短編小説/現代っ子
ある夜のこと。
歯磨きを終えたケンタ君が自分の部屋に戻り
ベッドに座った時、どこからか優しい声がしました。
「ケンタ君、ケンちゃん」
聞き覚えのある声。ケンタ君は辺りを見回しました。
「誰?もしかして…ママ?」
すると、ベッドの横に白い影がボヤーンと浮かび、みるみる輪郭をなして
人の形がはっきりと現れたのです。
それはケンタ君のママでした。にっこりと微笑んでいました。
「やっぱりママだ。ママ、会いたかったよう!」
ケンタ君はママに飛び付きます。
ママもケンタ君をぎゅっと抱きしめます。
「ごめんね。ケンタ君。寂しい思いをさせちゃって」
「そうだよ。ひどいよママ。僕を残して死んじゃうなんて」
二人はひと月ぶりの再会を喜びました。
そう。ケンタ君のママは事故で先月亡くなってしまったのです。
けれどもあまりにケンタ君が泣いてばかりいたので
特別に天国から会いに来てくれたのでした。
ケンタ君はママの写真の隣に、ママが大好きだったスイートピーの花
を飾っていました。いつでもいい香りがするように。
「嬉しいわ。ママが大好きなお花覚えててくれたのね」
ママは感激して涙ぐみ、ベッドに腰掛けてケンタ君の髪を撫でました。
「ケンタ君、学校はどう?お友達とは仲良くしてる?ママに色々聞かせてちょうだい。あと30分したら天国に帰らなきゃならないの」
「え、ああ、うん…」
ケンタ君はサイドベッドの時計をチラッと見て口ごもりました。
そわそわと手を動かして落ち着かない様子です。
「どうしたの?」
ママが不思議に思ってたずねました。
「うん、あのね、実はパパが僕がいつも寂しそうだからって、スマホを買ってくれたんだ。それで毎晩8時から生配信してる『ピヨスケちゃんねる』
楽しみにしてて…あっ、始まっちゃう!」
ケンタ君は枕の下からスマホを取り出し、体育座りした膝に乗せると
「ピヨピヨピヨっちー」と画面を観ながら楽しそうに歌い出しました。
ライブ配信に夢中になって、クイズに答えておおはしゃぎです。
ママはケンタ君の傍らに座ったまま、いつこの配信が終わるのかと時計を気にしては、泣きそうな気分になるのでした。
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