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もうひとつのショパンコンクール

ショパンコンクールにはもう一つのコンクールがあった?

前回長くなって書けなかった
「もうひとつのショパンコンクール」について書きます。

NHK BSで放送された、前回2015年大会のショパンコンクールを裏で支えた調律師たちの奮闘を描いたドキュメンタリー番組の再放送です。

ショパンコンクールに出場することはピアニストにとって今後の大きな飛躍となりますが、各ピアノメーカーにとっても出場ピアニスト、まして入賞者が弾いてくれることは会社にとっても大変名誉なこと。

1人でも多くのコンテスタントに自社ピアノを使ってもらうこと。そして自社ピアノを使ったコンテスタントを優勝させること。
華やかな舞台の裏側では、実は会社の看板を背負った調律師やメーカーの奮闘があったのだ!という内容です。

2時間ほどの番組ですが、めっちゃ面白かった。
録画しなかったことを後悔しています。


コンクールで使用されるピアノ


前回も今回も、ショパンコンクールで使用されたのは次の4つのメーカー。
【YAMAHA】日本
【STEINWAY】アメリカ
【KAWAI】日本
【FAZIOLI】イタリア

コンテスタントには4つのメーカーを引き比べる時間が与えられ、自分に合ったピアノを選ぶことができます。途中からメーカーを変えることも可能です。
真剣なまなざしでピアノを吟味するコンテスタント、その様子を離れた客席から各メーカー担当者が固唾をのんで見守っていました。

ショパンコンクールのピアノを担当する調律師は、各メーカーが自信をもって送り出す腕利きの調律師。
なんとこの放送の前回大会では、全4社のうちSTEINWAY以外の3社は日本人調律師でした。
こんな大舞台で活躍されるなんて、同じ日本人として誇らしい気持ちです。
(ちなみにSTEINWAYの調律師はポーランド人で、ショパンコンクール会場であるワルシャワフィルハーモニーホールの常任調律師。勝手知りたるピアノと会場でちょっと優位すぎるのでは?と思わなくもない・・・)

決勝でYAMAHAが快挙!ところが・・・


前回大会では、決勝出場者の10名のうち7名がYAMAHAを選択。
残り3名はSTEINWAY。

ピアノ界の絶対王者STEINWAYを超えるとはこれはすごいことです!
過去の優勝者はほとんどSTEINWAYですし(ちなみに今回2022年はFAZIOLIでした)、多くのピアノユーザーにとって「ピアノの最高峰」と認識されているメーカーでしょう。
その証拠に、世界の主要コンサートホールで使われるピアノのなんと98%がスタインウェイ社なんだそうです。

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一方、日本が誇るYAMAHAは、腕利きの調律師チームをショパンコンクールに送りこみ、ピアノもショパンコンクールのために制作された渾身の1台で臨みます。

今回YAMAHAが、ファイナリスト10名のうち7名に支持されたのは、YAMAHAのピアノがコンテスタントの表現や好みにマッチしたこともきっとあると思いますが、YAMAHAの営業努力も無関係ではないはず!

というのも、YAMAHAはコンクール期間、全コンテスタントの宿泊部屋に電子ピアノを無償で提供したそうです!
輸送代、搬入搬出費、諸々どれくらいかかるの😵

この電子ピアノ、異国でなかなか練習場所を確保できないコンテスタントにとっては、時間関係なく弾ける電子ピアノはとてもありがたいのではじゃないでしょうか。
「少しでもYAMAHAのピアノに触れてほしい」とTVで語ってましたが、コンクールへの意気込みの強さを感じます。
(ちなみに、今お世話になっている調律師さんがYAMAHAから独立した方で、この話をしたら「いや~内部では表に出ないことが色々あるんですよ~今だから言えますけどね」と言ってました。どの業界も裏では色々あるのねきっと。)

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さて、7人がYAMAHAを選択という快挙に担当者もビールで乾杯!
ホックホクの笑顔だったのですが・・・

なんと、本戦直前になってYAMAHAを弾く予定の2人がSTEINWAYに替える、と言いだします。

STEINWAYに替える決断をしたコンテスタントによると、
「次は(決勝は)オケとの共演なのでより華やかな明るい音がでるSTEINWAYにしたい。」
とのことでした。

