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”白色光(白熱灯、蛍光灯、LED)”の謎

2019年12月14日に、中学生向け理科体験授業でDVD分光器を使った光の性質の探究を行いました。白熱灯、蛍光灯の消費電力の違いを観察結果から考えることができます。また、白色LED光の秘密にも迫ります。この方法を使って家の光MAPをつくることもできます。

理科体験授業の背景

 今回の体験授業は、松山市教育委員会・松山市中学校理科主任会が主催する「おもしろ理科教室」です。
 私は2013年から、この事業に協力しています。最近は、研究室の学生・院生さんが授業者となって、自分が設計した授業を実践させていただいています。今回は、20名の生徒さんを対象に実験を実施しました。

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おもしろ理科教室実験風景(参考画像)

工作しよう ーDVD分光器の作り方ー

 実験では、生徒さんたちが自分で作ったDVD分光器を使って、光の分類を行いました。今回用いたDVDで分光器は以下のような感じになります。

簡易DVD分光器装置概念図2

DVD分光器概念図

 工作用紙やお菓子の空き箱でも簡単に作れます。作り方については、DVD分光器で検索していただくとたくさんのサイトがありますが、一例を示します。
 公益財団法人日本宇宙少年団 簡易分光器

制作のポイント
準備段階 DVDから回折格子をつくる
 DVDは回折格子と樹脂層が重なっています。その間にカッターやはさみを入れてふたつに分けます。そして、剥がした回折格子を適当な大きさに切ります。怪我をしやすい作業ですので、大学院生が予め準備しました。

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切りそろえた回折格子

 目には見えませんが、回折格子にはレコードのように円周状の溝があります。この溝が光を分けるポイントです。

工作 DVD分光器の組み立て
 体験教室では、工作用紙を配って、設計図通りに組み立てるところからはじめました。

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工作用紙から分光器を組み立て中!

 もっとも重要なのは光の入り口です。実践では光の入り口だけ、大学院生が切り抜きました。

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DVD分光器の光の入り口

観察しよう ー白熱灯と蛍光灯の違いは?ー

 日常でよく目にする光を、自作したDVD分光器で観察しました。白熱灯と蛍光灯を、DVD分光器を使って調べました。

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白熱灯を観察する生徒さん

 まずは白熱灯の結果を見てみましょう。白熱灯は、虹と同じように、画面右から左に向かって、紫藍青緑黄橙赤の7色が帯状に観察できました。

白熱灯

白熱灯は虹のように色が分離します

 次は蛍光灯を観察してみましょう。蛍光灯は白熱灯と違って、紫、空色、緑、橙、赤の5色の線状の光が観察できました。

蛍光灯

蛍光灯は色が線に分離します

 私たちの日常にあり、同じような光に見える白熱灯と蛍光灯は、まったく違って見えることに、生徒さんは驚きました。

考えよう ー白熱灯と蛍光灯の違いー

 光以外にも、白熱灯と蛍光灯には違いがあります。たとえば、白熱灯は非常に熱くなりますが、蛍光灯はそうではありません。そこで、このふたつの光の違いから何がわかるのかについて、生徒さんに解説しました。

 白熱灯が光るのは「熱いから」です。熱をもつ物体は光を放ちます。そう。白熱灯は太陽と同じ原理で光っているのです。熱い物体が光を放つときは、帯状に色が見えるのです。

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 この発光は発熱に多くのエネルギーを使いますので、エネルギー効率がよくありません。これが白熱灯が省エネルギーではない理由です。
 一方、蛍光灯が光るのは「水銀が放つ光」です。 身近な例で言えば、花火の色と同じです。電気を流すことで、水銀に特有の光を放っているのです。

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 蛍光灯は熱としてエネルギーが放出される量が少ないので、白熱灯に比べると省エネルギーになります。ただ、水銀を使いますから、処分するときに環境に負荷がかかります。

観察しよう ー白色LEDの謎ー

 次にLEDの白色光を観察しました。まずは、安価に手に入れることができる白色LEDです。

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単波LED

安いLEDの白色光は虹のように光が分離します

 白熱灯と同じ連続した光の帯が見えました。しかし、LEDから熱は感じられません。熱を持つ物体の光と同じように見えるのに、熱が発生しません。不思議ですね。

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 次に、もうひとつの色を変えることのできるLEDで、白色光を観察しました。

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色を変えることができるLEDは赤緑青に色が分離します。

 こちらは赤緑青の3色に光が分離しました。蛍光灯と似ていますが、こちらも発熱はなく、蛍光灯と同じとは言えません。どちらも白色LED光であるにも関わらず、ふたつのLEDの結果は違います。そして、どちらの結果も、白熱灯、蛍光灯の結果と違います。
 生徒さんたちは、同じ白色LED光が違って見えることに首をひねっていました。この違いはLEDの仕組みの違いにあるのです。

考えよう ーLEDの発光の仕組みー

 同じLEDなのに見え方が異なるのは、光を放つ部分(素子とよばれます)が違うからです。安い白色LEDは発光する素子が1個で、単色の光を放っています。それがどうして白熱灯のようになるかと言うと、発光する部分の上に光を散乱させる蛍光物質が塗ってあるからです。蛍光物質によって、本来の色とは異なる白色光に見えているのです。

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黄色い蛍光物質が素子の上に塗られている

 一方で、色を変えることができるLEDは、赤青緑の3つの光る素子がついていて、テレビと同じように赤青緑の光を混ぜ合わせて白色光にしているのです。

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赤(R)、緑(G)、青(B)の3つの素子がある

 このようにDVD分光器を使うと、同じ白色LED光にも違いがあることを確かめることができるのです。そして、LEDが白熱灯や蛍光灯とは違った原理で発光していることが理解できます。
 中学生は、ふたつの白色LED光の違いを熱心に確認しました。また、今回はご紹介できませんでしたが、トンネルに使われるナトリウムランプなども観察しています。

情報共有しよう ーApple TVの活用ー

 観察結果を共有するときにApple TVが活躍しました。DVD分光器は、簡単に光の性質を確認できるのですが、スケッチの結果を確認していると、時折「違ったものを見ているのでは?」という人がいます。授業者が見てほしい部分を確認するために、Apple TVで最後に情報を共有しました。

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カドミウムランプは線がたくさん見えます

 Apple TVはWi-Fi環境がなくてもプロジェクターに投影できるので、とても便利です。最後に「どのように見えるのか」を共有することで、情報を整理することができました。カドミウムランプは、蛍光灯と同じ原理で見えているので、光の線が見えます。この線の数と色は、その物質に特有です。
 光の見え方の違い、発光原理を簡単に解説し、私たちの日常にある光の不思議について考えました。

やってみよう ーお家の光MAPー

 自分の家の光MAPを作ってみることを勧めて、体験教室は終了しました。おそらく、家の中には、白熱灯、蛍光灯とLEDが混在していると思います。しかし、どの家でも決められた場所に使われる照明があると予想します。

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予言 お風呂の照明は白熱灯のはず

 たとえば、お風呂の照明は白熱灯のはずです。これは機能からの推測ですが、なぜそのように予言できるのでしょうか。そういったことがわかるのが、科学のおもしろさです。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育