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会う、会わない、会いたい、会えない

出張だったんだ。

Facebookにはホテルからの夜景とご当地グルメ、知人と一緒に撮った写真がアップされていた。公開範囲指定の投稿。まだ私は入れてもらえるんだね。

タイミングがずれてしまったのだと思う。私は数日前に友人と永遠の別れをしたばかりだった。深い悲しみの中にいる私と、仕事は忙しいけれど充実しているという彼では心の色が違いすぎた。ピースサインの笑顔が知らない人みたいだ。

大変さを楽しんでいるような文章は、めでたしめでたしという言葉で結ばれている。でもどこか寂しそうにも見えてしまうのは私だけなのかな。がんばったねという言葉をかけてしまいたくなったけれど、その役目はもう私ではないんだよね。

心が同じ方向を向いている時は自然にテンポが合うものなのかもしれない。夜更かしする日も会いたくなる日も同じことが多かった。いつもと違う道を通っても出会えたことが何度もあったし、イベントごとに雨を降らす能力だって一緒だった。雨オトコの彼と雨オンナの私、クセのある毛がポソポソになっても、スカートの裾が汚れても気にならない、雨が降るたびに 繋がれるようでワクワクした。雨の神様がいて、二人の恋を味方してくれているなんて本気で思っていた。当然彼も同じ気持ちだと疑わなかった。

職場が離れた時から少しずつテンポが変わり始めていたのだと思う。新しい仲間に馴染もうと必死だった彼の前で私は泣いてしまった。営業の〇〇さんがトラブルメーカーなんだ、協調性がなくてみんな困ってるんだよ。後輩が本社の女の子のことを好きでさ、相談されて。すごくかわいい子だからそりゃみんな好きだよって言ったんだけどさ。

せっかく会えたのになぜそんな話をするんだろう。急に会えなくなって不安なのに。聞きたいのはほかの女の子の話じゃない。大丈夫、安心していいよって言うのが先だよね。オレの気持ちは変わらないからって抱きしめてよ。相槌もうまく打てず、理由も言わないまま私は泣き続けた。恋愛指南書に出てくる面倒な女のサンプルになれそうなほどの醜態。

今ならわかる。仕事の愚痴をこぼさない彼があの日私に話したのは、一番近いところに私を置いておいてくれたからだ。でも私は心に湧き上がる嫉妬や不安に飲み込まれて受け止めることができなかった。あとでわかったことだけど、私の存在を友人に伝えていなかった彼には、女の子を紹介してあげると言う話がいくつも出ていたらしい。一緒にいても自分の思い描く幸せは手に入らない。揺れる気持ちの中、彼は私に忠実であろうとがんばってくれていた。大切に思われていたことに気付けなかった私が未熟だったのだろう。

翌日、いつものLINEがなくて初めて不安になる。連絡をすると、もう会わない方がいいのかもしれないと返信が届いた。その理由を自分の嫉妬のせいだと思ってしまった私は、謝って、とにかく会って話したいと繋ぎ止めた。それから1年半近く私を突き放さなかったのは彼の優しさと弱さの両方。

私が愛だと思っていたものは彼にとってなんだったのだろう。今さら知ったところで何も変わらない。けれど無くしてしまった心のピースがその部分である限り、私は探し続けてしまう。小さな隙間から溢れ続けているものは、本当に大切に育てていたもので、このままでいたらいつか私自身が壊れてしまうから。

私が泣いた日から彼は変わってしまった。一切仕事の話をしなくなり、聞かなければ自分のことも話さなくなった。二人で何かしたいと言う未来の話も、名前で呼ばれることもほとんどなくなった。普通ならそれを答えだと思うだろう。でも私は光を信じてしまった。傷つくのを恐れながらも私の手を離さないのなら、彼を安心させることだけをしようと決めた。それが二人の未来につながるのだからと。

子供がいる。すぐには手放せない生活がある。時間も環境も彼を最優先にできない立場で彼を咎めることはできない。言えない気持ちが増えていく。私と息子の未来をあなたに背負わせるつもりはないから安心して。物分かりの良いフリをするしかなかった。本当はそんな嘘、すぐに見抜いて欲しかった。

私らしさが抜け落ちた別の生き物。
彼が好きでいてくれた私はずっと前に消えてなくなっていたんだね。


「結婚を考えてたの?」

結婚を考えていないと思ってたの?

言えなかった。
タイミングがずれてしまったのだと思う。


ーーー


幸せだと信じて二人で過ごしたクリスマス、
彼は私に、会わないほうがいいのかもではなく、
次で終わりにすると言い切った。

最後の日に指定された私の誕生日が近づいてくる。


会う、会わない、会いたい、会えない


答えはまだ出せない。


出会って初めて
何もしないバレンタインデーが終わった。


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