The 5th Floor、はじめの一歩を振り返って
わたしは美術・音楽作家としての活動を軸にしながらも、同時にアートスペースを仲間と立ち上げて運営している。
このたび、そのスペースである「The 5th Floor」が、美術手帖2021年2月号「ニューカマー・アーティスト100」に注目の新進スペースとして取り上げられた。
これはよいタイミング!ととらえ、「何を大事にして一年目を過ごしたか」をつづろうと思う。
東大・藝大のあいだの5階
「The 5th Floor」は2020年2月に誕生した、東京は上野周辺、根津・池之端エリアにあるオルタナティブスペースである。
東京大学と東京藝術大学とのちょうど中間点に位置するこの建物は、戦後からこの地域を支え続けているスーパーマーケット「赤札堂」の社員寮であった。
半世紀が経ち、今度は地域の若い才能を支えるべく「花園アレイ」とリノベーションされた。
われわれは、この5階部に拠点をかまえ、501、502、503号室の3部屋と、時折、1階エントランス部や5階バルコニー部を用いて展覧会やワークショップを開催している。(写真:渡辺志桜里 + 渡邊慎二郎「Dyadic Stem」展(2020年夏)より渡邊慎二郎「棕櫚の散歩」)
キュレートリアルな遊び場を目指して
The 5th Floorはアート界における次世代スターの出現を後押しせんと運営している。
スターと言っても、アーティストはもちろんだが、キュレーターを大事にしたい。あるいはキュレーションそのもの、とも置きかえていただいてよい。そう考えていることが、他のアーティスト・ラン・スペースやオルタナティブ・スペースとの差異点であり、特色ではないだろうか。
おそれずに言うと、アーティストが作品制作を主たる活動とするならば、キュレーターは展覧会企画が主たる活動である(もちろん研究・執筆業も主たる活動であるが)。
アーティストが「これまで誰もみたことのない作品をつくりたい」と想うように、キュレーターも「これまで誰もみたことのない展示をつくりたい」と考える。
そのために、The 5th Floorは、作品表現・空間演出・展示設計を「誠実さを保てるかぎり」自由に、かつ大胆におこなえるようサポートする。
[渡辺志桜里 + 渡邊慎二郎「Dyadic Stem」展(2020年夏)502号室展示風景]
2020年は展覧会を6、ワークショップを2、トークセッションを2、オープンイベントを1実施し、作家20人とキュレーター5人に参加いただいた。
まず「ここで何ができるのか」を探る時期とさだめ、元社員寮、という他に見ない場所性をどう活かせるのか、実験をおこない、じつにユニークなアイデアが数多く実現された。
参加していただいた皆々様にあらためて感謝を申し上げたい。
新型コロナウィルスの影響も小さくなかったが、初年としては上々であったように想う。
自由に、誠実に
自由に、大胆にサポートしたいからこそ、自らにも周りにも誠実でいようと心がけてきた。
「正直、アーティストという方々は自由活発に、悪くいうと無責任に好き放題しているイメージがあり、あまりよい印象がない」
そう伺ったのは、The 5th Floorを立ち上げて間もなく、地元の関係者にご挨拶まわりしていた最中である。
たしかに、そのじつ少なくない、と感じる。本筋には関係ないが、美術手帖2021年2月号のなかでニューカマー特集と並んでハラスメントにかんする議論がなされるところに、編集の意図があるのやもしれない。
アートというのは、人の社会にある数少ない、正解を出さなくてもよくて、人と価値を増幅し共有できる、開かれた世界であると信じている。
その自由さを保とうと、The 5th Floorはなるべく「あたりまえのことをあたりまえにやる」よう心がけたい。
周囲と丁寧にコミュニケーションをとる。
問題がおきたら(おきそうなら)隠さずすぐ共有する。
責任をとれる体制をととのえる。
など。
あたりまえのことは難しい。私じしん、これらをしっかりできているかといえば、まだまだ成長する必要がある。
(関係者のみなさま、できてもないのにえらそうなこと言ってすみません。。)
最後に
オープンから約1年。立ち上げ準備からかぞえると、約1年半ほどが経った。
まだそれほどの時間は経っていないのに、世界各地でも、The 5th Floorでも、仲間の身でも、自分の身でも、大きく地面が揺れている。
それぞれが、それぞれの、ゆるやかなつながりの中で支え合えるように、次の一年も大事にしていきたい。
あらためて、この1年をやり遂げるにお世話になった皆さま|特に理事の髙木遊、堀久美子さん|キュレートリアル・パートナーのHB.というか三宅敦大|小泉さん|花園アレイの阿南さん、コミュニティ・マネージャーのえいたくさん、こうやさん|参加していただいた作家・キュレーターの皆さま|施工・デザインを支えてくださった皆さま|SANIWAの皆さま|DO-PA-MINの皆さま|に感謝を申し上げたい。
キュレートリアル・パートナーのHB.チーム(2020年夏)
Jukan
「次元の衝突点」展の設営を半ばに京都へ向かいながら
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?