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土木の魅力を伝えたい

椛木 洋子
論説委員
株式会社エイト日本技術開発

昨年の年明け早々に始まったコロナ禍は、1年半が過ぎ、ようやくワクチン接種が本格化してきたが、社会生活は以前の状態には程遠く、相変わらずの「不要不急の活動自粛」で閉塞感が漂っている。土木業界が、若者に人気がなく、大学も企業も敬遠されている状況も相変わらずで、せっかく就職したとしても、なかなか定着せず、早期に離職する人が増えていると聞く。さらに直接の人との交流が制限された状況では、個々に様々な問題を抱えていても、相談相手もなく、孤独感、孤立感を深めていくこともあるかもしれない。出口がなかなか見えない状況ではあるが、先に社会人になった私たちには土木の意義や魅力を伝え、明るい未来を示す責任があると思う。厳しい状況だからこそ、あらためて考えてみたい。

土木の魅力とはなにか。「土木」を生業としているものにとっては当たり前すぎるため、積極的な発言、発信を怠っていたのかもしれない。その反省にたち、橋というものづくりが専門の自分にとって、土木の魅力とはなにかをまとめてみた。

・社会を支える上で必要なものづくりにおいて、創造性を発揮できること
・ものを作るという一つの目的に向かって、多くの仲間と一緒に取り組むこと
・完成まで長い時間と労苦を要するが、その分大きな達成感を味わえること
・完成したものを多くの人々が受け入れ、喜んで使ってくれること

土木は、日常生活に欠かせない生活インフラを支えるほとんどすべてのものに関わりがあり、重要な役割を担っている。その役割を真に理解すれば、おのずと使命感が生まれ、やりがいを感じて、日々仕事に励むことができる。さらに社会とのつながりを実感し、志を同じにする仲間と協働することは、よりモチベーションを高めてくれるはずである。少なくとも自分自身はそのように仕事に従事してきた自負がある。だから仕事も面白いと感じてきた。

多くの技術者は、自らの知識や経験を基本に想像力を発揮して解決策を見出すことで仕事を完遂してきたはずである。それはとても「創造的」で面白い。経験を積み重ねることにより、さらに高度な仕事にチャレンジできるようになる。その都度新たな知見を取得し、技術力の高まりを実感できる。これは仕事を行う上での大きな楽しみの一つである。

ただし、これには、落とし穴があることにも気が付いている。仕事には、都合よくステップアップできるものばかりとは限らない。一般的には同じような内容の仕事を効率的にこなすことが求められる。最初のうちは、慣れた作業を繰り返すことで、さらに時間短縮できることが最初の小さな成功体験と言え、モチベーションにつながるのかもしれない。しかし、一定の経験を積んだ技術者にとっては、同じ作業を何度も繰り返すことでは、なかなか満足できなくなる。「創造性」のないつまらない作業に思え、集中力を欠き、凡ミスをし、結果的に効率が低下するという悪循環を招きかねない。そんなとき、人は、「土木の魅力」を忘れ、その場を離れようと考えてしまうのではないか。

では、土木に携わる技術者が忘れていた「土木の魅力」を思い出し、明るい未来を信じることができる解決策はあるのか。自分の経験からは、「知的好奇心」を刺激することで、モチベーションを維持できるのではないかと考えている。実際に、次のような「イベント」を定期的に行うことを心掛けることを提案したい。

1.コンペへの挑戦
創造性を発揮できる最高の機会であり、コンセプトを考えることにより「目的意識」が明確になる。また、たとえ、勝者になれなかったとしても、仲間との協働による連帯感、達成感が得られる。

2.現場見学、現地視察
国内外を問わず、良い事例から刺激をもらえる。自分で関わったものであれば、達成感や社会との関係性を認識できるため、効果的である。同行者と議論することもお勧めである。

3.先輩技術者の話を聞くこと
経験を積んだ先輩技術者が、どのように考え、課題を解決して作品を生み出したかなどを語っていただくことで、聞く人に土木の魅力が伝わってくる。

少し前の土木学会誌2019年7月号に、「世界初のエクストラドーズド橋に学ぶ今後の土木技術-若手パワーアップ小委員会&土木のこころの会が聞く先輩からのメッセージー」が掲載されている。ぜひ、お読みいただければと思う。

土木学会 第171回 論説・オピニオン(2021年8月版)


国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/