研究の心得3

研究の心得3 結果が出たら終わりじゃないぞ!

”如何なる簡単なることでも実際よく調べてみるとなかなか六ヶ(むつ)しいことが多く、世界中の学者がよっても解決の出来ないようなことが少なくはないのである。”
寺田寅彦 「研究的態度の養成」より

あなたは自由研究や課題探究をするとき、結果が出たことで満足して手を止めていないでしょうか。研究とは,実験や観察の「その先」にあるものです。つまり得られた結果について「考える」ことが必要です。

実験や観察はやって終わりではない

 実験や観察を行った目標が、どの程度達成されたのかを考えるのかは、もっとも重要な段階です。なぜなら研究の目標は、実験や観察を行っただけでは解決されないからです。実験や観察の結果によって,目標は達成されたのか,達成されたとしたら「どの程度」達成されたのか,達成されなかったとしたら「なぜ」達成されないのかを考えることが必要です。この結果について考える作業を考察とよびます。

 一例として、中学生(当時小学校6年生)が行っていた、メタンをつくり出す菌、メタン発酵菌を探す研究の例を見てみましょう。2分ほどで中学生がやっている様子を簡単に説明する動画を以下に挙げておきます。

 メタンが燃えることが確認できたので、メタン発酵菌を集めることができました。素晴らしい結果ではありますが、これは「結果」です。メタンが燃えたので、メタン発酵菌が見つかった。良かった良かったで、終わりではないのです。

研究はまだ続く1

その結果は「どのように」評価される?

 小学校までの理科の授業は「現象を観察する」ことが目標になっています。そのため、もしかしたら「何かを観察することが研究」なのだと思っているかもしれません。しかし、学校教育と研究は目標が違うのです。
 学校の授業の「目標」は、実験や観察の方法を教えることですので、この方法で良いのです。一方で、自分で研究における目標は自分で決めたものです。つまり、その目標が達成されたかどうかは、自分が考えなくてはならないのです。

考察はむずかしい?

 考察とは、得られた結果を基にして、目標がどの程度達成されたのかを考える作業です。考察は決して難しいものではありません。もし考察を難しいと感じているのだとしたら、それは達成すべき目標が曖昧だからです。もう一度、実験や観察で何を明らかにしたいのかを整理しましょう。

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データというピースは、どんな形を描くのか?

 なぜ実験や観察を行ったのでしょうか。その実験や観察で、なぜ何がどのように、わかると期待していたのでしょうか。観察を行う前、どのような予想を持っていたのでしょうか。予想と結果との違いは、なぜ生まれるのでしょうか。考察するときは、研究についてもう一度考えてみましょう。

あなたの目標はどこまで達成されましたか?

 考察で考えるのは、この点です。科学とは測ってくらべる学問です。ここでも、測ってくらべて評価する必要があります。

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測ってくらべて目標の達成度を評価する

つまり準備が重要

 測ってくらべるためには、零点、つまり基準を決めなければなりません。零点を決める作業とは、これまでの研究の基準を調べ、その上で、それらの研究と矛盾しないように自分の基準を決めることです。もちろん、基準はバラバラに決めることもできます。しかし、他の人と違った基準で判断すると、測ってもくらべることができなくなります

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つまり、準備が重要です。

 研究テーマを決めるのに全体の6割もの労力を使うのは、研究に取りかかる前に目標をハッキリさせ、先人はどのようにおなじ課題をクリアしてきたのか、そのなかで自分は何をしたいのかを決めておく必要があるからです。これらをやっておかないと、やるべきことが見えなくなって迷走してしまいます。

何がわかった?

 得られた結果は、目標の何を明確にして、何は明確にならなかったのでしょうか。どのような基準によって、そのように判断できるのでしょうか。科学は測ってくらべる学問です。データを整理して、比べることで初めてわかることがあります。

 以前に説明した、アントシアニンを使った水の硬度を調べる実験は、この良い例です。ムラサキキャベツからアントシアニンを抽出するためにお湯を使っていましたが、水道水では赤紫色(画像左)なのに、電気ポットでは青色(画像右)になったのです。データを整理して、塩化カルシウム水溶液とくらべて、電気ポット中に残っている炭酸カルシウムが原因であることがわかりました。

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水道水(左)と電気ポットのお湯(右)でアントシアニンの色が違う

 そこで次に、ミネラルがもっと多いミネラルウォーターではどうなのだろうと考えたのです。手に入るミネラルウォーターで試した結果は以下のようになりました。

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左から、温泉水MgNa(大分)、Contrex(仏)、COURMAYEUR(仏)、Vittel(仏)、竜馬の水(西予)、Volvic(仏)、CRYTALGEYSER(米)、蒸留水

 マグネシウムイオンが多いと緑色に、カルシウムイオンが多いと青色になるので、たとえば一番左と左から三番目はマグネシウムイオンが多いことがわかります。また、左側はミネラルの量が多く、右に行くにしたがってミネラルは少なくなります(一番右は0)。色の濃さで、ある程度ミネラルの量を推測できます。

 ムラサキキャベツから効率よくアントシアニンを抽出するという実験として見れば、最初の実験は予想通りではありませんでした。しかし、結果が予想通りではなかったとしても、考えるべきことはたくさんあり、視点を変えることで新たな発見につながるのです。

結果が出たら終わりじゃないぞ

 結果は終わりではなく、新たな始まりです。データが何を意味しているのかを考える習慣をつけ、正解にこだわらず事実のあとをついていくことが重要です。
 当たり前と思われることにも、不思議はたくさん隠されています。たとえば、水を凍らせるときは、冷たい水より温かい水の方が速く凍ります。この謎は今でも完全には解かれていません。当たり前のフィルターを外してみれば、結果にはかならず新たな疑問があるはずです。
 また、よく考えることで、別の方法を使っておなじことを証明できることに気づくこともあります。もしかすると、違う方法は画期的なアイディアにつながるかもしれません。そのために、考察が重要なのです。
 しかし、予想通りの結果だけを求め、正解・不正解で考えようとすると、「正解が得られにくい」ことをやらなくなってしまいます。そして、「どうしても正解しなければ」という想いが強くなりすぎるとき、研究不正行為が起こってしまうのです。

  新たなアイディアは常に当たり前を疑うところからはじまります。データから新たな視点を導く練習をしてみましょう。


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