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「スマートシティ」について考えてみよう

中野信悟
論説委員
パシフィックコンサルタンツ株式会社

はじめに

本年、4月、内閣府から「スマートシティガイドブック」が示され、政府方針「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2021)」では、スマートシティを2025年度までに100地域構築する目標が示された。今更ではあるが、スマートシティとは、デジタル化や、AI、IoTをはじめとする技術開発が急速に進展する中、これらをまちの課題解決に取り入れ、市民生活の質、都市活動の効率性の向上を図る取り組み、またはその都市のことをさす。

多くの都市が「スマートシティ」に関心を示し、多くの民間企業がビジネスチャンスとして参入競争を激化しつつある。小生も都市計画・開発に係るコンサルタントとして、「バスに乗り遅れるな」的に、国や地方自治体の相談を受けるが、目新しい技術の導入実験に終始し、持続的にまちの課題解決に貢献しているかと言われると、恥ずかしながらまだ胸をはって説明できない状況である。

スマートシティの難しさ

現在、全国で国の支援による実証段階の取り組みが展開されている。新技術の導入など興味を引く反面、国の支援が無くなった場合でも自走できるものはいくつ存在するだろうか。これまでの中心市街地活性化や地方創生と同様、取り組みの持続性確保が課題と考える。

また、スマートシティの実現に重要とされている「都市OS(都市活動における移動や医療、教育、金融などの膨大なデータを活用可能とするプラットフォーム)」は、概念や仕組みが例示されているが、現時点ではその実装に確定的な成功手法は見出されていない。データ管理や連携にあたってはプライバシーの法的な取り扱いやデータガバナンスへの対応を強化する必要があり、何より市民や企業の関心と理解醸成がまだ不足しているように思う。

推進主体に目を向けると、全国では、地方自治体と複数の民間企業などによる官民連携の協議会で取り組まれているが、新市場開拓を狙う企業が協議会に多く参画することで、企業間調整が大きな負担となっているように思う。施策や事業間の調整となるとさらにハードルは上がるだろう。

スマートシティを進める上で大切なこと

言うまでもないが、「技術から課題オリエンテッドへ」を改めて再認識したい。地域課題の解消に民間の最先端技術を活用するのが大前提だが、それには、公共の積極的かつ継続的な関与が何よりも重要に思う。民間が収益性を追求することで、最先端技術の導入が地域課題の解消や市民のQOL向上から乖離する場合もある。

また、地域課題は、都市OS等の新技術で一気に解消することを考えるのではなく、きめ細やかに、市民の属性や活動エリア、活動内容などによって課題を先鋭化して対策を検討するアプローチが必要に思う。その課題や対策は、官民連携で取り組むべきか、社会保障を含めた行政サービスとして取り組むべきか、スマートな新技術が有効なのか、アナログが有効なのか等、事業の峻別を絶えず繰り返す工程が必須と考える。

市民の理解を得るために、市民がQOLを実感できる課題解決から手をつけ、徐々に事業範囲・量を拡大させていく中長期的な持続・成功のサイクルを描くことも重要である。

初期段階から新技術(シーズ)を有する複数の有名企業が名を連ねた大所帯の協議会よりも、地域課題に立脚し確実に市民のQOLを向上させる事業の実施に必要な枠組みを組み立てることから着手し、最適な民間企業を選定していくプロセスが有効ではないかと考えている。

その上で、スマートシティの担い手としては、公共が積極的かつ明確に一定の責任を負いつつ、地域からの理解が得られること、行政との密接な連携ができること、資金調達や事業投資判断の仕組みが介在できる民間組織の良さを兼ね備えた、小回りの利く中間組織が適しているものと考える。

最後に、民間企業の有する新技術を導入する先駆的な取り組みは比較的都市部でよく耳にするが、これまで地方部でのコンサルタント経験が多い小生にとって、厳しい人口減少や産業の衰退が懸念される地方部こそ、先進技術を活用したスマートな地域経営(スマートローカル)が急務であると考える。今、まさに注目されているデジタル田園都市構想がその方向性を示してくれるかもしれない。特に地方部に豊富なグリーンインフラや再生可能エネルギーの活用によって、これまで一方通行であった地方部と都市部との結びつきに変革をもたらすことが持続可能なスマートシティに欠かせない要素になると考える。

土木学会 第175回 論説・オピニオン(2021年12月版)




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