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その地震対策、サステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点

(第三回)その地震対策、サステナブルですか?

今回は、BCPやBCMという企業経営に関連するお話です

前二回で、物事をサステナブルかどうかという切り口で考えよう、という入り口のお話をしました。一応、週一くらいでNoteを更新していくつもりで三回目以降もいくつかネタは考えているのですが、少し早めのタイミングでコメントしたい話題が出てきましたので、今回はそのお話をしようと思います。
(第一回はこちら↓)
ESGってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)
(第二回はこちら↓)
ワインってサステナブルですか?~わこさんのワイン片手の経済視点|わこさん (note.com)

南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)はビックリしました

2024年8月8日に宮崎県南部で最大震度6弱の大きな地震がありました。怪我をされた方、家財などが被害に遭われた方に、お見舞い申し上げます。今回、この地震に伴って、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が発表されました。

気象庁のサイトで公開された2024年8月8日の震源・震度情報

幸いにして、巨大地震は今のところ発生せず、一週間たったので臨時情報は解除されました。ただ、地震に対する備えは怠ってはいけないということが改めて訴えられています。

損害を「ゼロ」と想定するから「想定外」が起きる

地震に限らず大規模な天災が起きた場合、損害を「ゼロ」あるいは「対応可能な範囲」にすることを想定していると、全ては「想定外」になります。そんな非現実的なことにこだわるよりも、何らかの(対応が難しい)損害は起きると前提して、どうやって損害を「最小化」するかを考慮する方が現実的ですよね。個人としてはできることは限られています。まず自分や家族の命を守り、その後の生活を復旧(ないし再建)するまでの必要最小限の備蓄をすることなどが求められます。

企業は危機管理策としてのBCP策定が求められる

一方、企業としては、天災を含む大規模な経済活動の障害が生じる非常事態の際、自社の人的、物的被害を最小限に抑え、企業の活動を継続ないし早期再開するために対応策を準備しておくことが求められます。これをBCP(事業継続計画、Business Continuity Planning)と言います。アメリカでは危機管理の一環として詳細な開発が行われているようです。日本では内閣府や中小企業庁などがそれぞれの所管に応じてBCPの内容についてガイドラインを出しているようですが、細部については深入りしません。

初動対策とは区別して考えた方が良いと思います

各企業は、それぞれの事業の状況を踏まえて、例えばどこかで部品の供給が途絶えたときに工場での製品生産を再開するためにどうするか、といった計画を立てるわけです。一方、緊急時の初動対策をコンティンジェンシー・プラン(Contingency Plan) として別に扱う考え方もあります。例えば「帰宅難民」をどうするか、とかいう話はこちらに入るのでしょう。完全に独立ではありませんがBCPとは少し分けて考えたほうが良いと思います。

企業の社会的役割を果たすためのBCPという側面も

これは、企業にとっては自社を守るのみならず、社会的な役割を果たすという、ESGでいうと「S」的な側面もあります。2020年の新型コロナ禍発生当初、電力・ガスなどの公益企業や通信や金融などの社会インフラを担う企業は、人との接触を避けながらも電力の安定供給を続けるなどを求められました。こうした企業の努力、社会的責任を果たすという使命が全うされ、例えば大規模停電になるといった形で人々の暮らしが大きく混乱することは避けられました。

BCPに関して言えば、多くの企業は策定しているはずです。南海トラフ巨大地震に対しても自社にかかわる人的被害・物的被害を想定して、そうした被害を踏まえながら自社の経済活動を復旧する計画は立てているのではないでしょうか。

BCPは策定しているはずなのに影響が想定以上に長引いたりすることも

ところが、これまでの天災や工場火災などのケースを振り返ると、それらによる企業活動の落ち込みが思ったより長引くいているな、と感じることはないでしょうか。それはもしかすると、策定したBCPが不十分だった、牽強付会で言い換えればサステナブルではなかった、ということなのかもしれません。

被害想定にサプライチェーンが入っていましたか?

