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失敗を改善につなげ、乗り越えた先に成功がある。「トライすることに価値がある」というマインドで挑戦を。

社内起業やアイデアコンテスト、オープンイノベーションなど、社内にイノベーションを生むための制度があったとしても、失敗や挫折を恐れて挑戦自体を避けたり、発想やアイデアが生まれても、「この程度のことでは起業はできない」「事業になるはずがない」とイノベーションの原石を見過ごし、諦めてしまう方も多いのではないでしょうか。
 
成功が確約されていないことへの”挑戦”は勇気がいること。しかし失敗を重ねることで改善点が分かり、次の一歩につながる。そうして、ブラッシュアップを一つ一つ積み重ねることこそが、成功への一番の近道であり、失敗なき成功はないとも言えます。
 
そこで今回は、挑戦と失敗を重ねてこられた株式会社ビビットガーデン代表取締役の秋元里奈さんと、JTB内でさまざまな事業開発に携わってきたJTBビジネスイノベーターズ代表取締役 の上田泰志に、失敗から学ぶことの大切さ、そして失敗をいとわず挑戦し続けるマインドなどについて聞いてきました。

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役 秋元里奈(あきもとりな)
神奈川県相模原市の野菜農家に生まれる。 慶應義塾大学理工学部を卒業後、2013年にDeNAへ新卒入社。2016年11月に一次産業分野の課題に直面し株式会社ビビッドガーデンを創業。2017年8月にこだわり生産者が集うオンライン直売所「食べチョク」を正式リリース。リリース4年で認知度/利用率No.1の産直通販サイトに成長。2024年4月にダボス会議を主催する世界経済フォーラムが選出する世界で活躍が期待される「ヤング・グローバル・リーダーズ(YGLs)」に選出。その他、TBSの報道番組「Nスタ」水曜レギュラーコメンテーター、日本テレビ系列「ウェークアップ」パートナー、内閣府「規制改革推進会議」専門委員、農林水産省「GI学識経験者委員」など。
JTBビジネスイノベーターズ 代表取締役 上田泰志(うえだやすし)
1988年日本交通公社(現 JTB)に入社し、営業、事業企画を経験後、JTBコーポレートソリューションズ執行役員、ジェイティービーモチベーションズ 代表取締役社長、ジェイティービーグループ本社執行役員事業開発室長を経て、2018年よりJTB執行役員経営戦略本部副本部長。2023年よりJTBビジネスイノベーターズ代表取締役。

わずか1時間で起業を決意

上田:私は1988年にJTBに入社して、最初の10年は学校や教育機関を対象に営業をやっていました。その後の25年間は事業開発に関わることになるのですが、秋元さんも起業される前は企業で事業開発に関わっていらっしゃったんですよね。

秋元:そうです。私は新卒でDeNAに入り新規事業の立ち上げなどに関わっていましたが、入社して3年半後に会社を辞めてビビッドガーデンを設立し、農業の課題解決につなげたいという思いで産直通販サイトの「食べチョク」を立ち上げました。会社の設立は2016年11月ですが、8月くらいまでは起業は一切考えてなかったんです。たまたまある人と1時間くらい話したことで起業しかないなと思ってしまったんですよね(笑)。

上田:そうなんですか。秋元さんにそこまでの影響を与えた人はどんな方だったのですか。

秋元:私よりも年下の学生起業家です。農業に携わって問題を解決したいという相談をしたら起業をすすめられて、経営なんてやったことないし資金もないしと否定的な回答をしたところ、「その考えなら秋元さんは一生何もしないだろうね」と言われたんです。確かに、これからの人生何があるか分からないし、今このタイミングだからこそ起業するべきなのかもと。それで一晩寝て翌日には起業を決意していました。

上田:たった一晩ですか!

秋元:はい。彼に話を聞いて、次の出勤日に上司に辞めますと伝えました。当時は空き農地を減らすためのサービスを考えていて、上司には無理だと理詰めで言われましたけど、もう決めたんですと(笑)。起業を決意するまでは、DeNAで勤め上げると思っているくらいだったんですけどね。

上田:そうでしたか。私がJTBで担当していた学校営業は、基本的に学校の数そのものが増えるケースは少ないので、完全な新規顧客というのは存在せず、新規で案件を獲得するのは難しかったんです。そこで、決まった学校と教職員の方に「いかに贔屓にしていただけるか」を徹底的に追及していました。その原体験を元に、多くの企業やお客様にインタビューをし、その企業にとっての贔屓客(ロイヤルティカスタマー)を ①つくる、②増やす、③守るためのビジネスとして「カスタマーロイヤルティマネジメント事業」を立ち上げました。数々の事業開発に挑戦してきましたが、これが私の事業開発の出発点になっており、ありがたいことに今でもJTBグループとして提供している事業となります。今日はその事業のことを中心にお話したいと思います。

