note自由研究ジュニアドクター育成塾コミュニケーション

研究と自由研究との本質的な違い

 研究と自由研究(や課題研究)とのもっとも大きな違いは「コミュニケーション」にあります。前回に引き続いて,今回は個別的な自由研究について考え,研究と比較してみます。

自由研究とは(海野,2007)

 自由研究が学校教育に登場したのは,大正時代であると言われています。大きな流れで言うと,それまでの臣民教育から自由な教育への移行期の活動の一環であり,算数や理科といった教科的な要望ではなく,教育学などの学校教育的目標をもった活動としてはじまったようです。自由研究が学習指導要領(学校教育のルールブック)に加えられたのは,戦後の1947年になってからで,「児童の自発的活動を誘って,これをによって学習が進められるようにしていくこと」という児童中心主義から設定されたようです。しかし,1951年には学習指導要領から廃止され,その後は設定されていません。現代では自由研究に学校教育として明確な位置づけはないのです。現代における自由研究とは「長期休業期間中に自由な時間を用いて,児童・生徒に普段感じている興味・関心のあるテーマについてじっくりと考えさせたい」という学校教員の願いによって実施されています。

自由研究は個別的で非対話的な活動

 研究が過去から未来に繋がる時間を超えたコミュニケーションを重視する開かれた活動であるのに対し,自由研究は興味関心のあるテーマについて個別に考えを深める閉じた活動です。自由研究は,自分の興味関心がどこから来るのかを問われることはありませんし,それについてどのようなことがわかっているのかを知る必要もありません。他者を排除した個別的で非対話的な活動なのです。

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自由研究の問題の根幹

 個別的な閉じた活動は情報を得る手段が限られるため,予想通りではない結果が得られたときに対応することができません。多くの場合,車輪の再発明にすら至らずに挫折するのです。そのため,閉じた活動では,勉強と同様に効率良く「正解」を求める方法を追い求めるようになります。
 しかし,答えを得ることが研究ではないのです。答えを得るための方法を見つけることが研究なのです。自由研究の誤誘導によって,研究の最も大事な部分が伝わっていないのではないかと危惧しています。

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異なる始点から開始した活動

 研究の目的は未知を探究することです。研究者は過去から未来に繋がるコミュニケーションを行いながら,誰も発見したことのない,未知なる「なにか」を明らかにしようとしています。そのためには非効率的地道な活動が必要です。一方,自由研究は教育的観点に端を発し,子どもが興味関心について考える機会を提供する目的で行われています。個別教育を目的としているため閉じた活動であり,意欲の継続のために正解という成果を効率良く得ることが目的化していくのです。このふたつは本質的に異なる活動です。

研究者のステレオタイプの根幹は?

 自由研究で身につけた効率良く正解にたどり着く手法は,正解を得るのではなく正解かどうかを自ら判定する研究では利用できません。正解する達成感を得たいという自由研究の考え方は,ほとんどが思い通りにならない研究では障害になります。
 そして,このまったく異なるふたつを混同し,自由研究の発展として研究を位置づけることが,以下のような研究者のステレオタイプを生み出しているのかもしれません。

研究者のステレオタイプ
「孤独」で「個別的な」活動に従事する「コミュニケーション能力の低い」人々。身なりに気を使わない,メガネを掛けた,年配の男性。

 研究者のステレオタイプについては,現在調査を行っていますので分析が進み次第,もう少し詳しいお話ができるかと思います。

参考文献

海野桃子,安藤秀俊,「理科の自由研究の系譜と附属小学校における児童の実践」,日本科学教育学会研究報告,Vol.22,No.1,99-102,2007.

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いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育

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愛媛大学教育学部の大橋淳史准教授の研究などを中心とした内容にリニューアルしました。 合成化学・生物化学・物理化学・分析化学などの研究をした後、科学教育や研究倫理教育の研究をしています。 研究、教育などについて、わかりやすくご紹介していければと思います。

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専門家である科学者と専門としない人の間には考え方に少々違いがあります。一体,どのように違って見えるのかについてまとめてみたいと思います。

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