何が不十分だったのか?計画で前提する被害想定が甘かったのかもしれません。それは、被害そのものの前提が自社の対応できる範囲で想定されているため、カバーしきれない、ということでしょうか。特に取引先の企業の動き(広い意味でのサプライチェーン)をカバーした計画になっていないからかもしれません。そうすると、自社の被害はなかったけれど原材料の仕入れができない、流通網が対応できないといったことで企業活動の復旧が遅れる、ということが起こりえます。

サプライチェーン管理の好事例

この点で、一つの好事例としてトヨタ自動車の対応例を挙げておきます。2011年の東日本大震災の際には、マイコンを生産するルネサスエレクトロニクスの工場が被災したため国内外の自動車生産が影響を受けました。加えて、同年秋のタイの大洪水によって部品を含めた自動車のサプライチェーンがグローバルに途絶しました(景気や企業業績への悪影響としては、実はこちらの方が大きかったと言えます)。

トヨタは、この経験を受けてサプライチェーン調査を行い、10次取引先まで即座に状況を把握できるシステムを構築しました。その経験が生かされ、新型コロナウイルス禍の初期には部品調達を理由にした生産停止は行われず、中国での稼働率も他社に比べて落とさずに済みました。その後の世界的な需要落ち込みの影響は避けられませんでしたが、サプライチェーン全体を意識した優れた管理体制であったと思います。

2011年10月のタイの洪水被害を伝えるAFPのサイトからキャプチャしました

デジタル技術を活用したサプライチェーン全体でのBCP策定の動きも

最近でも、日本経済新聞の8月14日の記事で、AGCが大地震など災害に備えて、仕入れ先の被災リスクや発注残量が一目で分かるシステムを本格的に導入することが報じられています。デジタル技術を活用しながらサプライチェーン全体のBCPを構築するような努力が進められていることは心強いです。
災害時の調達、一目で把握 稼働や在庫の調査時間半減 AGC、500社を地図表示 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

BCPを策定して満足してしまっていませんか?

一方、対応策は議論しているし、策定しているよ、という企業が実際にはうまく対応できない場合に、もう一つ考えられることは、BCP策定が目的になっていませんか?ということです。

BCPをサステナブルにするためには計画のアップデートが必要

その計画、作ったはいいですが、作ることを目的にしていてそのあとアップデートしていますか?アップデートするということは、現状に照らし合わせて計画の過不足を見つけ、その際に実効性をシミュレーションして(いわゆるPDCAサイクルを回す形で)、必要に応じて計画を修正するということですが、それはできていますか?前回の計画のどこかの部分が属人ベースになっていたのにその担当者が退職しちゃったとかありませんか?などなどといったことです。

大切なことは実行のためのマネジメントの決断やリーダーシップ

そして、最後はそのBCPを実行するための経営者の肚がきちんと座ってますか、ということを含めたBCM(Business Continuation Management)ができてますか、が問われることになります。先ほども書きましたが、大規模な天災が起きて「ゼロ被害」を想定することは非現実的です。思いもよらなかったことが起きることも含めて、そうした被害や障害に柔軟にしなやかに対応して、企業活動の再開を目指すには、BCPという仕組みだけではなく、経営陣の決断やリーダーシップが欠かせません。

これ、サステナビリティ経営につながる話です

やや大げさかもしれませんが、これが(特に上場)企業のサステナビリティ経営につながることになるのではないでしょうか。それぞれの企業がこうした意識で計画の実効性を高め、そうした企業が増えていくことで、大規模な天災が起きたときの復旧や経済活動の再開を進めやすくなっていくのだろう、と期待しています。 

もちろん、大規模な天災が起きないことを一番に願っています。

P.S. 書いていて思ったのですが、日本の災害対応(特に行政の)って初動対策(の策定)に偏りすぎてるんですかね。だから避難生活長期化が被災者のストレスを高めているのかな?このあたり、時機を見て知見のある方のご意見を是非お伺いしたいです。


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