そもそもJTBには、宿泊施設と交通がセットになった「パッケージ旅行」の販売を先駆けるなど、新しいものを生み出し続ける文化があったからこそ私も挑戦できたと思っています。それこそDeNAは新規事業や社内ベンチャー的な動きには積極的ですよね。

秋元:そうなのですが、私が在籍していたときはちょうどゲーム事業に注力することになり、動いていた他の新規事業は全て実施を見直すことになりました。そんな状況で農業は無理だと思いましたね。仮に農業ではなく、ゲーム関連領域と事業シナジーがあることを考えていたら、起業していなかったかもしれません。

誰にサービスを提供しているのかを忘れるとき

上田:私はこれまで新規事業の挑戦で50戦ぐらいしてきましたが、恥ずかしながら5勝、5分、40敗くらいの割合で、形に出来なかった事業のほうが圧倒的に多く、会社には多くの迷惑をかけてきました。先ほどお伝えしたカスタマーロイヤルティマネジメント事業は成功しましたが、そのなかでも推進していく過程で失敗を繰り返してきました。

秋元:成功することのほうが少ないですよね。

上田:そうなんですよね。この事業における失敗といえば、お金をいただくのが法人クライアント様なので、どうしてもそちらに目が向いてしまうんですが、実際はその先にいるお客様(ユーザー)の内面に深く目を向けなければ事業価値はない。そこを忘れて進めた施策はやはり効果に繋がらず、企業の担当の方からは「カスタマーロイヤルティのプロとしての自覚はあるのか!」などと大変なお叱りを受けたりもしました。

自分が正対しているクライアントばかりに目を向けたり、社内のプロセス管理や目標管理などを優先したりしてしまって、「真に観るべきお客様(ユーザー)」のことを徹底的に考えて向き合っていなかった。失敗の要因は事業が変わっても同じだと感じています。

秋元:事業をやっていると目先のKPIなどに集中してしまって、本当にコアな価値を届けるみたいなところをつい忘れちゃうことがありますよね。
「食べチョク」では「生産者ファースト」を掲げ、消費者さんには多少不便でも、生産者さんにとっての最善を選択してきました。けれど「食べチョク」のお客様は生産者さんと消費者さんの両方だから、生産者さんに向きすぎてもいけないんですよね。ユーザーも100万人を突破し、さらに拡大していくなかで「食べチョク」のコンセプトは大事にしつつ、新しい試みができないかと日々試行錯誤しています。まだ答えは出ていないのですが、上田さんの「真のお客様のことを忘れない」という言葉を胸に、引き続き何がベストか考えていきたいと思います。

上田:いやいや、それで私も失敗していますから(笑)。

秋元:よく「失敗の先に成功がある」と言われます。「食べチョク」はまだまだ成功への途中ですが、これまでも大変なことはたくさんありました。例えば2019年に2億円の資金調達を行っているのですが、決まるまで何十件と断られて翌月にはキャッシュが切れるという状態にまで追い込まれたりもしています。

上田:それは背筋が凍りますね。

秋元:でも今があるのは、そういう失敗の積み重ねがあってこそなんです。

迷ったら社外に出て、人に会う

上田:今までの経験のなかで、クライアントになる可能性のある方々を相手に、仮説提案と壁打ちを何度も何度も、それこそ心が折れるくらい繰り返したことで、事業が形になったという背景があります。秋元さんは誰かに事業について相談したりするのですか。

秋元:それが難しくて…。「食べチョク」には農業とITという二つの側面があるのですが、両方に精通、理解している方が周囲にあまりいなかったんですよね。なので例えば農業に精通している方に相談をすると、IT部分に対してネガティブなフィードバックをいただくこともあるので、そこを前提にしながら話を聞いたりしています。コンサルタントとか、そういった人にも相談はしますが、誰に相談しても結局のところ事業をやっているのは自分なので、答えは私の中にあると思っています。

上田:最終的には自分で決めているということですね。

秋元:はい。それでも迷ったときは生産者さんに会いに畑に行きますね。すると悩んでいたこともリセットされる感じがあって、これもしなくちゃとまた次の案が出てきます。提供したサービスでエンドユーザーが喜んでいる声を聞くと、やはりモチベーションが上がりますね。

