見出し画像

東海道新幹線を貸切に!移動時間で育む新しいコミュニケーション

速くて正確、しかも快適で安全な、日本が世界に誇る「新幹線」。その車両1台を丸ごと「貸切」に..なんて、電車が好きな方は、一度は考えたことがあるかもしれません。
23年の春、JR東海とJTBがタッグを組み、そんな夢のようなサービス「貸切車両パッケージ」が生まれました。

しかも貸し切りにできるだけではなく、車内を装飾したり、機材を載せたりすることで、独自のイベントなどにも利用できるんだとか。どんなふうに使おうかと想像が膨らみますよね・・・!今回はサービスの開発や運用を先頭に立って進めてきた2人に話を聞いてみました。

東海旅客鉄道株式会社(JR東海) 山口 陽平(やまぐち ようへい)
個人向け/ビジネス向けを問わず、新幹線の利用拡大を図る商品企画グループの中で、主に旅行会社の窓口を担当。全国をまわる機会が多く、おいしいものを堪能するのが好き。無類のタルタルソース好き、タルタリスト。
JTB 猪腰 亮(いのこし りょう)
JRグループ6社に対するJTBの窓口を担い、会社間で協力して進める施策に関わっている。教育旅行の営業現場で約20年の経歴があり、修学旅行列車には100回以上添乗。プライベートでもよく出かける旅行では、スポーツアクティビティで体を動かしている。学生時代から社会人にかけてはラグビーの経験も。

きっかけは両社の「雑談」から

―― このサービスが生まれたきっかけを教えてください。

山口:長引くコロナ禍で東海道新幹線の利用が大きく落ち込んでいたときに、これを回復させるために何かできないかと両社で話をしていたのがきっかけです。

猪腰:そうですね。ビジネス利用を喚起できる今までにないサービスを、というような話だったと記憶しています。
雑談レベルでいろいろと話をしているうちに、JR東海さんから「車両を貸し切りにして、イベント空間にしてはどうか」というアイデアが出てきました。そこからトントン拍子に話が進み、JR東海さん側ではサービスを形にするところを、JTBではどのように販売するかを考えることになりました。

ただ正直なところ、ここからはなかなかうまくいかなかったんです。まずこのアイデアをどう思うか社内でヒアリングしたのですが「新幹線の車両貸切なんて、できると思ってない」「相当ハードルが高そう」といった反応が多かった。無理もありません、そもそも「やろうと思ったこともない」くらいの夢物語のような話でしたから(苦笑)

山口:一方でJR東海としては、実は新幹線車内をもっといろんなことができる空間にできるのでは、という考えは以前から持っていました。
2022年3月に、のぞみ号の企画として「あなたの“のぞみ”をかなえます」という貸し切りキャンペーンを実施したのですが、その反響が大きかったんです。SNSでもたくさんのアイデアと応募があって、あらためてお客様の多様なニーズがあることは実感していました。
このときは最終的に、「コロナ禍でできなかった修学旅行」「退職するご両親への感謝」「新婦“のぞみ”さんの結婚式」を実現したのですが、これらを実施・運営しているうちに、社内でも「もしかしたら商機があるかも」と、ポジティブなイメージが醸成されていった気がします。

とはいえ、車両を移動手段として貸し切るだけなら、修学旅行をはじめとした団体臨時列車と変わりません。お客様にとって本当に魅力あるサービスにするためには、何らかの付加価値をもたせる必要がありました。ここが一番大変でしたね。
たとえば、車内にモニターを置くことで、移動中に映像を楽しむことができるとか。あるいは、音響設備を使ったり、車内を飾り付けたりすることで、思い思いの演出ができるとか。
どういったオプションを用意すべきなのか、それを車内でしっかりと運用できるのか、そもそも本当にサービスとして成り立つのか・・・何度も議論を重ねました。

さらに、鉄道会社としては安全・安心を確保することが最優先ですから、事故などが絶対に起きないよう、万全の運用を図らなければなりません。このサービスは通常のダイヤのなかで運行している列車の一部車両を貸し切りにするものなので、前後の車両には他のお客様が乗っています。その方々にご迷惑がかからないよう、音響設備の音量や列車選定などにも細心の注意を払う必要がありました。

