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2020インフラ健康診断書(河川部門・堤防)

土木学会事務局です。

土木学会では2016年度より、「インフラ健康診断」の取り組みを行っています。これは、土木学会が第三者機関として、橋やトンネル、上下水道などの社会インフラの健康診断を行い、その結果を公表し、解説することにより、社会インフラの現状を広く国民の皆さまにご理解いただき、社会インフラの維持管理・更新の重要性や課題を認識してもらうことを目的としています。

今回は2020年度の健康診断結果から、「河川部門(堤防)」の健康診断結果と健康状態の維持向上のための処方箋をご紹介いたします。(河川部門の評価は堤防・河川構造物・ダム本体に分けて評価していますが、処方箋に関しては、河川部門全体を対象とした内容です。)

なお今回の健康診断では、河川の整備水準は評価の対象ではなく、これまで
長年にわたって進められてきた河川整備によって設置された堤防やダムな
どの河川管理施設が、設計上の洪水外力を受けた際に、その機能を発揮で
きるよう良好に維持管理されているかという観点から評価
しています。

診断結果は、健康度(現在の状態)がC(要注意)で、維持管理体制(維持あるいは回復するための日常の行動)が、下向き(現状の管理体制が改善されない限り、健康状態が悪くなる可能性がある状況)とされました。

以下、「河川部門(堤防)」の健康診断結果と処方箋を解説いたします。詳細な内容は、2020インフラ健康診断書の冊子でご確認ください。

堤防の特徴

国および都道府県等が管理している河川の堤防延長は約6万2千kmであり、このうち約20%が国管理、約80%が都道府県等の管理です。堤防は延長が極めて長い線的構造物であり、洪水時に一箇所でも決壊すると、一連区間全体の治水機能を喪失してしまいます。また、原則として土で作られ、過去幾度にもわたって築造・補修されて現在に至っており、堤防を構成する材料が不均一であるという性格も有しています。さらに、堤防は複雑な地質構造を有する氾濫原に築造されています。このように、堤防はいわば一つとして同じ構造ではないことから、これまで長年の経験などに基づいて安全性が確認されてきました。これまでの経験に基づく維持管理を踏まえ、今後の維持管理の水準を高めるため、技術的知見の蓄積を図ることが必要です。

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現状の健康状態

河川堤防の現状の健康状態は、少なくない箇所の堤防で護岸の破損や亀裂など、堤防の機能障害への進行が懸念される変状が生じています。予防保全の観点から早急に対策を実施することが望ましく、詳細な点検によって堤防機能の低下を評価するなど、適切な維持管理の継続的な実施が求められます。
都道府県等が管理する河川は、国が管理する河川と比較して、一般的に川幅や堤防の高さなどはそれほど大きくないものの、安全度の水準が低く、維持管理水準の影響が水害に直結します。また、都道府県が管理する河川堤防延長は長大で、かつ、堤防の規模や管理区間の重要度などがまちまちであるため、実務的な課題解決につながる維持管理を継続的に実施していくためには、点検対象を河川の特性と重要度に応じて区分し、点検・評価の仕方を区分ごとに定めるなど、現場の実態に沿った点検・評価手法を構築する必要があります。

維持管理体制

堤防で見られる変状に対し、年に1回以上の点検・評価が実施され、河川管理者において維持管理計画が策定されるなど維持管理に係る制度面は整備されつつあります。しかし、長大な管理延長を持ち、水面下や植物繁茂などによる不可視部分を含む堤防について、目視点検により詳細に機能評価することは容易ではなく、堤防点検の実態に沿った評価技術・方法の開発が必要です。また、施設に対する外力が増大しつつある状況下で維持管理に要する予算・人員が不足することが危惧され、維持管理に関する知識・経験の継承も難しくなりつつあります。

健康度の維持・向上のための処方箋(河川部門共通)

土木学会は、河川管理施設の維持管理の重要性を国民、政府へ継続的に情報発信し、根本的な課題である予算と人員の充実に向けた社会的な理解促進に取り組む。

河川管理者は、延長が長く不可視部分の多いという堤防の特性に基づき、堤防管理の現場の実態に沿った点検・評価手法を構築、実施する。

ダム管理者は、ダムの機能・恩恵を可能な限り長期的に享受できるよう、アセットマネジメントによる評価に基づく予算化、補修を徹底し、健康度を維持する。

都道府県等が管理する河川については、都道府県等が持続的に適切な河川管理が実施できるよう、国・都道府県等・土木学会の連携を強化する。は都道府県等の現状を踏まえた制度・体制作りを支援する。土木学会は点検によって得られた情報に基づいて客観的に健康度を評価できる技術や予算・人員の制約のもと効率的に点検・評価を行うための技術を開発し、技術的支援・助言を行う。都道府県等は河川の特性と重要度に応じて管理区間を分類し、自ら維持管理計画を立案するとともに、実施に向けた管理体制を整備する。

健康診断書の解説動画

土木学会では2020年6月16日にインフラ健康診断書の結果を受けて講習会を開催しました。河川部門(堤防・河川構造物・ダム本体)の診断結果の解説動画(約18分)を以下でご覧頂けますので、あわせてご覧下さい。

台風第19号災害を踏まえた今後の防災・減災に関する提言~河川、水防、地域・都市が一体となった流域治水への転換~

2019年10月12日から13日にかけて日本列島を縦断した台風第19号は、北陸、関東、東北地方を中心に記録的な降雨量となり、142箇所にのぼる堤防決壊や、土砂災害、高潮災害が発生し、死者・行方不明者96人、住宅被害約9万棟など甚大な被害をもたらしました。この甚大な災害をうけ、土木学会では種々の分野の専門家を団員とする「台風第19号災害総合調査団」による集中的な現地調査と俯瞰的かつ総合的な討議を行い、今後の国づくりに求められる要点を提言として取りまとめ、2020年1月23日に公表しました。

気候変動に伴う災害多発時代に向けて、強靭性の高い国土づくりと、地域のリスクを踏まえた戦略的な国土利用を進めるために、最重要の河川整備への投資とともに、氾濫を抑える流域対策、および氾濫リスク評価などに基づき氾濫に備える流域対策を進化させ、ハード・ソフト両面で地先・広域の水防を行い、さらに、氾濫リスクに基づくまちづくり・住まい方の改善による被害軽減を進め、河川、水防、地域・都市が一体となって取り組む「流域治水」の実現に向けた重点的施策の実施が求められています。

インフラメンテナンス総合委員会

現在土木学会では、インフラメンテナンスを力強くなおかつ恒常的に位置づけるため、既存の関連委員会を発展的に統合し、会長を委員長とする「インフラメンテナンス総合委員会」を2020年度から常設し、活動を推進しています。活動予定など、最新情報は以下のサイトでご確認ください。

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/