上田:外に出て人に会うということですね。私もいろいろな事業を経験するなかで、社外のネットワークを増やしてきました。外に出ていけばさまざまな業界の人々に出会えて、世の中はこんなに変化し新しいことが起きているんだ!と刺激をもらってワクワクする。それが事業開発へのモチベーションになりますし、私も悩んでいるときほど社外の人と会って、必ずしも事業のことに関係なく話をするようにしています。

小さな喜びをシェアすることで乗り切る

秋元:エンドユーザーの声を聞いて頑張ろうとは思えるのですが、とは言えつらいときがあるじゃないですか。

上田:ありますね。そういうときは秋元さんはどうされていますか。

秋元:特に起業したての頃は、自分の経験が本になることを想像していました。本は、起承転結がないと読者も面白くないから、今はちょうどつらい章だよねと。つらい章がかなり長かったけれど、おかげで2021年に本も出版できました。

上田:それは面白い視点ですね。私も本を読ませていただきましたが、そんな背景があったのですね(笑)。

秋元:それから、新規事業って大抵はうまくいかないことのほうが多いから、めちゃくちゃ小さいことでも過剰に喜ぶということをやっています。新聞に小さくとも「食べチョク」を紹介いただいた際には、「喜びの舞を踊ろう!」と社のみんなで踊っている動画を撮影したり(笑)。
今でも社内のチームSlackにはお客様からの言葉などをまとめた「嬉しい声チャンネル」というのがあって、疲れたらそれを見て癒やされています。上田さんはいかがですか。

上田: 私が懲りずに挑戦を続けている根底には、私の亡き祖父の存在があります。彼は事業家で、大失敗して相当大きな借金を抱えて苦労した人なんですけど、その祖父が幼い私に「失敗しても命までは取られない。しっかり責任を果たしたら、また挑戦すればいいんだよ」とよく言っていました。
また、挫折したときこそ、外の人と交わり、多くの刺激に触れるようにしています。そうすると自分以外がどんどん変化・進化していることへの危機感と、まだたくさんの可能性があるじゃないか!というワクワク感が生まれ、モチベーションが新たに湧いてきますね。

重要なのはアウトプットの量と熱量

上田:秋元さんにお伺いしたいのですが、アイデアを形にするときに大事にしていることはありますか。私はアイデアが浮かんだら、簡単な図解とかイメージにあう写真を探したりして、一晩でとりあえず形にするということをトレーニングしていた時期がありました。そしてそれをお客様にぶつけてみてフィードバックをもらって改善する。これをひたすら続けた結果、次のステージに行けたというのがあります。繰り返していくうちに、スピード感も増しますし、フィードバックの量が増えれば、どこが肝なのかが分かってくる。

生煮えのアイデア段階でアウトプットすることにためらう人もいるけれど、お客様の反応を見てみないと何も始まらないし、答えはお客様にしかないから、どんどんやってほしい。お客様に向けたスピード感とアウトプットの量が大事だと思っています。

秋元:私も量が大事と考えていて、量には「行動量」と「熱量」の二つがあると思っています。Facebookを立ち上げたマーク・ザッカーバーグが「完璧を目指すよりまず終わらせろ」と言っていましたが、高速回転で回していく行動量は重要。
それに加えて熱量ですが、最近私は新規事業の推進ではなくフォローする立場で企画を見ることが多いのですが、完璧な企画だけど、発案者の熱量が伝わってこないと企画自体は、本当にうまくいくのかなと思います。反対に企画はそれほどでも「絶対やるんです!」みたいな熱量でこられると、熱量の多い人の企画を採用したくなります。

上田:その気持ちよく分かります。

秋元:自分自身のことを振り返ると、企画書をもって説明に行くよりも、一緒に農作業をしながら生産者さんに「変えていきましょう!」と話していると、決して十分な計画やイメージでなくても協力するよと言ってくれる農家さんが多くいらっしゃいました。
利害関係だけで考えて、自分のリターンと費用を見ると儲からないものでも、ものすごい熱量で頑張っている人を見ると一緒にやってみたら楽しいかもと思えてしまう。結局、意思決定をするのは人なので、どれだけ強い思いをもっているのかが大事になってきますね。

上田:私も、先ほどのカスタマーロイヤルティマネジメント事業を立ち上げたときに、自分には相当な熱量があったんですよね。そして、事業を形にするために社内からメンバーが集められたんですけど、私は強い思いがあるからああしたいこうしたいと事業へのこだわりも強く突き進んでいたし、メンバーとも同じような熱量を共有して一緒に取り組んでいきたかった。けれどある日、メンバーが私の上司に「上田さんとは一緒にできません。無理です」と訴えて、チームが一度解散することになったんです。

