「映画界におけるジェンダー格差と労働環境の相関関係」JFP調査取材:白河桃子
「日本映画業界の制作現場におけるジェンダー調査2023年冬〜実写邦画・アニメ映画編〜」の発表に合わせ、白河桃子先生にインタビュー取材を実施。
「女性に才能がない、そういうところを目指していない」ということではなく、構造的な問題
今まで、こういったジェンダー格差の数値がなかったこと自体に問題があると言わざるを得ない。数値がないと可視化できません。海外は、国の機関が調査する、あるいは委託事業として、業界団体や研究機関に調査を発注している場合が多いです。
調査の結果は、予想通りではありますが、意思決定層の女性比率が非常に低い。アカデミー賞などでも、有色人種や女性の受賞が少ないという議論がずいぶん前からありましたが、これは「女性に才能がない、そういうところを目指していない」ということではなく、構造的な問題に根ざしているとしか言いようがない。男性だけで意思決定して映像作品を作っていたら、見落としがあったり、有害なアンコンシャスバイアス、ステレオタイプを再生産してしまう恐れがあります。社会のジェンダーギャップも解消されません。
特にアシスタント職には女性が多いにも関わらず、意思決定層に女性が少ないのは問題です。つまり、女性の職階が順調に上がっていかず、一つの業界の中で垂直分離が起きているということです。給料の高いところに女性が少なく、同じ業界にいても女性は給与の低い仕事のまま固定している。補助的、事務的な仕事に回され、昇進ルートから外されてしまっている。一般企業の場合、この垂直分離が企業の中で起きてしまっている訳ですが、映画業界の場合は、一つのプロジェクト、あるいは業界の中で起きてしまっているようです。
多様な働き方のない多様性は絵に描いた餅
ジェンダー格差解消の基本は、環境整備です。女性の意識改革というのがよく言われますが、環境が改善されなければ、ジェンダー格差は解消されない。多様な働き方のない多様性は、絵に描いた餅ではないでしょうか。意識改革だけしようとしてもダメで、働く場所や労働時間などの労働環境を整備することが必要です。
悪い循環なんです。賃金の安い仕事に就いているが、その仕事が好きで頑張ってしまう。そこにライフイベントが発生する。その仕事を続けたいと思っても、ケア労働を外注するにはお金がかかる。日本は女性のケア労働は男性の5 倍で、ケア労働へのサポートがなければ、またさらに仕事ができる日数が少なくなって、もっと低収入になってしまう。フリーランスだと、多くの仕事に参加することが経歴に繋がる訳だけど、そのキャリア形成からも遅れてしまう。非常に悪循環。テレビ業界でも同じことが起きています。社会でいかに、ケア労働をシェアしていくかが課題ではないでしょうか。
「この時間で終えなければいけない」
若い人を現場に引き止めるためには、仕事の効率化はすごく重要だと思います。政治家と芸能界は未だにファックスを使っているそうで、デジタルの時代に非効率ですよね。古い慣習がそのままになっている。効率化を進めるには、「この時間で終えなければいけない」という時間コストの意識の芽生えが重要。働き方改革で残業の法的上限ができるまで日本企業でもタイムカードをきってない会社が多かった。まず「時間管理していない」というところが問題です。
時間制限を設けた時に、「守るためにはどうしたら良いの?」となって初めて、効率化や工夫が生じるわけです。どの業界も「残業したらダメらしいよ」となって初めて、「時間=コスト」の意識が高くなるんです。 ITを使って効率化を進めることも重要で、テクノロジーでクリアできる課題もあるのではないでしょうか。それから、撮影の準備に関する時間についても、きちんと労働時間として考えなければいけません。「掃除するから早く出てこい」などの準備時間や、制服に着替える時間なども全部労働時間ですよね。今の時代、学生アルバイトだって知っていることです。
(取材・記事作成:歌川達人)