見出し画像

【資格は自覚、ソムリエバッジを外して気がついたサービスマンの心得】

私がソムリエになったのは11年前。「資格取得はゴールではなくスタートである」という言葉をよく聞きますが、当時の私は正にそれを実感し妙な焦りを覚えていました。

ソムリエバッジは手にすることができたけれど、これで本当に「ソムリエ」と名乗っていいのだろうか?という感覚に陥りました。

ソムリエ試験の範囲には「ワインと料理の相性」の知識も当然求められます。

しかし、教本に登場するそれぞれの郷土料理とワイン、その定石めいた組み合わせを丸暗記さえすれば点数は取れます。

そこに大きな矛盾を感じました。

ワインは食中酒ですから、まず料理をしっかり理解しなければならないと思い立ち、私はそこからソムリエバッジを外し、2年間調理場で仕事をすることを選択しました。

当然ですが、甘くはありません。

ホテルのバンケットの調理場、何をするにも、その量の多さに驚く毎日です。それまでナイフもろくに扱ったことがないような私は、まずはサラダ用のレタスを手でちぎることから始まり、鍋洗いはもちろん、一日中玉ねぎの皮むきとみじん切りをこなしたりと、サービス側にいるだけでは到底経験できない世界を垣間見ることができました。

2年間という短い期間でしたが、一つの形として調理師免許を取得してサービスに戻りました。自信を持って何か得意料理を作れるようになったわけではありませんし、たったの2年で知ったようなことを言える立場でもありません。

ただ私は、一つの料理を完成させるために、非常に多くの時間と労力をかけて行われていることを体感できました。それまではそういった背景を全く理解していなかった為、あまりに端的にお客様へ料理を供出していたことに気がついたのです。

基本的に料理人はお客様へ料理を出せませんし、直接反応を見たり感想も聞けません。(オープンキッチンは別です) サービス側はそういった背景を伝えきれているのだろうか?というもどかしさなど、料理人の気持ちを知れたことが何にも変えがたい経験でした。

例えば、現在私がソムリエとして従事するフランス料理店はいわゆる高級店で、当然お客様が求めるハードルも非常に高いです。

良い素材を使用しているのはもちろんですが、料理人が大勢いて、素材の下処理をする人、素材に火入れをする人、ソースを仕上げる人、添え付けの野菜を何品か仕上げる人、それぞれの仕事に分担があって、一皿の料理を4人がかりで作ったりします。

そうすることで料理の複雑味も増し、必然的に完成度も高くなります。

その料理を最終的にテーブルまで運ぶサービスマンと、同じく最良のワインを料理とお客様に合わせて提案をするソムリエは、ただ漠然と業務を遂行するだけではなく、生産者、料理人の想い、完成に至るまでのストーリーを伝えることが重要なのではないでしょうか。

レストランとは、料理やサービス、雰囲気などを総合的に楽しむ場所です。お客様が存分に楽しむために必要な最後のピースは、私たちサービスマンの心がけひとつです。

これが2年間コックコートを着たことでたどりついた、普段のサービスにおける私のポリシーです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?