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高速道路は無料公開原則の適用対象か?

中田 勉
依頼論説
元・ハイウェイ・トール・システム株式会社 監査役

誰もが道路を無償で自由に利用できるという道路無料公開の原則は、わが国の道路政策の根幹であり、すべての道路に適用されている。ここから次のような課題が生じている。

まず、高速道路を取り上げよう。現行のルール(「償還主義」という。)ではこの建設資金が償還された後は、原則に戻って一般予算で管理されることになる。平たく言えば、タダになるということである。しかし、キロ当たり単価で一般道路の約3倍と言われる高速道路の維持管理費と今後の定期的な大規模更新の費用を一般財源から調達するのであれば、これは高速道路をあまり利用しない人にとっては、不平等な結果となってしまう。高速道路利用者の受ける利益も考え合わせれば、課金は継続すべきと言える。

また、一般道路についても今後電気自動車の普及によって燃料税収入が期待できなくなることや、諸外国での動きも背景に、これに代わる走行距離課金制度を導入すること、つまり新たな課金が必要であるとの考え方もある。これはそもそもの原則に反してしまう。

このように高速道路に対する課金の継続や一般道路に対する新たな課金を考えるのであれば、無料公開原則との関係を整理することが必須になる。

この無料公開原則を考える際、「天下の公道」という言葉がよく使われる。これは、古来、道路と日常生活が密接に関連していたという事実から発したものだろう。そこから「皆で利用する道があり、誰であれその利用を妨げることは許されないという意識ないし考え方」を示す言葉として「天下の公道」という言葉が生まれ、無料公開もその考え方を反映していると思われる。現代でもいわゆる生活道路と呼ばれる道路を考えれば、日常生活と道路との密接関連性はなお存在する。現代においても生活道路は、無料公開原則の適用対象であるといえる。

この日常生活との密接関連性を有する道路では、移動のみならず移動以外の活動が展開される。移動以外の行為を生活行動と呼べば、生活行動が移動空間たる道路で許容されていることになる。したがって、生活行動の許容される道路は無料公開が必須であるのに対し、生活行動の許容されない道路は無料公開である必然性はないということになる。

こう理解した上で、改めて高速道路について考えてみよう。高速道路は高速移動の実現を目的として、自動車以外の通行を禁じ、その構造も立体交差にして一般の生活空間を遮断した「移動に特化した交通空間」である。そこには生活行動は存在しない。したがって、高速道路は無料公開原則の適用対象にはならない。考えてみると、高速道路というのは実に高級な道路である。来るなら車で来い、ノロノロせず高速で走れ、休憩施設以外では止まるな、などと注文がきわめて多い。これでは生活とともにあるすべての人のための「天下の公道」とはいえない。同様に、自動車交通量が多く、事実上生活行動が排除される一般道路も無料公開原則の適用対象にはならない場合もあろう。

以上のように道路の無料公開原則は、現代においてもその論拠は生きているが、すべての道路がその対象としてふさわしいものではないということになる。このように整理すれば、最初に述べた課題についても解決の方向が見えてくる。

最後につぶやきを一つ。

 先に道路と生活との密接関連性が無料公開原則の要件であると述べた。しかし、筆者は個人の自由を基調とする現代社会において、この原則にはさらに深く「人間の自由」が関連しており、この「自由」の問題が明確に認識されていないことこそ、無料公開原則の適用対象の議論を整理しきれない遠因であると考えている。参考文献で、上記の考えをより詳細に記載している。ご一読いただきたい。

参考文献
中田勉(2021)「道路の無料公開原則適用対象の検討-道路の物理的性状と許容される行為からのアプローチ-」未定稿 ※GoogleDrive

#道路の無料公開原則 #償還主義 #無料開放 #高速道路 #天下の公道

土木学会 第173回 論説・オピニオン(2021年10月版)


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