中長距離の選手にスピードが足りない?

ブダペストでの世界選手権が近くなってきましたし、いつもながらというか長年言い続けていることを書いておきますが、

足りないのはスピードではなくて持久力である

というのがこの話の結論です。足りないのは持久力です。どういうことか?
100mを12.5秒というペース。ある程度トレーニングしている人ならば不可能ではないタイムになります。このまま走り200mを25秒。これもそんなに難しくない。300mで37.5秒。どうにかなりそうなところですが、一気に壁となってくるのが400mで50秒。さらにそのまま行って800mになると1分40秒。世界記録です。200mで25秒なんてある程度の選手であれば練習で出しているタイムですが、そのまま800m以上の距離になれば世界記録です。よって足りないのはある一定の速度を維持し続ける持久力です。もちろん100mで12.5秒が自己ベストだった場合、それを維持し続けるのは現実的ではないのでもう少し速く走れるようにする必要がありますが、ではその速くはどこまで速くするべきなのか。そしてもう一つ疑問なのが、どうして400mのタイムで考えるのか。400mを50秒で走れる選手と45秒で走れる選手、800mが速いのはどちらですか?と聞かれたときに、45秒の選手と答える人は多いかなと思いますが、では100mのトップ選手に800mを走らせてみたら、1500mを走らせてみたらどうなりますか?分かりやすい所で考えてみると十種競技で4分を切って走れる選手はほとんどいませんよね。種目を重ねているからというのもあるかと思いますが、単発で1500mを走ってもらっても厳しいかと思います。10秒台で100mを走れるけれど、400は49秒とかで走れても、1500mになると4分30秒くらいになってしまう人は多いです。これは得点が高くなりやすい投擲種目に力を入れるからなど競技特性もあって持久的な要素を軽視しているからというのもあるかと思いますが、短い距離の種目で能力を発揮することを中心にトレーニングしている人は、長い距離になると持久力が無いためタイムは期待できないというのが現実としてあります。その昔に早稲田大学の競争部が中村、瀬古といった監督の時代に、短距離選手に持久力をつけさせたら速くなると考えて、駅伝ブロックに引き抜いてとにかく走らせたという逸話が残っていますが、結果としては失敗に終わっています。この辺りは冬の喝采という本をお読み頂ければ。
そんなわけで、スピードがある選手に長い距離をやらせるのは難しいというのは感覚的に分かっていても、長距離の選手はスピードが無いからスピードが必要だと考えて400mのタイムを中心にスピードを考える。これって何かおかしいなと思うわけです。800mを速く走りたければ、800mに必要なスピードであり、1500ならば、5000ならば、です。よく聞くのが日本人はスピードが無いからラストスパート勝負では勝てないから前半積極的に前に行く、というやつですが、これで成功した人っていましたっけ?スピードが無いから前に行ったとしても、後ろにいるのはよりスピードがある選手だとしたら、風よけとペースメーカーとして使われるだけであり、何の戦略性もありません。積極的に前に行ったところで先に仕掛けてもスピードが無ければ抜かれます。自分のリズムで走れた結果、ラストスパートができるのかとなると、そういうわけでもありません。そもそもにラストスパートって何なのかという点を適当に考えすぎているかと思いますが、あれはエネルギーを残している人たちがラストで上げているだけです。余力がある人はさらに上げている。つまり大事なのはスピードも確かにですが、一番大事なのは余力です。ではどうやったら余力を残せるかとなったら、それはやはり無駄なエネルギーを使わないことと、持久的な要素を高めて余力を残せるようにすることですね。ここで忘れてはダメなのが、持久的な要素という面にはスピードもくっついているという点です。持久力という言葉を単純に考えると、より長い時間運動ができる、というものがあります。巷で売られている商品なんかはこれですね。でも陸上競技における持久力というのはより長い時間での運動ではなくて、より短い時間で終わらせられるようにする持久力です。最初から持久力の定義、イメージが間違っていることが多いわけです。ある程度の速度を維持する持久力が高いと、余力をより残せるようになる。ある程度のスピードがあるならばスパートをかけて勝負になるかもしれない。ところがこの点、スピードと持久力を完全に別物として考えてしまっている結果、何だかいつもと同じことになってしまうわけです。スピードが足りないのではなくて、スピードを出すためのエネルギーが残っていない。つまり持久力が足りない。これです。この点の認識を変えられれば、やるべきことはある程度の速度を維持し続けられるようにする練習、そうなるはずです。スピードが足りないと言われ続けてきた結果、100mや200m、400mのスピードは上がったかもしれないけれど、それを維持する能力はあまり上がっていない。聞き覚えのある人は多いような気がします。400mを60秒で走れるようになったら次は600mを90秒で走れるようにする。これが中長距離種目では大事になりますが、どうしても400mを55秒で走れるようにする方向にいってしまいます。

足りないのはスピードじゃない、スピードを維持する持久力

この認識に変えていってもらって、練習なども根本から見直していただければと思います。そして世界選手権などの解説でスピードが足りないという場合、日本人は200mくらいまでのスピードならば多分どうにか追いつけるはずです。そこから先を維持できないから離されるし、ラストスパートはスピードが無いからではなくて余力が無いから離されることがほとんど。そう言った視点で考えてもらえればと思います。ということで丁寧に走り込んで持久力を高める作業が大事です。でもこの走り込みにおいて、狙いとなっているのが2時間走れるから次は3時間となってしまう、より長く動き続けるための走り込みになってしまいがちなのが次の問題点ですかね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?