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聖少女35番

 2036年2月10日。「聖少女」35番、155cm、38kg。推定年齢 20~23歳。
 2月1日、ヨコタ基地にて保護。保護時は脱水症状、極度に衰弱していたが、加療5日目から経口で食事をとれるようになる。以下、本人インタビューの録音。


 ここは安全なところですか。わたしの言葉がわかりますか。わたしたち、あまり外の人と話すことがないので、うまく話せないです。政府の人ではないのですね?
「貴国のものではない。私はここの軍部のもので、スコット・エリスンという。名前は言えるか?」
 35番です。わたしたちには固有の名前はありません。
「ここはわれわれの軍の病院だ。安全で保護されている、心配しなくていい」
 ありがとうございます。わたしは「東」から逃げてきました、この敷地内に入ることができれば、助かるかもしれないとわたしたちは信じていたので。
「一人で来たのか?」
 はじめは8番と47番も一緒でした。8は「学園」の柵の送電有刺鉄線に感電しました。47は追ってきた政府の人が撃って死にました。
「なぜ逃げて来たんだ、君はどういう人間だね」
 わたしたちは「聖少女」です。「東」では、下級市民の女の子どもは生まれてすぐに政府の「子どもの園」に引き取られ、初潮を迎えるまではそこにいます。「先生たち」が育てます。そのあとは、まず「奥」に行き、少し歳をとると「学園」に行きます。わたしたちは「学園」にいた。
「『奥』とはなんだ?」
 男が来る場所です。「奥」の女たちは若いので、男がそれらを選びます。「奥」の女の仕事は、「愛すること」です。
「『学園』は?」
 わたしたちがたくさんいる場所です。子どもを産める歳の女たちです。「学園」の女の仕事は、「産むこと」です。
「君たちはそこで何をしていたのかね?」
 わたしたちはいろいろな薬によっていつでも子を−ニンシン?妊娠できるようにされています。わたしたちは上級国民の代わりに子を産みます。子を欲しい上級国民は、「学園」に頼むと、適切なわたしたちを派遣される。それは「種付け」と呼ばれます。わたしたちはジュセイラン?人工的なそれを子宮に入れることもあるし、精子だけを入れることもあります。上級国民の女性は子を産むという仕事から解放されました。
「ひどい話だな…代理母にするために隔離して育てられていたのか」
「奥」よりは「学園」の方が安心です。男に襲われることがないです。子どもを産むのは辛いですが。
「君ももう出産を経験しているのか」
 はい。わたしは12歳から8人の子どもを産みました。女の子どもは上級市民の子どもになるはずでしたけれど、いらないと言われて「子どもの園」に来たものもある。男の子どもはとても喜ばれます。
「君たちはそれで…その先どうなるんだね」
 わたしたちは35歳までは子どもを産みます。それを超えると、「子どもの園」の「先生」になる。若いわたしたちを育てます。たいていの「聖少女」は40歳までに死にます。子どもを産む回数が多すぎるのでしょう。
「かわいそうに」
 わたしたちは優秀な男の遺伝子を残し、広めるためにあります。そのために毎日の生活環境、食べ物、運動など管理されています。
「生活に制限があるのか」
 わたしたちはー書くこと、文字が禁止されている。口でしか話せません。いま話したこと、すべて少しずつ他の女たちに聞いたものです。話すのも厳しい制限があります。わたしたち−8と47も−は規則をやぶったので、外に出されて、それで逃げました。屋根と食べものがなかったので。
「そうか、辛い話をさせてしまったな。今日のところはここまでにしよう。少し休みなさい」
 ありがとうございます。


 以上、インタビュー終わり。安静にさせて経過を見る。
 一体、この国の制度はどうなってるんだ?こんな隔離施設があったなんて。鎖国してから15年間、どうやって人口を維持していたのか長年疑問視されていたが、これが有力な糸口になるかもしれないな。本日の報告終わり。


テーマ: 拡散する種
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