ふくろう

仕事柄文章をよく書きますが、ここでは日々の業務から零れ落ちた何かを綴ります。

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【劇評】星組公演『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』(脚本・演出:生田大和)

※ 以下には本劇の内容が含まれています。未見の方はご注意ください。  一  本劇の舞台は、一三世紀初頭のコーカサス地域である。当時、コーカサス地域を国土としていたのは、キリスト教国のジョージアである。しかし、ジョージアの隆盛は、イスラームやモンゴルの台頭により陰りを見せ始め、コーカサス地域はパワーバランスを失いつつあった。  本劇の主人公・ディミトリは、大国間のパワーバランスに翻弄される存在として描かれる。彼は、イスラーム国家であるセルジューク朝の第四王子であったが、幼少

    • 【書評】永井玲衣『水中の哲学者たち』(晶文社)

       一  本書のタイトルは『水中の哲学者たち』である。「哲学者たち」というと、本書は古今東西の哲学者たちの紹介本のように思われるかもしれない。  確かに本書では、著者が影響を受けた哲学者たちの名が引かれる。とくに、著者が哲学を志したきっかけであるサルトルの名は頻繁に登場し、著者とサルトルとの対話が思索の基底をなしている。  しかし、本書における「哲学者たち」は、そのような「えらいひと」(八五頁)とイコールではない。「哲学者たち」とは主に、著者が哲学対話を重ねるなかで出会った市

      • 背伸びする反文明

         東京オリンピック開催を3年後に控えた1961年、我妻栄は、ジュリストに「背伸びする文明」と題するエッセイを寄稿している(236号63頁)。我妻は、本エッセイにおいて、同年9月16日に室戸岬に上陸し、関西地方に被害をもたらした台風18号を起点として、戦後日本の「背伸び」を嘆いている。  我妻は、「台風の来る度毎に・・・多くの人命と財産を失いながら、じっと忍んで台風の通り過ぎるのを待つ」現実と、オリンピックに「便乗」して「間口ばかり拡げられ、外見だけが立派にされてゆく」虚飾を

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