ジェンダーギャップ改善に向けて必要なこと(JFP取材vol.03)
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ジェンダーギャップ改善に向けて必要なこと(JFP取材vol.03)

三浦まり
上智大学法学部教授。パリテ・アカデミー共同代表。米国カリフォルニア大学バークレー校で政治学博士号取得。専門はジェンダーと政治、福祉国家論。主著に『日本の女性議員:どうすれば増えるのか』(朝日選書)、『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店)など。パリテ・キャンペーンやパリテ・カフェの活動も行っている。

日本社会では、文化(映画業界)だけでなく、政治や経済、教育などあらゆる分野でジェンダー格差、女性差別があります。世界経済フォーラムが国ごとの男女格差を指数化する「ジェンダーギャップ指数」で、今年、日本は156カ国中120位。女性の政治参加を促す活動をしている三浦さんに、日本社会のジェンダー格差が及ぼす悪影響について話をききました。


1)ジェンダーギャップと映画について

ージェンダーギャップ指数は、政治、経済、教育、健康の4分野での男女比が調査対象で、映画など文化分野は対象外です。ですが我々JFPの調査でも明らかになったように、映画でも政治など同様、男女比の偏りがあります。

 映画界のジェンダー格差は大きな問題だと思います。映画は、多くの人々の意識を変える強い発信力がありますので。 

 性暴力の根絶を掲げた「#MeToo」運動の発信源は、米ハリウッドですよね。#MeToo以後、とくに欧米のエンタメの分野では、作り手がジェンダー平等をとても重要視し、それが作品に強く反映されていています。例えば、近年のディズニー映画をみても、力強く、自分の人生を切りひらく女性が描かれています。韓国映画・ドラマでも、ときには男性よりも遥かに強い女性が登場するのがほぼ定番になりつつあります。

 グローバルな市場を意識した海外の映画やドラマを見慣れてしまうと、日本だけが価値観をアップデートできず、ガラパゴス化していくのではと危機感をおぼえます。


2)ジェンダーギャップを改善するために

ー三浦さんは、女性やマイノリティーの政治参加を支援する「パリテ・キャンペーン」を展開され、女性政治家を養成する「パリテ・アカデミー」の共同代表をつとめています。なぜこういった活動を始められたのですか?

 ジェンダー格差指数が世界120位というデータが示すように、日本は世界的にみても女性政治家の割合が低いです。日本では雇用形態や賃金、ハラスメントや暴力被害などで様々なジェンダー格差がありますが、政治の場に多様性がないと、こういった課題に対する政策決定に歪みが生じてきます。

女性は自分のことだけではなく、家族のことを考えながら決断する傾向があります。「政治家になりたい」と思っても、周りに反対されたらあきらめる女性が多いです。一方で、男はあまり考えずに出馬しちゃうから、家族は支えるしかない(笑)。男性はそうやって能動的にチャンスをものにしていきました。
 女性政治家の少なさを「女性の担い手が少ない」「女性のやる気がない」とするのではなく、ケア役割を負っている女性を支えられるようなシステムを考える必要があります。

 「パリテ」とは、フランス語で「均等、同数」という意味です。フランスでは、2000年にパリテ法と呼ばれる法律が制定され、男女の政治参画への平等が促進されました。ちょうど2021年7月号の雑誌『世界』にクオータ制(議員や閣僚、政党の候補者などに女性を一定数割り当る制度)について書いています(※参照1)が、女性議員を増やした諸外国をみていると、その多くがクオータ制を導入しています。ですが、日本の政党はクオータ制に消極的です。
 だからこそ、市民社会で女性の政治参加を促す場を用意する必要があると考えて、「パリテ」の活動を始めました。参加者の多様な顔ぶれをみていると、「今の社会がおかしい」と感じて、変えたいという女性はとても多いと実感しています。

3)女性の参画に必要なこと

ー女性の政治参加の障壁として、三浦さんは選挙や政治の制度の不備だけではなく女性たちのネットワークの重要性や、「女性の自信のなさ」にも目を向けるべきだと訴えていらっしゃいます。これは映画業界でキャリアを積む女性たちにも共通していると思われます。

政治の世界では、女性がキャリアをつむ上で、「三つのC」が大事だと言われています。

1つ目のCが「Confidence (自信)」
男性と女性では育てられ方や周囲からの期待が異なります。男性は、失敗から学んで成長したり、夢を追ったりすることが周りから称賛されます。
映画やドラマ、漫画などでも、男性主人公たちがリスクをとりながら成長していく物語がたくさんありますよね。

一方で、女性は周りからなるべく失敗しないよう、傷つかないようアドバイスされて育ちます。一昔前の映画やドラマで登場するヒロイン像は、「男性から愛されて選ばれる存在」です。でも、まわりからの評価で価値を決められてしまうと、自分自身をありのまま肯定しづらいです。成功しても「運が良かっただけ」「偶然うまくいっただけ」などと思い、自分の実力を認められない「インポスター(詐欺師)症候群」にかかってしまう。
ディズニー映画「アナと雪の女王」では、「自分の能力を隠す必要がない」、「ありのままの自分を好きになろう」というメッセージを強く打ち出しました。ですが、日本の映画やドラマでは、ああいう女性像がなかなか見られないです。

