといって明日は学校を休むといっていた。因みに私が調査をする代わりに美沙さんの部屋の件は勝手に動かないことは約束させた。

智春「ここに例の噂好きの先輩がいるのか?」
陽奈「ええ、弓道部の先輩なんだけどね。すごくいい人で努力家の人なんだ。今日も部活ないのに自主練してるんだよ。まあ、ちょっと変わってはいるけど...。」
智春「結城さんは弓道部なんだっけ?」
陽奈「ええ、こう見えても中学では県大会優勝しているんだ。もっとも競技人口も少ないんだけどねw」
智春「すごいじゃないか、生徒会やりながら部活も両立して成績もしっかりとる。口でいうのは簡単だが、それをやり切れるのは本当にすごいことだと思うぞ。」
陽奈「へへ、ありがとう」

頑張ってきたことを褒められるのはやっぱり嬉しい。少しだけ照れてると

広世「ごめん、お待たせ!」
陽奈「広世さん!こちらこそ、急にごめんなさい」
広世「いーよ、可愛い後輩の相談だからね。ところで隣の方は?」
智春「1年A組の青野 智春といいます。結城さんとは同じ部活の仲間です」
広世「はははぁ〜、そうなんだ。私は益子 広世(ますこ ひろよ)です。陽奈とは弓道部で一緒なんだ〜。もしかして陽奈の彼氏?」
陽奈「ちがいますよ!もお!なんでも恋愛に結びつけるんですから!」
広世「そうなの?まあ、高校の人間関係なんて大半が恋ばなだからね!恋バナさえ抑えておけば世渡りなんてどうにでもなるんだよ。あ、これ先輩からのアドバイスね!」
陽奈「そうですか。アドバイスありがとうございます。」

私は先輩のありがたい助言を軽く流す。広世先輩はとにかく噂話が大好きで、特に恋愛話には目がない。普段はいい人で弓道する姿とかも凛としていてかっこいいのだが、恋愛話になると目の色を変えて誰それ構わず飛びついていくのである。それは学園中でも知られていて周りからは親しみをこめて恋愛マスターと言われている。もっとも本人はそう呼ばれていることを誇らしげに思っているし、彼女の場合はただの噂好きだから恋愛マスターと言われているわけではない。

陽奈「早速相談なんですけど、同じクラスの山野 美沙さんってご存知でしょうか?彼女の彼氏さんについて知っていることがあったら教えて欲しいです。」

私の質問に広世さんは少し間をおいて考える。

広世「同じクラスの山野さんね。物静かでクラスメイトと会話してるイメージはないな〜。だから噂話程度で聞いたことあるくらいだけど。」
陽奈「どんな内容でもいいので教えてください!」
広世「ちょっと待って、でもどうしてそんなことを知りたいの?」

私はここまでの一連の流れを広世さんに話した。勿論、手紙は見せてないし詳細は伏せる。

広世「事情はわかったけど、それなら本人に聞けばよかったんじゃない?」
陽奈「まあ、そうなんですけど...」

正直答えに戸惑った。実際にその通りなんだけど、明確に答えることはできない。広世さんは無闇に情報を教えたりしない。それは恋愛のシビアさを知っていて、一つ情報の取り扱い方を間違えるととたんに自分の信用を失うことだと理解しているからだ。だから広世さんから情報を教えてもらうには彼女が納得できる理由を言わないとと思っていたが

広世「まあ、別に教えてもいいよ」
陽奈「え、いいんですか?でもどうして?」
広世「ええ、まあ本人から直接聞いた情報じゃないから真偽は不明よ。ただ2年生の間では結構有名な話なのよ。だから、情報ランクとしては高くないのよ」