猪腰:この部分はJR東海さんにかなり尽力いただきました。JTBの社内でも「貸し切るだけだと魅力が足りないのでは?」といった声が出てきていたので、こういったオプションがなかったらサービス化は難しかったと思います。

コロナ禍を受けて希薄化した社員同士の交流を復活

―― 車内で研修やイベントを開くことに、どういった意義やメリットがあるのでしょうか。

猪腰:
コロナ禍で勤務スタイルが変化したことにより、社員同士の交流の希薄さに課題感を持つ企業が増えています。そのためか、アフターコロナにおいては企業のイベントが復活する兆しがあり、よりコミュニケーションの量や質にこだわるお客様も増えてきました。そのような方々には、このサービスを通して移動時間をも演出することで、課題解決の一助になるのではと思っています。実際、数百人単位で検討している企業もあります。


山口:そうですね。そのようなニーズにも新幹線はぴったりだと思います。東海道新幹線には、東京~大阪間を2時間半で結ぶ「速さ」や、運行本数の多さ(=輸送力の高さ)があるので、ある程度柔軟な対応も可能なんです。のぞみは1時間に最大12本も走らせているんですよ。

猪腰:サービスが始まったばかりの2022年冬あたりは、コロナ禍の真っ只中で、まだ企業が積極的に利用できる状況ではありませんでした。しかしお客様に紹介すると、「こんなことできるの?!」という驚きの声が多く、販売を担う我々からしても手応えはそれなりにあったんですね。今はもう少し踏み込んで、具体的に「〇〇はできないか?」「××をやってみたいんだけど」といった具体的な問い合わせが多くなっています。

山口:同時並行で、販売してくれるJTB社員の方に研修の機会も設けました。資料だけだとサービスの魅力をイメージしにくいのではないかと思ったので、実際に乗ってもらったんです。

「車掌の制服を着て社員の前でプレゼンする機会なんてそうそうないので、良い想い出ですね」(猪越)

猪腰:そうそう、貸切車両パッケージを使って、パッケージ自体のプレゼンテーションをしたんです。JTB社員、約140人に乗ってもらい、私も車掌の制服を着させてもらいました(笑)
百聞は一見に如かずで、試乗してもらってからは、全然違いましたよね。研修後のアンケートでは、ほぼ100%近くの参加者が「理解が深まった」と回答しました。
私は、この貸切車両パッケージを社内でアピールするときに「宿も、バスも、そして新幹線も貸し切れば、数日の旅行期間中、ずっとお客様だけの空間をつくることができますよ」「全部貸し切って、お客様たちだけの旅を楽しんでもらってください」と言っています。仲間だけにフォーカスし、コミュニケーションを深められることで、旅先での交流にさらなる深みを生みだせると考えています。

山口:JR東海としても、この実施後アンケートから、運用上で見直すべき点や、どのようなオプションが求められているかなどがあらためてわかり、ブラッシュアップにつながりました。

プロモーション効果抜群、さまざまな活用方

―― 印象深い事例はありますか。

山口:とあるラグビーチームに、ファンクラブ会員向け公式戦応援ツアーでご利用いただいたときのことは印象に残っていますね。
試合に向かう新幹線の車両をひとつ貸し切りにして、車内をチームカラーで装飾。さらにそのチームのOB(元日本代表の選手)も同乗し、トークショーや豪華賞品をかけたクイズ大会を実施しました。マイクやスピーカーなど、通常なら新幹線にはない音響設備も活躍して大盛り上がり。参加されたファンからは「普段なら聞けない、おもしろい話がいろいろあった」「試合観戦に向けて、気持ちを高めていくことができた」といった声をいただきました。チームロゴを印刷したオリジナルヘッドカバーをつくったので、お土産に持って帰られるファンの方も多かったですね。

猪腰:そうでしたね。そのチームのファンだからこそわかる「あるあるエピソード」や、見どころや展開予想、選手情報に裏側のネタなどが出てきて、最高の時間だったようです。ファンの方々どうしはもともと知り合いというわけではなかったのですが、いつのまにか一体感や絆といったものが芽生えていたように見えました。
チーム側のご担当者からも「ファンクラブに対して、新しいことを提供できた」「ファンの皆さんにより楽しんでいただけた」という言葉をいただけて、それも本当にうれしかったですね。「映える」イベントだったので、チームのSNSでの発信も、良いプロモーションにつながったとのことでした。

山口:あのときの猪腰さんの熱量をみていたら、どれだけファンに刺さったかよくわかりました(笑)

猪腰:すみません、ラガーマンなものでつい(笑)
ほかにも、あるアイドルグループが、ファンと一緒にコンサートへ行く企画もありましたよね。車内をグループのロゴマークで装飾して、アイドルとのトークタイムをかけたジャンケン大会でとても盛り上がっていました。これもSNSでバズり、プロモーション効果は大きかったようです。

―― どちらも楽しそうですね。一般の企業や団体のご利用ではいかがでしょう?

