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道路インフラの将来について

上田 康浩
論説委員
前田建設工業


都市部における通勤・通学時の交通混雑の課題、地方における公共交通の路線廃止などによるサービスレベル低下の問題、交通事故の削減などの交通全体に対する課題は山積している。この課題に対して、自動運転技術やMaaS、DX技術などの先進技術の活用に加えて、鉄道、新たな交通システム、ドローン、船舶なども含めた様々な交通インフラを連携することで解決することが検討されているが、将来にわたっても道路インフラが交通インフラの中で大きな部分を占めることが予想される。この日本全国に張り巡らされた道路インフラを日本の将来に向け、どのように構築運用していくかが大きな課題と考える。

まず自動車が日本に持ち込まれて120年あまり。戦後復興から高度成長期を経て、自動車中心の道路政策もあり、今では道路に自動車が我が物顔であふれかえる自動車中心の社会となった。近年この流れに対して世界的に都市交通政策の見直しが行われており、道路空間の再配分がなされ、これまでのような自動車中心の道路ではなく、もっと人に開放された道が増えていくことを考慮すべきと考える。

既に海外ではまちづくりにおける道路政策として、全トリップ数のうち、徒歩、自転車、公共交通の割合を目標値化するなど、自動車中心から人中心のまちづくりの取り組みを進めている。日本でも歩行者利便増進道路制度を創設し、歩道にカフェやベンチを置いてゆっくり滞在できる空間を作れるようになった。また立体道路制度を活用し、自動車が建物の中や下を通ることによって、人は自動車の流れに通行を妨げられることなく信号待ちもしないで町中を歩けるしくみにも活かされそうである。

さらに世界的な気候変動問題やエネルギー問題に加え、若者の車離れやテレワークや二拠点居住の増かなど、人々の価値観や生活様式はこれまで以上に多様化していくと考えられる。今後、さらにメタバースや分散型自律組織(DAO)といったバーチャル空間における新たな社会・人間活動の場の出現などを受け、この動きは加速しそうだ。

これらを考慮すると、道路自体の持つ機能が今後はさらに増えていくと考える。例えば自動運転の普及により、道路は単に移動するための空間から移動時間を有意義な時間を過ごす場に変化するだろう。具体的には映画館やゲームセンター、ワークスペースに加えて、バーチャル空間で好きなアニメキャラと会話したり、車窓の景色と連動したART作品を同乗者と体験をする場など。ユーザーがやりたいことを指定するとそれに合わせて車の方が最適なルートを選んでくれる。

また歩行者や電動カート、電動キックボードにとって歩道は自動車を気にせず、散歩やウィンドウショッピング、カフェを楽しむ場、写真撮影の場など生活空間の一部となるだろう。自動車にとって車道は給電の場など様々な機能をもつことになる。このような多様な機能を持つ道路インフラを運営する観点からは、道路点検、補修、料金徴収の仕組みを効率化・自動化・省人化するとともに、データ連携を進めて、新たなサービスを付加することで収益を得て安定的なトータルサービスをすることが期待される。

これらの将来の道路を実現するためには、技術の進歩も必要だがそれ以上に、法律の整備や規制緩和、まちづくり全体についての地域住民との合意形成などに時間がかかることが予想される。これらは既存の自治体・道路運営機関だけでは実現は困難で、公共・民間・地域住民が一体となって推進する必要がある。例えばPPP/PFI手法を発展させ、

①まず公共が民間企業にビジネスチャンスを与え、それに対して、民間企業がインフラに資金投入を行う。
②その資金を基に老朽化したインフラが適正に更新されるとともに、効率的かつ付加価値の高いインフラが運営される。
③これによって地域住民がうける公共サービスの質が向上し、地域が活性化し、地域の価値が向上し税収が上がる。
この「三方よし」の仕組みを関係者それぞれに理解していただく必要がある。

以上を踏まえ、今後は将来の道路インフラづくり・まちづくりという大きな目標のため、地域ごとに公共・民間・地域住民が互いに「三方よし」のパートナー関係となって、新しい技術・サービスの試行錯誤ができる場を構築することに積極的な方々と連携を取っていきたいと考える。

土木学会 第183回 論説・オピニオン(2022年8月版)



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