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研究のルール違反とは

研究のルールとは,研究者同士が円滑にコミュニケーションするためのルールです。では,そのルールが守られないとき,つまり研究のルール違反には,どのようなものがあるのでしょうか。たとえば,ねつ造,改ざん,盗用は,聞いたことがあるかもしれません。では,ギフトオーサーシップはどうでしょうか。今回は研究のルール違反について解説します。

 研究にもスポーツと同様にルールがあり,ルールを知り,守らなければなりません。この研究のルールの違反は,大きく研究不正行為と望ましくない研究活動のふたつにわけることができます。今回は,そのふたつについて解説したいと思います。

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ルールを知らなければできないのはスポーツと同じ

1 研究不正行為

 研究不正行為は,いずれも「自分が行っていないことを自分が行った」ことにしてしまうルール違反です。これらのルール違反はメディアで報道されることも多いので,聞いたことがある人は多いと思います。

ねつ造 ”ありもしないことを,事実であるかのようにつくりあげること。根も葉もない事をこしらえていうこと” (精選版 日本国語大辞典)
改ざん ”文書の文字,語句などを改めなおすこと。書きかえること。現在では、多く自分の都合のいいように直す意に用いること” (精選版 日本国語大辞典)
盗用 ”他人の所有になるものを無断で使用すること” (デジタル大辞泉)

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ルールに則って勝負する

 これらのなかで,改ざんは判断が難しい場合があります。たとえば,私の専門の合成化学で言えば,物質の測定を行ったデータを読み取るとき,どこまでがノイズで,どこからが物質なのかという線引きもこれに当たります。ノイズだと思っているのは不純物かもしれません。いくつかの方法で分析して確かめますが,不純物が確認しづらい場合,データをどのように説明すべきかは悩みどころです。同様に画像で判断することの多い生命科学系でも画像をどこまで「見やすく」するかによって改ざんになる場合があります。そのため近年では,こうしたグレーゾーンをなくすために学会や学術論文誌が規定を決められています。

2 望ましくない研究活動

 望ましくない研究活動は,あまりメディアに報じられることはありませんが,研究者の間では問題になっています。現在は研究不正行為とされていないものもありますが,今後はこうした行為も不正として扱われるようになると予想されます。

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望ましくない研究活動は研究不正の入り口になりやすい

ギフトオーサーシップ ”研究における貢献をしてない著者が含まれること”
ゴーストオーサーシップ ”研究において大きな貢献をしているが著者に含まれていない著者がいること”
多重発表 ”ひとつの研究を,複数回発表する,複数に切り分けて発表する,研究データを継ぎ足して発表するなどの方法で,何度も発表すること” (科学論文のミスコンダクト,山崎茂明,丸善出版)

 ギフトオーサーシップは,何もしていないのに著者に入れてもらう側が得するように思うかもしれません。しかし,実際には有名な著者を入れることで「あのスゴイ先生が関わっているなら大丈夫だろう」と評価の目を曇らせるため,著者を入れる側に大きなメリットがあるのです。ベル研究所のヘンドリック・シェーンの捏造事件をはじめとして,いくつかの大きな研究不正事件では,このギフトオーサーシップによって,ねつ造や改ざんの発覚が遅れています。
 ゴーストオーサーシップには,ゴーストライターの場合と功績を無視される場合があります。ディオバン事件では,新しい高血圧治療薬,ディオバンの開発会社の社員が,ゴーストライターとして暗躍し,ディオバンの有効性があるようにねつ造や改ざんをしていたことが問題となりました。功績を無視される場合は,あまり表には出ませんが,とくに統計解析などの重要だが表には見えにくい内容を手伝った研究者が著者から省かれてしまう場合が多いようです。ギフトオーサーシップやゴーストオーサーシップは研究不正行為の温床となることが多く,両行為は研究不正行為となりつつあります。
 多重発表は,テクノロジーの発達によって顕在化した問題です。多重発表は,かつては当たり前に行われる研究行為の一貫でした。なぜなら研究成果を多くの人に周知できたからです。国内学会と国際学会,両方で発表すればより多くの人に研究を紹介できます。研究とは簡単に成果が出るものではありませんし,良い成果はできるだけ多くの人に知ってほしいので,同じ内容を何度も発表していたのです。しかし,コンピューターやインターネットの発展に伴って,情報は簡単に検索することができるようになりました。すると,発表は1回でも情報を周知できるようになりました。同時に,データベースに重複した情報を増やさないことが重要になりました。テクノロジーの発達により,多重発表は望ましくない研究活動とされるようになっています。

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研究のルール違反は誰にでも起こりうる

 以上が,研究のルール違反です。研究のルール違反は,「普通の人」「善い人」には縁遠いと思うかもしれません。しかし,そうではないことを私はこれまでの経験で知っています。次回は,事例を基になぜ研究不正行為をしてしまうのかについて考えてみたいと思います。

いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育