新しい習慣の合言葉。

ストレッチを受けに行く。
今までは家から近い店舗で予約していたのだが、知らぬ間に閉店していたので違う店舗を利用させてもらうことにした。

20240106
とりあえず指名なしで予約をする。
ありがたいことにわたしは、美容院も、ネイルも、まつげも、眉毛も、整体も、美容皮膚科も、全て「安定」に辿り着いていて、「通う」という習慣化されたものによって心を波立たせずに生きていられている。

これから始まる担当探しはまさにギャンブルである。



案内を受けると色々質問されるので色々答えた。

わたしは不調を訴えながらも自分の不調をていねいに解説した。幼い頃から不調続きで病院や整体に通っているわたしは、自分の身体をよく理解しているのである。
「それは反り腰で下半身の筋肉が上手に使えてないらしくて。」
「おしりの筋肉が硬くて坐骨神経痛らしくて。」
「首のこりが酷すぎて自律神経にもよくないらしくて。」
モテない理由を的確に分析している人間のようで恥ずかしささえ感じた。

最後に力加減を聞かれた。
「痛くても全然大丈夫なので、良くなるようにお願いします。」
身体が楽になればなんでもいい。これがわたしの理念なのだ。担当者は、
「お。そしたら、モリモリやらせていただきます!」
と気合いを見せる。

筋肉をほぐす擬音に「モリモリ」って使うんだ。


施術中は大抵生活習慣の話をされる。

食事にはすごく気を使っています。コンビニやお弁当も多いですが。
睡眠時間はすごく長いです。徹夜とか3時間睡眠とかも多いですが。

プライベートや仕事のことを隠そうとしながら話すとあれもこれもが矛盾する。
まるでなぞなぞの出題者。

そんな矛盾で溢れたヘンテコ生活を答えると、「もしかして、エンジニアとかですか?」と聞かれた。
残念ながらハズレであるが、この曖昧な回答からピンポイントな職業を名指しされたので少し驚いた。7つの扉のルールをあまりわかっていなくて、1つしか質問していないのになぜか自信満々に回答する子供のようだ。
話を聞いてみると前職がITエンジニアだったらしく、わたしの矛盾で溢れたヘンテコ生活は彼自身に覚えのある生活であったのだという。数年前、オワっている生活習慣のあれこれで身体を壊し、ここのストレッチを受けたら「すげえ!」となって、転職してきたらしい。
わたし、こういう話だいすき。

そんな背景のある彼だと思うと、たしかに隅々から意欲を感じるように思う。
意欲・関心・態度A評価である。


しばらくすると、「初回では絶対やらないんですけど、僕のオリジナル技やっていいですか?」と聞かれた。さすが意欲・関心・態度A評価。研究熱心である。
「あ、ぜひぜひ。お願いします。」と答えたが、チェーン店の施術で「オリジナル技」なんてものがあるのか。

「ここ痛いですか?」
「はい。」
「ここ痛いですか?」
「はい。」
「ここ痛いですか?」
「はい。」

すると「全部ですね!」と言い、肩甲骨の内側にある筋肉全てをガシッ!!と掴んで、グオングオングオングオン!!!と♾字に引っ張るではないか。
(この話を友人にしたらスゴいウケたのでうれしかった。)

イッテェエ!!と思ったが、こりが解されているのをしみじみと実感する。

しばらくグオングオンされていると
「すごい!全く動じないですね!」
と感心された。

ありがとうございます。というのはなんか変な感じがしたが、なんて答えれば良いか分からず、わたしはグオングオンされながら「んへへ。」と笑っておいた。

今思うとその「んへへ。」は、余裕の笑みをこぼすというハイレベルな煽りだったのではないかと心配になったが多分考えすぎである。


後から、「初回では絶対にやらないんですけど。」というのは、「指名の人にしかやってあげないんですけど。」という意味ではなく、「ふつうのメニューで痛がって声を上げる人にはこんなことやれるわけないんですけど。」という意味だったことを知った。

そんな調子でひたすらモリモリされた。

2日間ほど好転反応で筋肉痛を起こしたが、それから肩こりを気にしない生活が続いた。
オリジナル技グオングオン(勝手に命名させていただく。)は抜群の効果であった。


20240203
前回の担当者を指名した。
オリジナル技はオリジナルであるので彼を指名する他ない。

「今回もモリモリで大丈夫ですか?」
彼の変わらない擬音から、新しい習慣が始まるのを感じた。

「モリモリで。」


モリモリ、わたしたちの合言葉。


While Writing
『クリープハイプ/鬼』

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