山口:お客様の数だけアイデアがあり、それは私たちにとって刺激になっています。私たちの発想を超える使い方をされるお客様もいらっしゃいました。先日は貸切車両パッケージを利用して、ある企業の社長の誕生日パーティーをサプライズで開催した方がいらっしゃいました。

猪腰:コロナ禍で数年間控えていた職場旅行に、貸切車両パッケージを活用いただいたこともあります。他の方との接触を避け、自分たちだけの空間で楽しみたいという要望からでしたが、久しぶりの旅行ということで気分も高まっているなか、さらに新幹線の一つの車両を自分たちだけの空間にしたことで、お客様どうしコミュニケーションを深めていただくことができたと思っています。

山口:もうひとつ、最初にこのパッケージを利用していただいた、グローバル企業様のことはよく覚えていますね。

猪腰:そうですね。役員が日本へ集まって、関西で会議をする際の移動手段にご利用いただいたときの事例です。このときは特にイベントをしたい等のご要望があったわけではないのですが、コロナ禍だったので、とにかく他の旅行者との接触を避けたいというご要望に応えられたこと、そしてやはり第一号ということで心に残っています。

さらなるチャレンジへ、新しいアイデア募集中!

―― 今後、どのような展開をお考えですか。やってみたいことは。

猪腰:今後は企業や商品のプロモーションでも積極的にご利用いただけないかと考えています。

山口:もともと貸切車両パッケージをプロモーションに使うことはあまり考えていなかったのですが、フタを開けてみると、たとえば「メディアやインフルエンサーを集めて新幹線の中で商品発表をしたい」とか「特別な飾りつけをして車内で飲食をしている様子をSNSに掲載したい」というお声が多いんです。たしかに目を引きますし、実際話題になることも多いんですよね。企業や商品への興味・関心を広げるきっかけになれたらいいなと。

猪腰:1つの車両を貸し切ったイベントだけでなく、たとえば1編成(16号車)を丸ごと貸し切って、車両ごとに違う商品や演出のプロモーションをしてみてもおもしろそうですよね。

山口:ほかにはMICE(※)にも力を入れていきたいです。たとえば学会の集まりなどがあるときに、参加される皆さんで一緒に移動していただくと、コミュニティ内でのつながりがより強固になるのではと思います。また海外のお客様であればインセンティブ旅行にもマッチしそうですよね。一度は東海道新幹線に乗ってみたいというニーズも強いと思いますので、貸し切って特別な使い方をしていただければうれしいです。

※ MICE:企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(=インセンティブ旅行/Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語

―― JTBへはどのような期待をされていますか。

山口:私たちがまず期待しているのは、JTBさんの営業力です。行政や企業とのつながりをたくさんもっているので、さまざまなお客様のニーズと貸切車両パッケージをうまく融合していただければと思っています。またJTB社員の方々には、たとえば東海道新幹線に乗車されている最中に「新幹線でこんなことをやったらいいかも」といったアイデアが浮かんだら、我々へドンドンぶつけてください、と伝えたい。多少のむちゃぶりも大歓迎です(笑)。JR東海社員が一丸となって実現します!

猪腰:JR東海さんからの期待はヒシヒシと感じていますし、実際に販売に貢献することで、その期待にお応えしていくつもりです。それと同時に、きっと今後も環境やニーズの変化はあり、突拍子もない課題や要望がいろいろ出てくると思うので、そのときはその都度相談させていただこうと思います。

まだ貸切車両パッケージは生まれたばかりですが、これからもタッグを組んで、さまざまな魅力的な商品、サービスをお客様にお届けしたいと思います。
山口さん、これからもよろしくお願いします!

―― 山口さん、猪腰さん、ありがとうございました!


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!