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由井薗健先生の(授業実況中継シリーズ)「平和教育授業づくりセミナー」を終えて

 広島で行われたG7サミットが国内で話題となり、各国首脳の平和祈念資料館訪問。そしてウクライナのゼレンスキー大統領の訪日、支援の訴えと「平和」について考えることの多い数日間だった。

 さて今の日本は果たして「平和」と言えるのだろうか。もし「平和」と言えるのなら、いったいいつまで続けることができるのだろう。もし「平和」ではないとしたら、今後私たちはどうしていくべきなのだろう。その鍵を握っているのは今を生きる子どもたち、そしてその教育に携わる私たち教師ではないでしょうか。

 とは言っても「平和教育」と言われると戦争のことを教えるだけで終わってしまいがちだ。子どもたちの情意に訴え、真剣に考えてもらう授業はとても難しい。過去に受けもったクラスで戦争のジャンケン遊びが流行った時があった。「軍艦(グー)」朝鮮(チョキ)」「ハワイ(パー)」これらの意味も知らず無邪気に楽しむ子どもたち。この子たちにどうしたら深く、この言葉の意味が伝わるのか。そして平和な世界をつくっていくにはどうしたら良いのかを考えてくれる子どもに育てることが出来るのだろう。そんなヒントを得たくてこのセミナーに参加した。


  • 授業の流れと子どもの反応

第二次世界大戦に参戦しなかった国

 「戦後77年」これは第二次世界大戦の後、日本の平和(戦争をしていない期間)が今年の5月時点で77年間続いていることを表している。由井薗先生は子どもたちに社会的事実とのインパクトある出会いの演出をとても大事にされている。上の日本地図は第二次世界大戦の中立国を表しているのだが、わずか5カ国のみである。これを言葉で伝えるよりも、モニターにバン!と白地図を提示。その瞬間の子どもたちは「えっ」と驚きの表情。「これ以外の国は全て戦争をしていたのか・・・」という心の声が聞こえてきそうだった。

熊谷市の空爆後の写真資料

 続いてこの資料。人が数人いるのが分かるだろうか。ここは降伏前、最後の空爆地とされている。ここで由井薗先生は
「この時、人々は『戦争』のことをどう思ったのでしょう。」
「戦争は・・と一言で書いてみて。」
と社会的事象を人のいる風景として子どもたちに考えさせる。
すると子どもたちは神妙な顔でノートに向かう。
戦争は「誰も幸せにならない」「意味がない」「悲惨」「罪のない人が死ぬ」「怪物」「百害あって一利なし」と次々に考えを表していく。
人を出すことで、『戦争』と子どもたちが少しずつ近づいていく。
そして「百害あって一利なし」をきっかけに、「命」について考えていく。

長野県にある殉職碑

 各国の被害者数に関する数字を提示し、世界で約6000万人が分かっているだけで亡くなっていることを示したのち、出てきたのがこの資料である。よく見ると非常に若い世代ばかりが刻まれている。子どもたちは
「戦争に行かされた人たち」「若い方が体力あるから」「否が応でも戦争に連れていかれる」「そして国内外で戦って死んでしまった人たち」
と言葉を繋いでいく。犠牲者の若さがより、自分ごととしての感覚を強めていく。そして由井薗先生は、この名前をさらに人のいる風景として子どもたちに見せていく。
「みんな〇〇さんと名前が書いてある。」「これが(一人ひとりの名前の幅が)仮に1cmだとするよ、そうすると日本の犠牲者は東京駅からずーっと名前が書いてあって、横浜の桜木町駅までずーっと名前が書いてあるくらい、人が亡くなったことになる。」(日本の犠牲者は310万人)
子どもたちは「えっ!」と驚き、周りの友達と顔を見合わせる。ここでさらに畳み掛ける。
「じゃあ世界全体。ロシアの人にも、中国の人にも、ドイツの人にも名前あるでしょう。一人ひとり。」息を呑む子どもたち。

 数字や「約」という言葉も、人のいる風景に変えてしまう由井薗先生の手立てにはとっても驚かされた。

第二次世界大戦から5年後に戦争をした国
第二次世界大戦から現在

そして最も驚かされた、鳥肌がたったのが上に示した世界地図である。怪物だと当時の人が思っていたであろう戦争は、この後なくなったのか。
「いや、まだ続いている」という子どもたちの声を聞いた由井薗先生は、モニターに世界地図の白地図を映し出す。そして第二次世界大戦から5年後に戦争をした国を赤色で塗ったものを提示する。驚く子どもたち。この後10年、15年・・・と続けていく。最終的には戦後と今も言える国はわずか6カ国という事実。私自身、この授業を初めて拝見した際は本当に衝撃を受けました。おそらくこれをただの数字として教えられたら、そこまでのインパクトはなかったでしょう。


  • セミナーから学んだこと

今回学んだことは
資料提示の工夫
 参戦しなかった国と参戦した国を表した白地図、そして戦争による犠牲者の名前を1cmとして表して提示した資料、どちらも数だけ示されていたら、子どもたちの反応は全く違ったものだったと思う。視覚的にわかりやすく、かつイメージしやすい資料提示の仕方だった。これは教科書の資料も、一部を隠したり、数字のみのものをグラフ化したりするだけで、インパクトのある提示ができる可能性を示している。そういった効果的な工夫をするには、教師自身がねらいをもとに、教材研究を深めることが大切だと感じた。

「人のいる風景」を大切にし、子どもたちの情意に訴える情意をもとに、社会的事実から概念的知識の獲得や思考判断へ 
 そこに人がいるからこそ、子どもたちは感情移入をしやすい。そして感情移入をするからこそ、社会的事象に対して「えっ!」「どうして?」「なぜ?」と疑問をもち、学習問題が成立する。その疑問は、子どもたちが主体的に学ぼうとする大きな大きなエンジンとなる。このエンジンをいかに大きく、そしてパワフルなものにしてあげられるかが、その後の思考力・判断力・表現力の力の伸びに関わるのだろうと思う。
 今回、由井薗先生の教えていた子どもたちは日本国憲法の成立や人類の争いの歴史、戦後の日本の取り組みを学んでいくだろう。一年間かけて「平和」の尊さをきっと学んで、これからどうしていけばいいのかを考えてくれるに違いない。ぜひその答え、考えたことを聞いてみたい。


  • 最後に

 今年度は育児休業中のため、実際に追試を行うことは出来ないが、来年度以降ぜひチャレンジしてみたい。これぞ由井薗先生の社会科授業の真髄を見せていただけた気がした。

授業てらす
おざ


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