現状を変えるには教育がとても重要です。パリテ・アカデミーは女子校のように女性だけの空間で、ありのままの自分を肯定していく場作りをしています。失敗しても構わないし、それをみんなで乗り越えて、安心できる空間で成長していく体験を積み重ねていくーー。そういう場がもっと日本にも必要だと思います

ちなみに2つ目のCが「Capacity(能力)」は 政治家になる必要なスピーチの能力と言ったものです。これは練習である程度磨けます。選挙チームの運営やメディア対策などといった知識も必要です。

3つ目のCは、「Community(コミュニティ)」。志を共にする仲間たちの連携は、女性の政治家を増やしていくうえで、とても必要です。
 パリテ・アカデミーでは、同じマインドを持った人たちが集い支い合えるような場としても機能しています。女性の議員や候補者に対する誹謗中傷やハラスメントはとてもひどいです。同じような立場の女性が集うことで、情報交換をしたり、励ましあったりしながら対処方法を探り、孤立することを防げます。

4)労働環境とジェンダーギャップの関係

ー3つのCは映画業界の女性にとっても必要ですね。私は以前、映画制作を学べる大学や教育機関における女子学生の数を調べました(朝日新聞、2019年※参照2)。ここ20年大学で映画制作を学ぶ学生の男女比はほぼ同じですが、いまだに女性監督の数はわずかです。

その記事化の際にも三浦さんに話を伺いましたが、政界同様、映画界で女性がキャリアを続ける大きな障壁として、不規則・長時間労働があります。映画業界では「朝6時に家をでて終電で帰れたらいい現場」というような過酷な状況でして、声をあげることすらできないそうです。

 長時間で劣悪な労働環境を理由に去っていく人には、女性が多いです。政治の世界も不規則・長時間労働が当たり前になっています。女性の参入を増やすには、その為の環境整備が必要です。政界も労働環境が今のまま、女性議員を50%にするのは絶対に無理です。

 ジェンダー格差の改善と、労働環境の改善は表裏一体です。ジェンダー格差や長時間労働時が生じてしまう状況を論理的に整理し、統計データと合わせて構造的な問題として検証していく必要があります。

5)JFPに求められること

ー我々JFPはジェンダー格差の解消とともに、アンケート調査などをして映画界の労働環境を改善するための問題提起をしていきたいです。
  
 映画制作において誰に決定権や責任があり、お金の流れはどうなっているのかと全体の流れを見極めて、当事者の声をどう届けるかが重要だと思います。
 日本が変われるとしたら、「かつて映画大国だった日本が、どうやら今はそうではない。お隣の韓国はアカデミー賞もとって映画産業が大きく発展している。日本は『やりがいの搾取』のような働き方をさせているから、いい映画ができないんじゃないか」というような世論形成が必要になってくると思います。

日本にも才能ある人材はいっぱいいるのに、なぜうまくいかないのか。映画を作る仕組みや業界のあり方に問題があるのだろうと思います。海外と日本の働き方を具体的に比較して、問題が可視化されると、世論が味方してくれるのではないでしょうか。重要なのは「どういった構造で、誰に決定権があって、どこを変えなくてはいけないのか」です。

 いい日本映画をもっとみたい人は多いはずです。俳優やスタッフが疲弊して使い捨てられるような現場で作られた映画はみたくないですよね。制作者側も映画が世に受け入れてヒットさせたい訳ですから、利害は一致しているはずです。「低予算・低利益のスパイラルに陥っていないか。もう少し高い予算・高い利益の映画を作るためのシステムを前向きに模索しませんか」ということです。

 どこをマーケットにするかも重要です。国内の市場だけを意識した前時代的な作り方だと、ガラパゴス化が加速して、国際市場からの興行収入も見込めず、結果として製作予算の低下に繋がっていくのではないでしょうか。国際的な視聴者を相手にするなら、人権意識をアップデートすることが不可欠です。

 グローバル化で人の流れが自由になり、優秀な人材は良い賃金と労働環境を求めて、欧米や中国など待遇のいい国へ移動する話を頻繁に耳にします。それは日本にとって大きなマイナスではないでしょうか。現在のような劣悪な労働環境で、ジェンダーギャップも改善されないならば、持続性も将来性も乏しい。映画業界に限らず、この問題はあらゆる産業で日本が直面している課題です。つまり、低賃金路線はジリ貧であって、日本は人権をベースにクリエイティブな社会へと変革をめざすべきではないでしょうか。

(聞き手・伊藤恵里奈)

参照;
1 「世界」 2021年7月号(岩波書店)
┃特集2┃さらば、オトコ政治
〈「逆差別」ではない〉クオータの取扱説明書(トリセツ)――なぜ候補者を女性に割り当てるのか  三浦まり(上智大学)

2 「男女均等へ、どこまで変われるか 政界と映画界に共通点」(朝日新聞 2019年1月21日)
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