〝いわゆる…“の使い放題♡

とある施設で、窓口業務・電話番・留守番・会計・雑務のようなことをしていた時のこと…のつづき。

以前に、携帯電話を通話状態で運転しながら、そのままナビして欲しいと要求され、最終的に私の上司が割を食うという話を書きました。(クルマをお停めください)
その同じ職場での、忘れられない問い合わせのお話し。

夏休みには少し早い、蒸し蒸しした梅雨の晴れ間のお昼頃、自席に一本の外線が入電しました。

私)「はい、◯◯です。どの様なお問合せでしょうか？」

男性)「あのぉ〜えっとぉ〜、すんません、ホテルってこの辺でありますかぁ？」

宿泊先を探してる人か…ふんふん。
この当時はまだネットよりも電話の時代。聞けることは電話で聞いた方が、なんでも早い時代だったのです。なんの疑いもなく、私はデスクに宿泊・キャンプ場一覧をスタンバイしました。

私)「本日からのご宿泊をお探しですか？それとも少し先のご希望でしょうか。温泉等のご希望はございますか？」

通常通りの問いを淀みなく話しながら、近々イベント等があったかなぁなどと、突発的な事柄にも気をつけて話をしていました。

男性)「あっ、そうじゃなくてデスね、えっへへ♡
ん〜と、ホラ、いわゆるそうゆうホテルって
ありますかねぇ？www」
女性)「やっだ〜ばっかぁ〜www」
(かすかに背後から女性の声が聞こえてくる…車のハザードかウィンカーの点滅音のカッチカッチという音が聞こえてくる…)

私)「⁇」

イヤな予感が背中から覆い被さるのを感じ、無意識に送話口を手で覆いながら、姿勢はデスクに向かって前傾にとり、頭はフル回転。

今は昼間だぞ。

滅多な言葉を職場では口に出して言えないし、電話を切るわけにはいかない。

〝少々お待ちください“と言って上司に電話を回しちゃえよぉ〜と悪魔が囁くが、しょうがない、コレもお時給のウチと腹を括って小声でヒソヒソ対応するしかないかぁ〜。

それにしてもなんなのこの人達…年齢的に30代〜40代かな。自分達で探して勝手にピラピラの垂れ幕の向こう側に吸い込まれて行けばいいでしょ！ともちろん言える訳もなく、

私)「大変申し訳ありませんが、こちらでご案内出来ます施設は、〇〇に御協力頂いている施設の方々
のみとなっておりまして、そのほかの宿泊施設又はそれに準ずる施設様につきましては、こちらからご案内はできかねることとなっております。
お力になれず大変申し訳ございません。」

瞬間的には、コレが精一杯の言葉だったんです。
当時の状況では。
送話口に手を添えて、小声で身をかがめながら、頭を下げていますよ、もちろん。

しかし、盛り上がってらっしゃるアチラは引きません。

男性)「えっ？そうなの？よくさ、高速の入り口とかにさあぁ、いわゆるそうゆうホテルってあるよね？
キミは行った事ない？いわゆるそうゆうところ。
有料道路の入り口とかさ、よく建ってるよね！www」
女性)「やめなってぇ〜www  
女の人と話してんのぉ〜？
かわいそぉ〜じゃぁ〜んwww」

おい、盛り上がってるところ悪いけど、仕事中だ。
切るぞ、もう。
強気に出られないところが悔しい…。
大きな声も出せないし、今更上司に代わることもできん。くっそぉ〜！
どうしたもんかなぁ〜

ただ、国道脇に確かに数軒在るには在るけれど、
いわゆるソレなのか、そうじゃないのか、中が分からないんだよな…行ったことないからなぁ。

こういう時はだいたい、近くの席の人に『◇◇って分かりますか？』って緊急で聞くんだけど、誰も答えてくれないだろうなぁ〜いわゆるムフフ♡なホテルの話しだし…。ん〜ピ〜ンチ。

仕事柄・立場上、憶測でものは言えないが、答えはなにかしら出さないといけないところがむずかしい仕事でした。顔が見えていれば楽なのですが、電話は声が全てなので、言葉で言わなくてはなりません。ん〜嘘と憶測は禁止…
ここは仕事からちょっと離れるか……

私)「お問い合わせいただいた件でお力になれず、
大変申し訳ございませんでした。
私は、車を運転しながら職場に来るのですが、来る途中に、いわゆるそのように見えるホテルを高速の脇に目にすことがあります。しかしながら、私は利用したことはありませんので、施設の内部は、全く存じません。電話番号は、電話帳にて、今お時間を頂戴して宜しければお伝えすることは可能ですが、それでよろしいでしょうか？」

偉いよ、自分。撫でてあげるって、ヨシヨシ。
無事電話番号を伝えて電話を切って、しめしめの手をウェットティッシュで拭いてたら上司が席に来て

上司)「随分と長い問合せだったね。難しいことだったの？」

とか　お気楽に聞くから

私)「えぇ、いわゆる難しいことでした！」
　と答えたのでした。

　　　　　　　ー終わりー