勝利するべく箱根温泉へ。

下校途中の生徒がちらほらといる陽落ち前の電車内。

会話に「正解」なんてものはないものの、そこには確かに「正解」が存在しているように感じる。
受け入れられる安心を得るため、確実に受け入れられることを敢えて不安気味に問いかけたり、お互い一致した感情を増幅させることで間を埋めているような、そんな形式的な会話が飛び交う気味の悪い空間で、わたしは「高校中退」という自分の学歴に激しく納得して眠りにつく。


今日も撮影だったのだけれど、わたしは第一現場でバレていいとのことだったのでこんな時間の帰宅なのである。


早帰りという状況と、そんな気味の悪い会話は家庭訪問週間を思い出させたが、ここにいる学生たちからすると早帰りでもなんでもないデフォルトな下校時間なわけで。
いつの間にか、流れていく時間が、日常が変わっている。


目が覚めると、窓から見える陽の落ちきった景色にだいぶ時間が経ったことを感じた。そしてなにより、さっぱりとしすぎた目覚めに寝過ごしたことを確信した。

渋沢というところであるらしい。
とりあえず降りてどうやって帰ろうかと調べると、小田原駅まで1度出るべきだとGoogleに指示を受けた。
渋沢駅というとピンと来なかったが、小田原駅と言われればなんとなく自分の状況が掴めた。
小田原駅。それは箱根温泉に行く時に経由する駅である。


「なるほどね。箱根温泉に寄って帰るべきってことね。」


イレギュラーを幸福に対応できるようになって、生きるということを少し楽しめるようになった気がする。

中空きの有効活用にいつも全力なわたしは、いつも隙を見つけては周辺のよさげなカフェへ足を運んでいたが、最近は銭湯に行くようになった。
打ち合わせ帰り銭湯。お食事帰り銭湯。
そして今日、撮影帰り箱根温泉。

1人でお湯に浸かりに行くようになったのは、まあまあ最近のことである。

20231204 (1人温泉デビュー)
わたしがまだ眠っているお昼頃、「銭湯に行ってくるね。」と、これから家からいなくなることを知らされると、それになんだか戦闘心を燃やされわたしは「じゃあわたし箱根の温泉行ってくる。」とお布団の中から宣言した。

特にどこに行くかも決めていないし、そもそもどこらへんに何があるのかも知らないけれど「箱根の温泉」というだけで、わたしははっきりと「勝った。」と思った。

有名そうな温泉を調べてみる。行く宛ては決まらないけれど、とりあえず箱根湯本駅ってところまで辿り着けばなんとかなりそうだったので、とりあえず家を出る。

不自然な速度で移動する自分にいつも通り違和感を持ちながらぼーっと電車に運ばれていると、さすがにもう少しちゃんと調べた方がいいのではないか?という正気がふと思考を遮る。
ちゃんと行く宛を決めて、ちゃんと経路を調べてみたら、箱根湯本駅に辿り着いてもなんとかならなそうな感じがした。わたしの苦手なバスをつかうらしかった。頑なにバスに不安のあるわたしは、歩いて行けるっしょ。と思ったが、なんかちょっと行けなさそうだった。

箱根湯本駅に着くともう既に暗い。
かまぼこを揚げたやつみたいなのを買って食べて、また買って食べながらバス停へ向かう。
真っ暗な山道をずっと走るバスに運ばれながら、やはり歩いては行けなかった。と思い、正しい判断をした自分を褒めてあげたくなった。

バスから降りて、わたしとは犬猿の仲であるGoogleマップに指図されながら坂を下る。
暗い、寒い、怖い。
ちょうどチェンソーマンをみたわたしには、「怖い」と思うことで魔力は強くなるという設定が反映されているので、怖がらないようにがんばった。


あぁ、妖怪ウォッチとか観ておけばよかった。



坂を下ると、閉じた大きな門の前に「臨時休業」の看板。せめてネタになれ。と写真を撮って引き返す。

帰りのバスが来るのは50分くらい先らしいのでタクシーを呼んだが、到着予定時刻から大幅に遅れ、タクシーはバスと同じくらいに到着した。
今のところ、かまぼこを揚げたみたいなやつがすごくおいしかったことしか喜べることがないぞ。と焦りながらタクシーに乗り込み、そのまま別の湯屋まで運んでもらった。

温泉に浸かりながら、どうにか満足度を高めこれまでのことを取り戻したい。とぼーっと考えるが、とりあえずいろんな湯に浸かることしか思い浮かばなかった。


満足度を上げるべくまた次の浴槽へと移動すると、サウナの前でなにか誘導があった。
「〜〜〜の方、本日最終です。もう扉閉めます〜。」みたいなことを言っている。これまた人気アイドルの握手会現象であり、なんの方をお呼びしていたのかは分からなかったが、わたしは電車でも閉まりそうな扉をみるととりあえず急いで乗り込んでしまう人間であるので、とりあえず急いでサウナに駆け込んだ。
スタッフの方がなにやらディズニーキャストのように説明を始めた。「ロウリュウ」というやつをやるらしい。
「パフォーマンスは、わたくし〇〇が〜。」と自己紹介を始めたので、これってパフォーマンスなんだ!!?と思ったが、こちとら既に汗がじんわりとしている中、スンと澄ました顔をして大きなうちわで熱風を扱う様子を見て、たしかにパフォーマンスである。と思った。


帰り、駅内にあるBECK’S COFFEEの「濃いココア」という看板に惹かれお店に入ったが、「濃い」と言うのを忘れて、ふつうのココアを頼んでしまったのが悔しかった。


While Writing
『Tele/バースデイ』

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