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学生は主体性がないのではなく、知らないだけだ-学生小委員会設立から1年を振り返って-

水谷昂太郎
依頼論説
学生小委員会委員長
東京都市大学大学院総合理工学研究科博士前期課程1年

企画委員会学生小委員会は、土木学会史上初の委員全員が学生から成る革新的な体制で2022年に発足した。現在12大学、総勢30名の委員が活動している。

この委員会には6つのワーキンググループ(以下:WG)があり、その中に総計15のプロジェクトを推進中である。つまり委員の2人に1人は自分のプロジェクトを持っていることになる。これまでの活動では、複数の地場ゼネコンへの現場見学会開催、香川県知事や土木学会長へのインタビュー、海外と日本のインフラを比較しSNSを通じての発信、全国大会において初の学生主催の研究討論会の開催といったものがあるが、これら全てが学生の興味関心から始まったものだ。

昨今、土木学生をはじめ若者は覇気がない、主体性がないといった声をよく耳にするが、真逆の姿ではないだろうか。しかしこれまでの活動の成果は最初から容易に得られていたわけではない。

学生小委員会は設立当初、企画案は出るものの実現には至らないということが繰り返されていた。要因としては大きく3つある。まず、本委員会の活動として何をやっても良いのだが、「何までが許されるのか、自分は何をやったらよいか」という曖昧さから、企画立案に難航したためである。ゆえに委員の多くは本来の意欲や関心がある一方で、土木学会の中の一組織としてという視点が強くなるあまり、企画案は派手なことではなく前例が多くある現場見学会や先輩技術者との懇談などに偏る傾向にあった。次に、大学の授業でも現場見学会でも知識の吸収に重点が置かれており、主体的で創造的なことをする機会は極めて少なかったことから、企画立案から実行までのノウハウを多くの学生が有していなかったことが挙げられる。そして、コロナ禍によるリモートでの活動が続き、学生間の交流も深まらないことによる心理的安全性の担保が十分に出来なかったことも影響している。

そこで私は、委員会内に少人数で運営するWGを立ち上げ、それぞれが独自の目的を持つ小規模プロジェクトを積極的に推進する体制を確立することにした。これにより、誰かの企画案を待つのではなく、自らが実行するという機運が高まるようになった。また周りのWGの活動が活発化すると、自分達も出来るかもしれないという自信に繋がったことに加えて、とにかく言ってみる、やってみるという文化が徐々に芽生えてきた。

例えば、ある著名な方へインタビューをする企画では、構想から対象者絞り込み、交渉、内諾、インタビューの実施まで約1か月という短期間で実現させた。他にも海外と日本の土木を比較したSNS発信プロジェクトがある。このプロジェクトでは、最初のテーマが「石畳」であった。

これは担当の学生各々が、都市計画、造園、道路、材料としての石、その国の文化や歴史など多岐にわたって興味を持っていたからだという。このように土木学会に所属、興味を持つ学生が必ずしも土木の王道ばかりに目が行くわけではなく、SNSをはじめとして様々な情報を容易く手に入れられることもあり、興味関心の幅は今や計り知れない広さを持っている。

スピード感と柔軟性、そして同志数名とある目標に向かって進めて既存の概念にとらわれない様子に、ある委員は「ベンチャーのようだ」と表現したほどである。事務局をはじめ関係者の後押しもあり、この変化は学生たちが自分たちのアイデアを自由に表現し、実現するための土壌を築き上げる重要な一歩となった。

学生の多くは主体性がないわけではない。何か行動に踏み出せない場合が多いのは、そのノウハウを知らず能力を発揮できなかったことや、それにより周りから否定を受けた経験による恐怖感によるものが多い。次から次に行動を起こせる自信を得るには、何度も挑戦して失敗を繰り返すことが必要である。では学生が挑戦できるような環境はどのようにして作られるのか。

土木工学は経験に基づく学問であり、そのためにトップダウンのアプローチが取られがちである。経験豊かな先輩技術者のさりげないアドバイスが、大きな影響を持つこともしばしばである。だからこそ、目指すべき目標を示しつつも、具体的な方法については言及せず、信頼を持ってプロセスを見守ることが重要だと私は考える。試みが不確かに見えたり、手を差し伸べたくなったりすることもあるかもしれない。しかしそれぞれのステップで、土木工学にとって新たな知見の創出を生むことや、技術者としての成長にとって貴重な一歩となることがある。土木で面白いことをしたい、社会に貢献したいと望む気持ちは、世代を超えて共通している。手段や視点は異なるかもしれないが、それらが組み合わさることで、世代の壁を越え、土木工学をより魅力的なものにすることだろう。

第199回論説・オピニオン(2023年12月)



国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/