広世先輩は自分の持っている情報をランク付けしている。ランクによって誰なら話していいか、だめなのか、どこまで使っていいかを本人の中で基準として持っているらしい。ただの噂好きであれば、面白がって他の人に話すが、広世先輩はそうではない。情報の取り扱いには細心の注意を払い、闇雲に言わず当人含め全員が幸せになるための手段になるときだけ利用するらしい。だからか、彼女の元には恋愛相談が多く来るし、質の高い情報をもった彼女は的確なアドバイスができる。時には彼女自らがキューピット役となることもあるそうだ。噂によると、広世さんがキューピット役になった時のカップル成立率は100%らしい。だから、彼女のところに恋愛相談は尽きないし、その結果情報が多く集まり、難しい相談にも的確なアドバイスができるようになり、更に周りから情報がもらえるというスパイラルが出来上がり、結果として恋愛マスターとして崇められている。もっとも本人は自分の恋愛には興味ないらしいが。

広世「山陵学園って知ってる?そこの1年生と付き合ってたみたいだよ。校門の前で一緒にいるところを内のクラスの娘が見かけたんだって。山陵の制服の人と山野さんが一緒にいるところを」

山陵学園といえば、都内の公立高校だ。ここからだと大体1時間くらいかかるから一緒に帰れなくはないけど...。

広世「それを見た時間が部活終わりとかじゃなくて普通の下校時間だったから彼氏はどうやってきたんだろ?ってなって少し話題になったんだよね。時間的に来れないだろうし」
陽奈「それを見たのって一回きり?」
広世「内のクラスの子が見たのは一回だけだけど、山陵学園の男の子が女子生徒と一緒に帰っているって噂は元々あったんだ。」
陽奈「そのころの美沙さんの様子ってどんな感じでしたか?」
広世「うーん、特に変化はなかったと思うよ。ただ、美沙さん二週間前から学校休んでたんだ。だから今日来てたって聞いて内心すこしびっくりしたよ」
陽奈「え、学校来てなかったんですか?」
広世「うん、だから彼氏と別れたショックで来れなかったんだと思えば辻褄があうね。時期も被ってるし」

私はその話を聞いて智春君と目を合わせた。確か美沙さんは、安心できる場所は学校だけと言っていたとはずだが...。
といいながらも広世さんから美沙さんの彼氏の情報を手に入れられたのは大きい収穫だ。山陵学院には知り合いもいるし、もしかしたら元彼の特定までできるかもしれない。私達は少しの手応えを感じて部室に戻った。

淳「ふーん、思ったよりも収穫があったな。」
陽奈「でしょ!これなら明日までに彼氏も特定できるかもしれないね!」
淳「そっちは、引き続き頼みます。それよりも彼女が学校に来てないっていうのは本当なのか?」
陽奈「ええ、その後も同じクラスの人に聞いてみたんだけど本当に美沙さん学校にきてないみたいだよ。学校しか安全な場所しかないっていってたのに変だよね?」
淳「それもそうなんだけど、もっと気になることがある」
陽奈「え、何?」
淳「彼女、家に入られた形跡があるって言ってたよな?」
陽奈「あ、そうか。でもだったらどうして...?」
淳「まあ、一先ず役割分担だな。僕と智春は彼女の行動を追うことにする。結城さんは引き続き元彼を追って欲しい。」

そうして私達の今日の活動は幕を閉じた。


【問い】
・淳が気になった違和感は何か?



【回答】
入られた形跡があるということは、彼女は外出しており、帰って来たときに部屋に違和感を感じたということ。ではストーカに狙われているときに、学校を休んでまでどこにでかけたのだろうか?一度疑問に気が付くと美沙さんの行動に違和感がでてくる。美沙さんは一体何の目的で行動して、どうして嘘をついてまで依頼をしたのか?その理由は後編に続く。

【作者から】
今回も長文を読んでいただきありがとうございました!元々1話で終わる予定だったのですが、気がついたらボリュームが多くなってしまい、前後編に分けることになりましたw
やっぱりコメディをいれたり、依頼の下りをいれると長くなってしまいますね。本作は単純な短編というわけではなく、淳達の学園生活も書いていきたいため、どうしても長くなってしまいます。でも陽奈と淳とやりとりとかは書いててとても楽しいですw読者の方々は読んでてクスってなりますでしょうか?少しシリアルな展開の中にちょっとした日常を入れるとどこか緊張の糸を解して笑いに変えられたらいいなと思っています。
では、本日も長文になりましたがここまで読んで頂きありがとうございました。


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