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靴下をはかされた猫。

わたしという人間は、暇になると美意識に磨きがかかる。つまり、年末から自由という名の暇を持て余してに持て余しているわたしは今、最高に美意識が高いのである。

今日は念願のマシーンピラティスに行く。
少ない店舗数なのに、家から電車で5分というご近所に店舗があるらしかった。
なんてハッピー者なのだろう。


13:00起床。窓から外を覗き雪を観測。
隣の部屋からは、雪が降っていることへの感情を増幅させようという意図がバレバレなほどにわざとらしく、しっとりと落ち着いた音楽が流れているのが聞こえる。

外に出ると、さっきまで「雪」「白い」「きれい」「積もった!」といった解像度で雪を認識していた脳内は「寒い」「しゃばしゃば」「滑る」「もう帰りたい」という解像度で「雪」を上書きした。


物事の解像度を高めることは大事であると思うが、物事の解像度を高めることで味わう寂しさを受け入れる覚悟もまた大事であり、なにより難しい。
ある時わたしは東京タワーが視界に入ると、綺麗だなぁ。と思って、それをもっと大きく見たくて、近くで感じたくて、吸われるように赤く光る東京タワーをめがけて歩いた。
手を伸ばせば触れられるところまで来た時、見上げてみるとそこには鉄骨しかなくて「近づきすぎないこと。」そう思ったのを覚えている。


庭を歩き振り返って見ると、健気にわたしを追ってくる足跡が愛おしかった。

余裕を持って家を出たけれど、写真を撮っていたらその余裕もあまりなくなってくる。

自分の蹴ったしゃばしゃばが靴の中に入ってくる事を恐れるわたしは、靴下をはかされた猫のように、忍び足のように落ち着いていながらも、運動会の行進のように勇敢な足取りで駅まで向かう。
チラチラと時刻を確認し焦りはするが、わたしは靴下をはかされた猫である。いつもなら間に合わないと思えば全力で走るが、今日だけはそうともいかない。
やっとのことで駅前の踏切が見えてくると、カランカランカランカランと鳴り始める。あと何回カランカランと鳴ったら棒が降りてくるのかを把握しているわたしは、すぐそこにゴールがあるのになかなか届かない焦れったさにドラマを感じていた。

降りかかる棒を避けるように腰を丸めて踏切を渡り切る。靴下をはかされ腰を丸めた不格好な猫がドヤ顔をしている。

幼い頃は張られているゴールテープに身体を突っ込むように走っていたのに、社会というのは何事も間に合うように滑り込んでいくものであると気づくと、猫は唖然とした。


到着すると更衣室に案内される。
壁の入り組んだところの手前側、つまりはおおよそ死角であるところのロッカーに私物を詰め込み着替える。
着替えを済ませると、置いてあったカップにウォーターサーバーの熱湯と水を混ぜてお白湯をつくりスタジオに持っていく。カップにはスタバの5倍のクオリティで「足元お気をつけてお帰りください♡」という文章と、「我にこそ相応しい日じゃ!」と言わんばかりに両手を上げ喜んでいる雪だるまのイラストが描かれていた。
描き溜めではない、まさに今日とマッチした内容が描かれているそれをみて会員料金の高さに納得する。
水族館のお姉さんみたいなトレーナーさん。
レッスンはこれまた人気アイドルの握手会現象であったが、所々聞こえる単語を元になんとなく理解してそれっぽく真似をしてみる。
今年はフィンランドに旅行に行きたいわたし。すっかり英語を使わなくなったわたしは、所々聞き取れるかな。くらいになってしまった英語力に不安を抱いていたが、日本語ですらこんな感じであるならたぶんなんとかなるのではないかと、思わぬ所で背中を押される。


更衣室にReFaのヘアアイロンが置いてあるのを発見。買おうか迷っていたので練習がてら試しに使ってみる。たぶんいい感じ。



帰り道、誰かの蹴ったしゃばしゃばがわたしの靴の中に入った。


「....クソゥッ!!!」


靴下をはかされた猫は睨む宛が定まらない。

While Writing
『きのこ帝国/You outside my window』


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