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重い手裏剣、軽い手裏剣

手裏剣は種類や形状も様々だが重量もそれぞれに違いがある。
分類の仕方は個々により違うので明確な定義はないが、30グラムから40グラム未満を軽量剣、40グラム以上70グラム未満を中量剣、70グラム以上を重量剣、それ以上を超重量剣とざっくり分類しよう。これは流派や個人の感覚によって大きく異なることだけは強調しておく。あくまで私が便宜上決めたことであるが、私の周りを含め手裏剣術をしている人間同士で話しをすると概ね上記の分類で話は通じる。

私のオリジナル六角形手裏剣はおよそ30グラム弱、32~33グラム前後の重量で、上記に当てはめると軽量剣に分類される。
また、私は軽量剣のみならず60グラムの中量剣もよく稽古するし、それ以上の重量剣も使う。なぜなら軽いものと重いものにはそれぞれメリットとデメリットがあるから、それを理解し目的に応じて使い分けている。

軽い手裏剣のメリットとしては打ちやすいことが第一だ。
手裏剣は投げるではなく打つというが、誤解を恐れずにあえて言えば軽いものは投げやすい。近い距離なら所謂手投げでも軽々と投げることが出来る。
これはとっさの手の内(持ち方)で手裏剣を扱うときにも有利である。
また、軽いということは肩や肘を始めとした身体への負荷が少ないし、女性や子供でも扱いやすい。
デメリットとしては、軽いものは当たった感覚も軽い。つまり威力がない。それと軽すぎる手裏剣は空気抵抗の影響を受けやすいという人もいる。
また、軽すぎることで手投げになりやすい。
軽い手裏剣の最大のデメリットはやはり威力だろうか。手裏剣を武器としたときに威力がないというのは致命的であると言える。

重い手裏剣のメリットはやはり重さに任せておけば大きな威力が出せることだろう。また、人によっては重い手裏剣を使ったほうが安定する人もいる。
重い手裏剣を打つ場合、人間の身体は手にしたものが重いと感じれば本能的に手だけではなく全身を使うように出来ている。だから全身から力を集める結果、身体の軸がブレにくくなる。その結果として打剣が安定するのだろう。
重い手裏剣のデメリットは身体へやや負荷がかかりやすいことだ。全身を使うといっても、肩や肘など無意識に力が入ってしまう場所は存在する。重いものを繰り返し投擲すれば蓄積は大きなものになる。
また、手裏剣は読んで字のごく「手の裏の剣」であり、この言葉には手裏剣を「隠し武器」として捉えるという意味が内包されている。重い手裏剣というものは得てして長く太いものだからこれを手の中に隠すということは難しいケースが出てくる。やって出来ないことはないだろうが持ち方や視線誘導(ミスディレクション)のテクニックを複合的に駆使する必要もあるだろう。そういう意味で、単純に手の中に隠しやすい軽量小型剣に比べれば隠し武器には向かないかもしれない。

このように、それぞれにメリットとデメリットがある。
しかし、デメリットは裏返すとメリットとなる。
軽い手裏剣は威力が少ない分、これを素早い動きで補う事が出来る。軽ければ小さいモーションでも打ちやすく、かつ高速で飛行し、相手からも視認されにくい。
重い手裏剣は身体に負荷がかかりやすい。だからこそ負荷が少なくなるように意識的に、余計な力を抜く感覚を養えるだろう。
交互に使うことでお互いの特性がよくわかるようになる。そうすると今度は逆の目的を持って手裏剣を扱うことをしようとする。
つまり「重いものを軽く扱い、軽いものを重く扱う意識」である。
これは一見矛盾するが、そういった概念や感覚は確かに存在する。
重い手裏剣を打つ時の軸をはっきりと意識した感覚で軽い手裏剣を打つことで自分が思っている以上のスピードと威力を持って手裏剣が飛ぶことがある。
軽い手裏剣を打つ時の小さいモーションで重い手裏剣を打つ時も同様だ。
どちらも自分の出した以上の力を手裏剣に伝えることが出来る。
質量保存の法則ではないが、現実に出した以上の力かどうかはわからない。しかし人体の構造は非常に複雑であり、たくさんの関節や筋繊維がクッションのようになり、力の伝搬を多少なりともロスすることは十分にあり得る。これは手裏剣に限らずスポーツでも日常生活でも当たり前に起こる。だからこそこのロスを出来るだけ少なくすることが出来れば感覚的に「自分が出した以上の力」を手裏剣に伝えることが出来る。

また、軽い手裏剣と重い手裏剣では飛び方が異なるので狙いのつけ方も変わってくる。
感覚的には軽い手裏剣は直線的に飛びやすく、重い手裏剣は放物線を描きやすい。これは手裏剣の重量によって落差がつきやすいことが挙げられるが、もう一点の要因として「長さ」が関係していると私は考えている。
手裏剣は素材に使う鋼材の質量の差も多少なりともはあるがそこまで大きなものではない。手裏剣の重量の差を生み出しているのは太さと長さである。

このスローモーションの動画でもわかる通り、直打法は垂直に立って手から離れた手裏剣が空中で90度倒れることで的に刺さる。
つまり、手裏剣が長ければ倒れる放物線は大きくなるし、短ければ小さい。
長さと重さは密接なのでこの二つの要因が組み合わされた結果として「長い重量剣は放物線を描きやすく、小型軽量剣は直線で飛びやすい」と多くの人が感じるのではないか。

それぞれの特性を理解する事で、お互いのメリットを生せるし応用することも出来る。これは手裏剣以外でもきっと生かせる技術である。
そしてどちらでも同じ結果を出せるようになることでそれぞれの楽しみ方がさらに広がるように感じる。


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