「ジェンダー調査結果を起点に考える―私たちの目指したい社会」JFP調査寄稿文:塚口麻里子
「日本演劇領域におけるジェンダー調査2023冬」の発表に合わせ、塚口麻里子さんから寄稿文を頂きました。
「日本のパフォーミングアーツ領域におけるジェンダー調査」の結果を踏まえ、私たちの職能をどのように再定義し、また創作環境の構造についてどのように検証し、改善することができるのか。
「制作」のジェンダーバランスに着目すると、劇場規模・経営形態を問わず全ての項目で、女性が6 割以上。一方で、「製作・企画・プロデュース」は女性が5 割未満となり、「企画」「プロデュース」といったより意思決定の上層部に係る職能になると女性の割合が減少している。また集団創作を前提とする「劇団」や「カンパニー」等の組織基盤では、「演出家」や「振付家」といった芸術的な意思決定をする人がマネージメントや経営責任も兼務する場合が少なくない。そこで、男性が7~8 割を占める「演出」の調査結果から、創作・組織運営が男性によるトップダウンという家父長制的権力構造の傾向が伺える。再び「制作」の調査結果に戻ると、家父長により意思決定された実務を女性が女房役として担い支え、同構造を強化している状況が浮かび上がる。
次に、「制作」と「製作・企画・プロデュース」との間に着目してみたい。両者の間に、ある程度の実績と経験年数があると仮定すると、その過程には様々なライフイベントも起こりうる。舞台芸術業界に限らずワークライフバランスは仕事を継続するうえで課題であるが、配偶者の経済状況や、性別役割分業の慣習から、女性の方がケア労働の負荷がかかり、働き方を変えざるを得ないケースが多い。このような状況が「制作」と「製作・企画・プロデュース」とのジェンダーバランス逆転に関係していると推察できる。また、稽古や公演等、行政サービスを受けられる時間(=平日昼間)外になることが多いことも、ケア労働と舞台芸術の仕事の両立を難しくする要因だ。
自分自身の実感として、現場の理解やリモートワークの浸透等により、両立や新しいことへ挑戦できる機会も増えたが、本ジェンダー調査の結果から改めて創作環境の構造に向き合い、多様な人々が舞台芸術に参加できる基盤や風土を作らねばならないと感じた。そして舞台芸術を支える土壌を豊かにすることで、より創造的で多様な価値観を受容する豊かな社会につなげたい。
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