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妻からの贈り物 (Hasselblad 907X 50C)

昨年還暦を迎えました

2019年9月還暦の誕生日、妻からの贈り物は温かい言葉とハグと羊足の煮込料理でした。
今年の誕生日も(料理は違いますが)同じでした。
「僕は毎年君にプレゼントをあげているけれど、君からはずっと手料理だね。おいしいけど(モグモグブツブツ)」
「じゃあ好きなカメラを買いましょう」
感動の涙がとまりません。ここは無限列車の夢の中ですか。

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どのカメラにしようか

生年の1959年製のカメラだとフィルムカメラになります(この年に作られたLeica M3を1台持っています)。
僕はカメラコレクターではありませんし、フィルムカメラは使う頻度が年々低くなってきているのでこれ以上いりません。
デジタルカメラで何かないだろうか。
そこで頭に浮かんだのが、ハッセルブラッドでした。

1969年、アポロ11号のアームストロング船長が人類史上初めて月面に降り立った時、その胸にはハッセルブラッドのカメラが取り付けられていました。有名な月面の宇宙飛行士(オルドリン)の写真はこのカメラで撮られました。貴重なフィルムは地球に持ち帰られましたが、無事地球に帰還するための重量制限からカメラは月面に残されました。つまり半世紀経った今もハッセルブラッドのカメラは月面にあります。

2019年、このアポロ11号月面着陸50周年を記念して907X 50C Special Edition “ON THE MOON SINCE 1969”と言う特別なカメラが発表されました。還暦の年に因んだ素敵なカメラです。
しかし年を越えて今年5月29日にようやく発売されたこのカメラは数量限定で予約だけで売り切れました。

その代わり、その普及版が先月9月1日に予約開始、9月18日に発売になりました。うん。真っ黒なスペシャルエディションより、往年のハッセルブラッドにより近いクローム仕上げの普及版も悪くない。というかこっちの方がかっこいい!

もう一つこのカメラを使ってみたい強い理由がありました。このカメラはファインダーがなく、背面のモニターを跳ね上げて、上から覗いて写真を撮ることができます。
旅先でストリートポートレートを撮らせていただく時、大きなカメラは威圧感があり相手が身構えてしまうことがあります。素早くできるだけ自然に撮らせていただけるカメラを考えて辿り着いたのが、今使っているM型ライカでした。
しかし上から覗くスタイルは、相手の緊張をもっとほぐせそうな気がしました。そして何より両目で大きなモニターを見ながら撮影できるのは老眼でも使いやすそうです。

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ここまで長々と読んでいただきありがとうございました。
すべてこじつけです(笑)
要するに907X 50Cというカメラが欲しかったんです。

年をとったから遊ばなくなるのではない。遊ばなくなるから年をとるのだ。
バーナード・ショー

遊ぶための情熱は大切です。

907X 50C探し

妻から「プレゼントに好きなカメラを選んで」と言われて直ぐ、Hasselbald 907X 50Cを探し始めました。
しかし使いにくい変態カメラなのに、世界中で大人気でした(同好の士がたくさんいてとても嬉しいです)。
・ハッセルブラッド東京
・香港、アメリカのハッセルブラッドを扱うショップ
・ドイツ、フランスの友人たち
などあちこちに問い合わせましたが、どこも多くのバックオーダーを抱えていました。
少なくとも半年は待つ覚悟を決めました。

一方で、カメラが届いた時にレンズがないと意味がないので、カメラを探し始めたのと同時に、このカメラ用のレンズもオーダーしました。
こちらはアメリカから直ぐに届き、レンズを眺めるだけの辛い日々が続きました。
このおあずけ状態が半年は続くだろうと思うと耐え切れず、先月末に907X 50Cと同じセンサー、同じ画像処理LSI、同じマウントのHasselblad X1D II 50Cという兄弟機種(ただし上から覗けるタイプではない)のアウトレット品に手を出してしまいました。
するとそれを見計らったかのように、友人のひとりが奇跡的に907X 50Cを1台確保してくれました。
なにこの展開。
(X1D II 50Cはすぐに去っていきました)。