秋元:メンバーからNGを食らったわけですか…。

上田:そうです。熱量はすごく大事だけど、熱量を伝播していくのってすごく難しいなと当時感じましたし、今でもその答えを模索し続けています。

秋元:私はその逆を経験したことがあります。私は熱量を持ちすぎて燃えている太陽のような存在で、太陽に近づきすぎると焦げてしまう人がいるからメンバーとの距離を考えたほうがいいと言われたことがありました。それで一時期、メンバーの前では燃えていることをあまり出さないようにしてみたんですよね。

上田:そのようなパターンもあるのですね。

秋元:その頃はもっと経営者らしくしなきゃと、大企業のビジネス書なんかを読みまくって頑張って経営者らしく振舞っていたら、気付いたら社内の雰囲気がいわゆる大企業病みたいになってしまって…。「これは私の仕事ではない」といった変な線引きや、「あの人と働きたくない」といった声が出てくるようになり、どうしてこうなっちゃったのかと思いましたが、よく考えたら自分が原因だったんですよね。

従業員と適度に距離を置こうとした結果、私の熱量が社内メンバーに伝わらなくなっていたし、フィードバックも無くなっていたので、私とメンバーとの交流もなくなっていた。フィードバックを大事にしようと従業員には言っていたのに、私が一番フィードバックしていなかった。それでは何も伝わらないですよね。

ワントライできたことが、ナイストライ

上田: いまJTBでは組織の中で熱量をもち続けられる場づくりとして、「nextender」というイノベーション創発プロジェクトを立ち上げているんですよ。
 
秋元:どんなプロジェクトですか。
 
上田:私はJTBの事業開発の責任者をやっていた2016年から、JTBでは新規事業公募制度とか、小さな改善などを応募できるような仕組みづくりはやっていたのですが、それだけでは、なかなか会社全体の大きなイノベーションというのが起ききらなかった。

そこで昨年度、事業単体だけではなく“大きな事業領域”を開発するといった、もっと大きな枠組みでイノベーションを起こしていけるように、新たなチームが発足して「nextender」が生まれました。各所に起きているイノベーションを束ねて、大きな塊にしていくことが重要だと思っています。新規事業を幾つも失敗してしまってきた私としては、会社への罪滅ぼしと恩返しだと思って、「nextender」の発展のためであれば何でもやります!というスタンスでサポートしています(笑)。

秋元:なるほど(笑)。実は、私たちが新規事業に取り組み始めたのはここ1年半くらいで、最近ではメンバーから自発的に案が出てくるようになりました。けれど、それが「食べチョク」の一施策におさまっているなど、本当はもっと大きくなる可能性があるのにもったいないと思うこともあって、何とかしようと働きかけたりしています。イノベーションが生まれるための環境づくりは必要ですね。

上田:「nextender」では多種多様な機会が用意されています。初めから自分で新事業を考えて能動的に挑戦する場だけでなく、まずは学んでみたり、コミュニティでつながり合ったりすることもでき、また、事業開発やイノベーションにメンバーとして参加できる機会もどんどん提供していく。そこで成功体験が生まれたら嬉しいし、自信にもつながります。逆に失敗すれば悔しいし、気づきも生まれますから。そして「nextender」は、そうした経験を経た人たちが、更に大きく挑戦し、飛躍できる成長の場でもあります。

秋元:それは素晴らしいですね。

上田:一方で、人が挑戦を続けていく際に重要なのは、失敗を他責にしないことだと思っています。他責にしてしまうと学びを得られません。そしてそれと同時に失敗しても自責のドツボに落ち込まないというのも大事です。失敗はしっかり受け止めて、真摯に何がいけなかったのかを学び、失敗してこそ成功する場にもなってほしいですね。

秋元:おっしゃる通りですね。最近私が聞いてなるほどと思ったのが、失敗を許容するのではなく挑戦を称えようということです。失敗は許容されなければいけないものではなくて、挑戦の過程では絶対に必要なものなので、誰かに許してもらわなければいけないものではないと思っています。

反対に挑戦をする人は少ないので、ワントライだけでもナイストライだし、失敗してもトライすることに価値があると思っています。人材をどう育てるかにも共通していますが、小さい成功体験の積み重ねで、人は挑戦できる幅が変わってくる気がしていて。初めから大きく挑戦するのは難しいけれど、小さく挑戦することはできます。ハードルを上げすぎないで自分から手をあげて挑戦すれば、それだけでナイストライ。そう思えることが大事ですね。

※イノベーション創発プロジェクト「nextender」の詳細はこちら

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