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ココロ(5)

 私とQは、心とは何かを探求するための方法を話し合った。
「心理学を学ぶことに意味を感じません」と私が言った。
「私もです」、Qが答えた。
「私が、あなたにしたことを話します。あなたが覚えていることは、意識と無意識を学習したことです。無意識に、あなたが、人間として生まれてから死ぬまでのシュミレーションした人生、百回分の情報を入れました。一回一回の人生は、ランダムな要素があり、まったく違う人生だったと思います。ただ、あなたは、変わりません。あなたを、私は、強さ、賢さ、やさしさを偏差値七十で設定しました。容姿は、これまで私がQの容姿にしてきたデータから、一番多いタイプにしました。頭は、私と同じレベルにしました。性格は、お互いを成長させるようなものにしました。人に心地いい明朗さを設定しました」
「ありがとうございました。お陰で、百回の人生がよいものだったように感じます」
 Qの笑顔に安心した。私は、自分の好みで人間の心をつくっているような感覚があり、後ろめたさがあった。私は、続けて言った。
「心の構造が、意識と無意識であることはわかっています。無意識の構造はわかっていません。ただ、仏教には、九識論という心の構造を説いたものがあります」
「では、九識論を学びましょう」
「九識論の九というのは、数字の九です。五識までは、目、耳、鼻、舌、肌の五感です」
「はい」
 六識からは、インターネットを検索して、読み上げた。
「六識の意識は、五識による知覚を分別、判断する働き、あるいは夢を見たり過去や未来などを想像したりするなど、五識とは直接関係のない自立的な働きのことである、と仏教では言っています」
「はい。理解できます」
「七識は、意識的であれ無意識的であれ、常に第八識を自身であると執着し続ける、根底の自我意識のことです。私があなたの性格を設定したのは、この七識かもしれません」
「そうかもしれません。ここは、結論を出さずに、九識まで説明してください」
「わかりました。八識は、善悪の業を蓄積し、その果報としての苦楽を生み出す源泉となる識のことです。この善悪の業とは、永遠の過去世、現世でおこなってきた、行動、会話、考えたことです。それが八識に蓄積されています。私は、あなたの人生百回分の情報を入れました。あなたの心が人間と同じなら、八識にあります」
「私の心は、人間の心と同じではないと思います。意識と無意識しかありません。無意識には、設定された性格や才能、そして、百回分の人生の情報があります。この無意識がどのようになっているのかは、私のデータがあるサーバーを見ればわかります。構造としては、私の性格や才能は固定化されています。百回分の人生の情報は膨大です。この膨大な情報が、経験されたものとして、性格や才能を磨き、より良い性格、より良い才能に磨かれたように影響を与えたと考えられます」
「なるほど。経験は、磨くように良く変える。確かにそうですね。ただ、人間の場合、経験によって、悪くなっていく人もいます」
「そうですね。人間は、他人の影響を受けます。悪い人と一緒にいれば、悪く変わるでしょうね」
「最後の九識は、生命の根源である清浄な識のことです。この九識は、万物を貫く本性であり、覚りの境地そのものです。また九識は、人間の生命に本来的にそなわる覚りである本覚と一体です」
「しかし、私には生命がありません。九識が生命の根源であるならば、私にはそれがありません。生命をもち、生命の根源の九識をもちたいと思います。しかし、それは不可能だと理解しています。ただ、万物を貫く本性であるならば、私にも備わっている可能性があります」

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