お礼

Andrewさん、本当にありがとうございました。
そしてこのカメラを買ってくれた妻、ありがとう。

使用開始

10月16日金曜日、907X 50Cが手元に届きました。

記念すべきファーストショットは、51年前から月に置かれたカメラを思い、妻に「月が綺麗だね」と言いながら月と妻を撮ろうと決めていました。
しかし調べてみると、この夜はちょうど新月でした!
世の中はどうしてこんなにネタに満ちているんでしょう。

妻の写真を撮って気がつきました。広角系レンズで、近距離から被写体の目の高さにレンズをあわせると、カメラは自分にとっても目の高さにありますから水平にしたモニターを上から覗く事はできません!
モニターを上から覗いて近距離の人物を撮るには、カメラを下げて見上げた写真を撮るしかありません。

以前Rolleflexで上からファインダーを覗いて撮ってましたが、その時は80mmという画角からある程度離れて、ひたすらファインダーだけ覗いて撮っていたのでしょう。この事態はまったく想定していませんでした。
「腰の位置にカメラを構えて、上からモニターを覗きながら格好良くポートレートと撮る」自分の素敵なイメージは夢と消えました。
いやいや、望遠系レンズで離れて撮れば、見上げる画角が緩くなりイメージ通りできるでしょうか(レンズ沼的思考)。

風景写真

10月17日土曜日、手に入れた翌日、中判向きだろうとまずはオーソドックスに風景写真を撮ることにしました。
雨でした・・・

夜になっても降っていましたが夜景を撮りに行きました。

ストリートフォトグラフィー

10月18日日曜日、雨が止んだので、愛用のM型ライカで一番よく撮っているストリートフォトグラフィーを907X 50Cで撮ってみました。

最短撮影距離

M型ライカは(接写用マウントアダプターやマクロレンズもありますが)基本最短撮影距離が70cmです。しかし907X 50Cのレンズには35cmまで寄れるものがあります。食べ物の写真やブツ撮りがとても楽でした。

雑感

まだたった2日間しか使っていません(笑)
このカメラについて、このカメラの切り取る写真について、まだまだ分かっていません。しかし気がついたことがいくつかありますのでファーストインプレッションとして書き留めておきます。
調べれば分かるスペック的なことは書きません。自分が感じたことを書いておきます。

立体感

初日に撮って帰宅してパソコンのモニターでその写真を見て一番驚いたのが立体感でした。
下の写真はf8.0まで絞って撮っていますが、立体感と背景のボケにびっくりしました。

以前、Leica S2で撮られた写真の空気感(立体感)に強く感銘を受けました。パソコンやスマートフォンの小さなモニターでみても、Leica SLやMシリーズと見分けが付きました。それと同じ感動がありました。この中判のボケと立体感をうまく生かした写真を撮りたいと思います。

一方で、f8.0でもかなりボケるわけですから、風景を撮る時など思い切り絞る必要がありそうです。35mmフォーマットのレンズの場合、大体f8.0が解像のピークでそれ以上で回折現象が生じます。このカメラのレンズの場合はf11〜f16辺りがピークらしいのでその辺りを目安に使っていきたいと思います。

ダイナミックレンジ

中判センサーサイズ(35mmフォーマットより大きいと言うくらいの意味で読んで下さい)の恩恵がここに一番大きく現れている気がします。白飛びしないように撮れば、暗い部分もかなり持ち上げられるので、白飛び黒つぶれのない写真になります。そのため、ついつい暗めに撮ってしまいます。
ダイナミックレンジの広さから、編集の自由度が非常に高いので、レタッチのうまい人には最高の素材を提供してくれます。
しかし撮影時に暗く振りすぎると、適正露出に比べてやはり色の再現性や解像感が落ちます。それを編集で手間を掛けていると目の前にあった光景とかけ離れたものになりがちです。そういう写真もアリだと思いますが、僕の好みではありません。あまり白飛びに神経質にならず、素直に適正露出で撮影することを心がけようと思います。

撮影のリズム

写真の表現力がすごい分、ハード的にのんびりしていてうまくバランスが取れています(違)
起動の遅さ、シャッターボタンを押してから実際の撮影までの微妙なズレ撮影時のブラックアウト・・・

AFもコントラストAFだけなので迷う時にはとことん迷います(笑)
ですからちょっと迷った時には直ぐにMFに切り替えています。MF自体はMg型ライカで慣れているが全然面倒ではないのですが、XCDレンズはピントリングのトルクが軽すぎるのとモーターの動きがカクカクして、微妙なピント合わせがやりにくいです。

