撃つなら頭、噛むなら首を

「首尾は」
「予定通りに」
 それだけ言って電話を切る。男のこめかみを右から左へきれいに撃ち抜いたおれの弾丸。死体を片付けるのは別のものの役目だから、望遠確認だけで立ち去っていい。
 モッズコートのフードをかぶり、鼻から下はネックウォーマーにうずめて歩く。下はワークシャツ、防弾着、リーバイス、足元は編み上げのブーツ、背中にはギターケース。中身がこの世でいちばん美しい愛機のライフルなのは、おれだけの秘密ではあるけれども。
 すれ違った小柄な男の肩が軽くぶつかる。おれはイヤマフを外しながら、とっさにしゃがみ込んで歩道に伏せた。男の脚が、頭のあったところを正確に狙っている。鉄板入りのブーツと、そこから引き抜かれたナイフ。
「これで終わりのわけがないと思ってたんだ。次は何の試験だ?」
 男は答えるはずもなく、右手をふりあげて切りつける。腹と顔をかばうので腕がやられる。おれは手首を蹴って武器を落とそうとするがうまくいかない。ネックウォーマーを引き下ろして叫ぶ。
「リタ!カム!」
  爪の音と荒い呼吸を響かせて、男の背中に悪魔のように黒い塊が飛びかかった。男は混乱して声を上げる。黒い悪魔、猟犬プロット・ハウンドのリタ。おれの相棒。
「オーケー、バイト」
 リタは深々と男の首に噛みつく。おれはそれを外させてナイフで仕上げした。完全に動かなくなったことを確認する。
「助かったよ。いい子だ」
 獲物を仕留めた時の猟犬は笑う。それはもううれしそうに。おれはリタの頭と胴をわしわしと掻き回してほめてやった。
「見事だ。犬がいるとはね」
 ふいに背中から声がする。ここまで気配が全くない。長い黒髪に漆黒のスーツの女が、サングラスを外しながらこちらを見下ろしていた。
「合格だ。君を正式にチームに迎える」
「おれだけか?」
「ふたりとも来い。いい子にしていられるかな」
 女がそう笑いかけると、リタはうれしそうにワウ、と吠えた。

(続く)

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