『北の海』青春だった頃
『北の海』井上靖著、新潮文庫、その他。
井上靖の小説は以前、『孔子』を紹介しました。もっとも紹介といっても、私の紹介は本の内容にはほぼ言及しませんが・・・
井上靖は、私が現在住んでいる石川県にゆかりのある作家です。旧制の第四高等学校(四高、シコウと呼びます)で学びました。現在の金沢大学ですね。私の出身大学です。金沢市の香林坊にあるデパート「大和」(ダイワです、ヤマトではない)近くに当時の校舎が残っています。以前の石川近代文学館と石川四高記念館がドッキングして、いまでは石川四高記念文化交流館というらしい。いしかわ四高記念公園に隣接しています。
この公園も昔は中央公園と言いました。賑やかな街の真ん中なのに夜なんか真っ暗で、あっちのベンチ、こっちの木陰で、幾組ものカップルがあんなことやこんなことをしていたそうです。モノの本によれば(どんな本やら)覗きのメッカと呼ばれていたとか。
あまりよろしいことではない。今はどうなんでしょうね?
記念公園や文化交流館のあたりに行くと、井上さんはここで学んだのだなあ、と感慨もひとしお。井上さんが四高入学前(つまり浪人)の一年を描いたのが『北の海』です。入学前から四高の柔道部に入り浸り、柔道したり、すき焼き食ったりの日々が綴られています。しかしまあ、十八、九の男ってつくづくシンプルに出来ていますなあ。(私なんか二十五、六までシンプルでしたが。いや、今でも・・・)
学生時代の友人に、
「『北の海』を読んで、金沢大学を目指しました!」
という人が現実にいました。彼は当然のことながら柔道部。清々しいまでにシンプルな志望動機。私なら少々気恥ずかしい、かな?
私が金沢大学を志望したのは、
・共通一次試験(その後、センター試験となり、今年から共通テスト)での得点に鑑み、
・二次試験で得意の国語が使える、
・地元から遠い地域の、(私、関西出身)
・なんとなく雰囲気の良さそうな(世界で二つしかない、お城の中の大学!)
という、大学だったから。
『北の海』にあこがれて志望した、よりも即物的ですな。
さて、井上靖は日本文学を代表する大作家です。ごく一部を挙げれば、
『あすなろ物語』、『天平の甍(いらか)』、『敦煌』、『しろばんば』、『おろしや国酔夢譚』、『本覚坊遺文』、そして晩年の『孔子』。
どれも重厚にして長大、「小説とはこうだ」という感じの小説です。今の高校生はあんまり読まないなあ。でも、若いときに読むのがよろしい。大学生でも、大人になってからでも、とにかく読んでみて欲しい。「読書」という営みにはとてもふさわしい作家のお一人です。
映画化された作品も多い。『おろしや国酔夢譚』、緒形拳がよかったなあ。『本覚坊遺文』、奥田瑛二が利休。『敦煌』は西田敏行ね。そうそうたるメンバー。本を読む暇がないというときは映画もよし。今ならアマプラとか、ネトフリとか、手軽に映画鑑賞できますね。
先述の通り、井上さんは四高入学前一年間の浪人生活を送りました。実は私も大学入学前に一年間の浪人生活を送りました。おお、共通点がいっぱい・・・