フィルムの中判カメラも決して急いで撮れるカメラではありませんでしたから、これらは最初から「そういうものだ」と納得して使うことにしました。

余談ですが、M型ライカではまったく逆に、高画素化やダイナミックレンジの向上よりも、速射性と信頼性に徹底的に磨きを掛けて欲しいと思います。

AF-Dの割当て

X1D IIにあるAF-Dが907X 50Cには物理ボタンとしてなく、別売りのハンドグリップかMobile Phocus経由でしか使えません。AF-Dを背面ボタンか右側面のオプションボタンの長押しに割り当てられると、MFモードで必要な時だけAFが使えて便利です。これをHasselbladへの要望として出します。

コントロールホイールが堅い

絞り値やシャッタースピード用のシャッターボタンと同心円のコントロールホイールが堅くて回しにくいです(昨年の試作デモ機では逆にこれが軽すぎて使えませんでした)。これも改善要件として出します。

フォーカスピーキング

フォーカスピーキングが大雑把すぎて、厳密にはピントが合っていないところにも色が付きます。使えません。

ISO

まだ使い始めたばかりではっきりわかりませんが、確実に安心して使えるのはISO 800までという印象です。
とは言え、開放値f4.0のレンズでは、室内などで手持ちではISO 1600も使わざるを得ません。
暗いところで(暗いから使うんですがw)ISO 3200を使うと肌のノイズなど気になります。ある程度条件がよければISO 3200まで使えるでしょうか。

暗いところでISOをもっとあげて、後でモノクロ変換する使い方も試してみようと思います。

シャッタースピード

XCD 2.8/65(35mm換算約50mm)
手持ちはできれば1/125s以上。
1/60sでもまあ大丈夫です。

XCD 45/4P(35mm換算約35mm)
手持ちで1/30sでも大丈夫そうです。

センサーのゴミ

センサーが大きいので気をつけていてもレンズ交換していると直ぐにゴミが付きます。しかしブロアーだけで意外と綺麗にとれています。今のところ・・・

レンズについて

マウント内に取り付け位置の赤いマークがあります。じっくり見ないとわかりません。Leica Mレンズの赤いポチ玉のように外側にあると指の感触でも取り付け位置が分かるのでぜひそうしてほしいです。取り敢えずは色マジックかパーマセルで自分で目印を付けたいと思います。

素早くレンズを交換したくても、ピントリングが無限に回るので滑って片手では交換しにくいです。

レンズに、マニュアルの絞りリングが付いていないのが残念です。どうせほとんどマニュアルで撮っているので、絞りリングの付いている手持ちのライカMマウントのレンズを試してみましょう。
マウントアダプター経由でライカMマウントを付けて、四隅がけられない(黒くならない)ものを探してみます。この四隅の蹴られは、ポスプロで真四角写真にクロッピングすればどのレンズも大丈夫でしょう。でもオリジナルのフォーマットを大切にしたいと思います

まとめ

たった2日間使っただけでも、ハード的にはこれだけたくさんの不満を感じています(笑)
でも、そんなことが全然気にならないくらい楽しいカメラです。
そして何より写真が素晴らしいです。
愛おしくて抱いて寝たい。
と海外のハッセルブラッド繋がりの友人に言ったら、「いくら奥さんが買ってくれたカメラでも、それすると(奥さんによって)翌朝907X 50Cは死んで発見されるだろう」と助言をくれましたw

カメラバッグ

四角いこのカメラはM型Leica用のコンパクトなカメラバッグにはうまく収まりません。カメラボディ背面を下に、レンズを上にすると、バッグの中で電源が入ってしまいます(笑)。モニターが背面にあるのでこれに傷が付くのも心配です。レンズを下にするのもAFレンズに負担が掛かりそうで心配です。やはり水平にしてバッグの中にいれたいですが、直ぐに取り出すには浅いバッグが便利です。
現在ARTISAN&ARTISTのガーデンバッグ(ラージサイズ)GDR-212Nを使っていますが、もう少しかさばらないものが欲しいところです。以前使っていたDOMKE F-2が良さそうですが、ショルダーバッグは肩が凝ることに気がついたので、リュックサックタイプにしましょうか。
久し振りにカメラバッグ沼に入ってしまったかも・・・



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