人種差別主義に関する米コーヒー業界への公開書簡

元記事:An Open Letter to the US Coffee Industry on Racism - Daily Coffee News [Phyllis Johnson | June 11, 2020]

この公開書簡はコーヒー業界のリーダーに向け、人種差別主義と闘うためのリソース、ツール、資金の提供を呼びかける目的で書かれた。


アメリカのコーヒープロフェッショナルの皆様、

2,250億ドルのアメリカのコーヒー産業にCOVID-19が与える影響を多くの組織が報道する中、ここ最近世界中に広がる人種差別的な非人道行為は私たちを沈黙させています。一部の人たちがソーシャルメディアを介して団結を表明していますが、それだけでは十分ではありません。今こそ、コーヒー業界が一丸となって早急に行動を起こす時なのです。コーヒー生産者にもっと社会的で公平なプログラムを作るよう求めておきながら、アメリカ内で起こっているあからさまな不正行為に沈黙を続けることは、私たちへの信頼を脅かすことになるでしょう。


パンデミックは私たちが失ったものへの追悼のように、私たちに新たな気づきを与えました。過去数週間の間に、私たちは新たな規範に直面していること、不穏で露骨な人種差別行為に対して特に敏感になっていることに気付きました。
黒人に対する人種差別と警察の残虐行為は、私たちにとっては日常の出来事です。避けようとしたってできません。公平で公正な社会にするために必要な努力を避け続けることができないように。私たちは、私たちの力とリソースを前向きな変化のために使うべきなのです。コーヒー業界にいるリーダーの一人として、私たちは世界中の取引相手だけでなく、従業員、仕事仲間、消費者、この業界を支えるすべての人に対して責任を持っています。


黒人女性として、これだけははっきりと言わせて下さい。人種差別は私たち黒人にとって日常的に起こる現実であり、私たちの日常を破壊します。そうでない人たちにとっては否定したり、目を背けたりすることができる問題なのでしょうけれど。あなたがいま黙っていること自体が、その答えです。あなたが沈黙し、何もせずにいる間、黒人の生活を破壊する抑圧はずっと起きているのです。今は無視したり、目をそらしている場合ではないのです。


アーマウド・アーベリー、ブローナ・テイラー、ジョージ・フロイド。肌の色が違うという理由だけで筋の通らない暴力にさらされ、死んでしまった数多くの人々。そのリストに最近加わった人々です。世界中のコーヒー生産者が経済的安定のために私たちを頼みの綱にしていること、また、社会問題や平等の問題において声を上げるための代弁者として必要としていることを、私たちは既に知っているはずです。


私は、コーヒー業界の男女平等に向けた取り組みを誇りに思います。今この時は、協力関係を築いて人種差別と戦うため私たちに与えられたチャンスです。黒人のアメリカ人と世界は、今こそ変わらなければなりません。そのために、あなたの協力が必要です。
この業界と国そのもののあり方を前進させるために、業界の利害関係者が具体的な行動を起こせるよう徒党を組むことを支援すると約束します。私もその一端を担うつもりです。人種差別との闘いの最前線にいる、地元や全国の組織に寄付してください。あなた自身の行動と、それが引き起こす(予想もしていない)結果にもっと注意を向けて下さい。共になら、必ず変化を起こしていけます。

私たちは、声を上げることのリスクを心の中で計算して、現実に起きている不当な悲劇に見て見ぬ振りを続けている。でも私たちは声を上げることで、人種差別に対抗する力となりうる存在なのです。

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Phyllis Johnson フィリス・ジョンソン 氏は BD Importsの社長であり、コーヒーのサプライチェーンにおける多様性とインクルージョン、ジェンダー・エクイティ、経済的機会、そして人種とコーヒーの複雑な問題を提唱している。

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もしあなたが、今世界各地で起こっている反人種差別主義のムーブメントが自分には関係のない出来事だと考えているのだとしたら、それは違います。人種差別は日本を含めてどの国でも起こっていることです。


もしあなたがコーヒー業界で働く人であれば、人種差別という問題はもっと身近な問題です。今のコーヒー文化は、人種差別の歴史、黒人奴隷を労働力として利用してきた歴史と密接に関係しているからです。

16世紀初頭、アフリカから連れてこられた人々が奴隷として利用され始めるようになりました。当時は南北アメリカ大陸、つまり「新大陸」の開拓を進めるために労働力の確保が必要でした。当時のヨーロッパの強国はアフリカの様々な国や地域から人間を輸出し(奴隷貿易)、南北アメリカ大陸のプランテーションで強制的に労働させました。コーヒーのプランテーション農業が始まったのは17世紀頃からで、カリブ海の島々(キューバやジャマイカなど)や中米の複数の国で栽培されるようになりました。18世紀にはブラジルのプランテーションで栽培されるようになり、地理的条件と奴隷の労働力によって生産量は跳ね上がりました。

現在では奴隷制度は廃止されていますが、その頃から続く偏見や暴力は、現在も様々な形で残っています。


反人種差別主義への意思表明に参加するもしないも、個人の自由です。でも、問題の当事者ではないからと言って黙認しているのは、容認していることとはどう違うのでしょうか。興味がない、という意見は「自分が当事者ではない」というたまたま置かれた状況に甘んじているだけで、抗議なり、反論などしていないという点で(無意識のうちに)人種差別に加担しているのとあまり差はないのかな、と思ったりします。

人種差別を受ける当事者たちは「興味がない」なんて言っていられるでしょうか。自分が選んでその環境に生まれてきてたわけではないのに、日常的な暴力にさらされる恐怖とどう折り合いをつけて生きていけば良いのでしょうか。私は今まで、「そういうことが起こっているのは知っているけど、かといって私にできることはないし、私自身が経験したことでもないのに声を上げるのもなあ…」と思い続けてきました。
でも人種差別の歴史や現状を学んだり知るたびに、そういう「無関心」こそが差別を助長させていたのかもしれないと気付いて心が冷たくなるのを感じました。

まずは知ること、そしてそれを広めること。差別をなくす団体や組織に経済的支援ができるならもっといい。コーヒー屋がそれを行えば、消費者にとって差別への抗議を表明するのはもっと簡単になるかもしれません。私もまだまだ学びが少ない上無意識レベルの差別を取り除くのは本当に難しく、勉強を続けないといけないなと感じています。

junko