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交渉力は、向上する。原則その2:事前準備としての「状況把握」「ミッション」

交渉力の話第2弾です。

前回、交渉の原則は以下の3つであり、交渉における論理的思考はどのように展開するかについて書きました。(「交渉力は、向上する。原則その1:論理的思考力」

交渉の原則
1. 論理的思考
2. 事前準備
3. 創造的選択肢

今日は2の事前準備です。これがやることがたくさんあるのです。

事前準備の5ステップ

『戦略的交渉入門』(田村次朗・隅田浩司著、日本経済新聞出版社)が勧める、交渉の事前準備は以下です。

事前準備の5ステップ
1. 状況把握
2. ミッション
3. 自分の強みを探す
4. ターゲティング
5. 合意できなかったらどうするかを考える(BATNA)

私がやっていることを交えながら、1つずつ見ていきます。

状況把握

自分および交渉相手を取り巻く状況を客観的に分析することです。自分・相手の利害関係者をリストアップし、また交渉を取り巻く外部環境(業界や地域の情勢等)も、業界ニュース等を参考に情報収集します。そして、その内容を図式化しておくとよい、と『戦略的交渉入門』は述べています。

私は交渉の準備として、同書を参考にしつつ、以下のようなポイントを状況把握の際にまとめるようにしています。

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例えば、私が最近販売提携の交渉を行った海外スタートアップのA社。これまでの会話や調査から得られた情報を交渉前にまとめると、以下のような感じになりました。

【相手社内】自社技術に誇りを持ち、エンジニアも多くいて製品はよいが、営業人員が少ない
【競合・業界】自国では営業体制が整っていない故か、競合と比べて業界内のシェアを広げられていない。そのため日本では強力な営業体制がある企業と提携したいと思っている
【提携先/関係者】日本の専門商社であるX社が、最近A社と話を始めている
【相手社内】A社のCEOは技術畑出身。CSO (Chief Strategy Officer)が営業・マーケティングを統括しており、CEOではなくCSOに話をしないと進まない

この状況把握から、販売提携の交渉時には以下の基本戦略を取るのがよさそうと整理できます。

・本格的な交渉時には必ずCSOに出てきてもらうよう面談をセットする
・自社の営業体制が、他社(特に専門商社のX社を意識しつつ)と比較してどのような優位性があるのか、それがA社にとってどのような価値があるのかを詳しく説明する

相手の置かれている環境を把握すると、どの交渉ポイントが有利に相手に刺さりそうか仮説を立てることができます。これが事前準備として状況把握を行う意味だと思います。

ミッション

交渉の事前準備で必要なこと2つ目、ミッションの設定。交渉におけるミッションとは、「この相手とのこの交渉で実現したいこと」です。ポイントとしては、短期的・局地的な視点でのミッションではなく、長期的かつ包括的なミッションとするところでしょうか。

例えば、小売業者の当社は、製品Aを取り扱っているY社と、製品Aの取引について交渉をしているとします。当社としては、「製品Aは競合他社の製品と比べて品質もよく、当社としてはぜひ取引をしたい。そしてY社とは、製品Aの取引だけでなく、今後は他製品の取引の話もしていきたい」という思惑があるとします。この場合、製品Aの交渉でどのようなミッションを設定するとよいでしょうか。

例えば以下のようなミッションになるでしょうか。

当社が顧客提供価値として一番大事にしている「品質とスピード」をY社にきちんと理解してもらう。また、こちらもY社の製品品質を担保するための取組み等を十分に理解する。
そして「品質とスピード」をまず製品Aで実現していくための条件を両社で協議し、納得いく条件で合意する。

Y社と長期的なよい関係を築いていきたいので、両社の基本姿勢と具体的な取組みをまず互いに理解しあうという目標を立てます。そして、当社が実現したい価値(「品質とスピード」)を担保するための条件を、交渉でY社と協議していくというミッションとしました。

このようなミッションがあると、実際に交渉の場面に立つ際に、相手から説明してもらう内容・当社から重点的に話す内容が明確になります。また、「品質とスピード」が第一優先と設定しているので、それが担保できるのであれば、例えば「価格」は多少相手に譲ってもいいという心づもりができます。交渉の際は、相手から色々な話が出てきて、交渉の軸を見失いそうになりがちですが、ミッションを設定しておくと、迷った時に立ち戻れる判断軸として機能します。

次回は、事前準備の3ステップ目、「自分の強みを探す」です。

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