これでYAMAHA:STEINWAYが半々になりました。

STEINWAYについて

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このコンテスタントは曲によってピアノを「弾き分けた」ということだと思います。
次はソロではなくオケの中での演奏ですから、冷静で理解できる理由だと思いました。もちろんYAMAHAはショックだったと思いますが、YAMAHAのピアノが悪いと言われたわけではないんですよね。

私は腕試しと興味本位から後にも先にも一度だけコンクールにでたことがあります。

コンクールは福岡の田舎にあってモダンな小さなコンサートホール。
そこに導入されてたのがSTEINWAYでした。

当時中学生でしたが、もう一音弾いて違いにびっくり仰天!(←古い?)
こんな指に吸い付くような弾きやすさ、反応の良いピアノに初めて出会いました。
しかもあなたとは初対面なのよ!って感じで。
「おおーー!これが世界のSTEINWAYかー!」と。
ピアノでこうも違いがでるのかと感動したことを覚えています。

ちなみに、コンクール結果はというと・・・
スポットライトバーン!浴びたら指を置くところがわからなくくらい緊張して見事撃沈w
先生のところに戻る足取りがまぁ重たいこと・・・
でもあの時は挑戦することに意味があったし、何より、生STEINWAYで演奏できたことはとてもいい経験になりました😊


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STEINWAYの強さの秘密


世界中のピアニストから圧倒的な支持を集めるSTEINWAY。

調べてみると、創始者のドイツ人スタインウェイさんがドイツでピアノ作りを始めて、その後アメリカに移住して起業した経緯があるそうで。
現在、製造工場はニューヨークとハンブルクにあって、STEINWAY自体はアメリカの会社と認識されているみたい。

世界三大ピアノの一つ、ベヒシュタインもドイツ製。
やっぱりドイツは職人(マイスター)の国だなーと思います。
(はい、ドイツびいきです😆)

そういった歴史も踏まえて、STEINWAYがこれほどに広く支持されている理由はなんだろうと考えてみました。

一つ思ったのは、YAMAHAからSTEINWAYに替えたコンテスタントが言っていたように、STEINWAYの音はコンクールなどの大きな会場に負けない力強さと華やかさがあるのだと思います。
それはSTEINWAY自体がヨーロッパの気候に合ったピアノなのだと思うんです。

日本を代表するYAMAHAやKAWAIも近年認知度・実力ともに世界中で知られていますが、それでも海外で苦戦するのは、カラッとしたヨーロッパの気候ではそのポテンシャルが十分に発揮できないからではと思います。
これは前回記事にした「ピアノのムシ」でかじった知識ですが、ピアノに使われる木材もその国に自生したを使っていることが多いそうで、ものすごく繊細なレベルの話になるけどそういったことも音に影響するのではと。

私も海外に行くと、水は合わんし肌は乾燥して髪の毛ボサボサになるし・・・人間でもそうなんだからきっとピアノもそうなんじゃないかな。
もちろんメーカーもそんなことは重々承知の上で製品作り、調律をされているでしょうが、優れたピアニストはその繊細な違いも聞き分け、感じ取れるのではと思います。

前回大会の結果


長くなりましたが、

前回の優勝は、韓国の「チョ・ソンジン」さん。 
使用ピアノは、STEINWAY。2位の方はYAMAHAでした。

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そして1位は逃したものの前回大会で大躍進したYAMAHAは、今大会(2021年)では2次予選で姿を消してしまいました!
これはちょっとびっくりでした!この結果の裏にも「いろいろ」があったのかもしれませんが。
ちなみに優勝者のBruce Liuさんの使用ピアノは「FAZIOLI」で、このピアノも素晴らしい音色でした!

今回の番組はコンクールを調律師、メーカー視点から見たもので、
普段知ることのないショパンコンクールを支える方達の仕事を覗きみることができて新鮮でした。
どんな世界もこういう表には出ないプロの方々の素晴らしい仕事の上に成り立っているんですね。

ヤマハもカワイもFAZIOLIも、どれもそれぞれに素晴らしい個性を持ったピアノなんだと思います。その繊細な違いを聞いて弾き分けるコンテスタント達もまたすごい!
どこまで違いが分かるのか、いつか贅沢に弾き比べてみたいな~

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