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二人の恩師

私には二人の恩師がいる。
一人は、高校三年生の時の副担任の先生。教科は世界史や地理など社会科の授業を担当していた。
もう一人は、お芝居を習っていた頃に出会った先生。厳しくて有名な先生だたけれども、私にとってはやさしくてとても尊敬する先生だった。
二人とも電話をしたり、実際に会ったりする事はほとんどないのだけれど、未だに年賀状で近況のやり取りをしたりと繋がりがある。

高校の先生は出会ってもう二十年、お芝居の先生は十五年ぐらいともう長い間お世話になっている。
卒業してから当時の先生と仲良くしている方ってどれくらいいるのだろうか?
私の周りでは結構レアケースだと思う。

高校の時の恩師は、在学中よりも実は卒業してから仲良くなったところがある。
高校卒業して専門学校で二年間過ごし、いざ就職。当時は就職氷河期真っ只中、就職できるだけありがたいというもので、自分で仕事を選ぶなんて余程専門的な資格でもない限り難しい時代だった。
私も例にもれず就職活動は難航し時間がかかり、やっとこさ就職できても会社の経営不振で解雇になったりと若い頃は散々な思いをした。

そんな悩みの多い時期に、ふと先生の事を思い出して何を思ったのか手紙を出してみたのである。今の自分では考えられないような行動力。
返事が来なくてもまあいいかなと思っていたら、意外にも返事が来てなんと自宅まで招待されたのだ。
学生時代仲の良かった友人と一緒に先生の自宅を訪ね、先生と奥様の手料理を振舞っていただき、とても楽しい時間を過ごした。
何か心にガツンと残るようないい話をしたわけではなく、それでも長い月日のたった今でも忘れられないくらい楽しい出来事だった。

あれ以来実際にお会いする事はなかったが、今でも元気にしているか気にかけてくれる存在だ。
私の親と同じくらいの年齢なので、毎年年賀状が来る度に元気でいてくれて良かったとほっと胸をなでおろしている。
そろそろ会ってみようか。もう一度手紙を書いてみるのもいいだろう。

もうひとつ先生の事で大事な思い出。
先生の奥様は、書道をやっていて作品集を出すほどの腕前だった。
お会いした際に作品集を頂いたのだけれど、書道はからっきしな私でさえも素敵だと思えるような作品集だった。
身体があまり丈夫ではないとお聞きしていたのだが、その繊細さややさしさが作品からも伝わってきてなんとも心あたたかな気分になった。

そして、先生の言葉で今殊更に思い出しているものがある。
『脚本とか書いてみたらどうだ?』
お芝居に一区切りついた事を報告したときに言われた事だった。
今まで演じるばかりで脚本を書くなんて夢にも思っていなかった。
先生は私の文章なんて読んだ事ないのにどうしてそんな事言うのだろうと思って、未だに脚本制作には踏み切れないでいる。
時間ができたしちょっとやってみようか。新緑のあたたかな風に背を押され、ちょっとばかし前向きにそんな事を考えてみるのであった。

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